Sky Lord
05.GUNS & DANCE!
 動くぞと言われ、は今後のプランを練り直す。
「ひとまず、ホテルに誘い込みます」
「わかった。向かおう」
――さってと。どうするかなぁ。
 などと陽気に考えながらも、その内容は物騒だった。
――この際、五人目をで釣るか
 さてと、事情を話さずに泳がせるかね。
 などと車を運転しながら、は考える。
 まぁ、死体になって帰ってきたら責任は俺が取ればいいだけだしな。どうせ死人に口なしだ。
 とその時にキィィンと耳鳴りが定期的に鳴る。


 忠告は無駄だったようね
 あれで手を引くあんたじゃないのは分かってる
 それにしても、随分可愛い荷物連れてるじゃない

 なるほどな。
 筒抜けって訳か。
 でもなマチルダ。
 お前にはもう一芝居やってもらうぜ?


 指向性を使っての領域でモールスを送り合う。
 隣に座っている
「先生……これ、なに?」
 と反応していることからして、車の中という狭い中でのピンポイントの指向性領域展開はできないようだな、とは分析する。
「モールス状に送ってる領域だ。俺に向けて発してるんだよ」
「モールス?」
「そ。通信方法の一つだ」
「なんて、言ってるの?」
「鴨が葱背負って、ついでに鍋まで持ってきた」
「は?」
「それにしても、なんでそんなのが使えるのかとか聞かないんだな」
「確かに領域をそんな使い方するなんて信じられないけど、でも……先生は使えるんでしょ? だから、聞きません」
「へぇ。だいぶ成長してんじゃん」
「そりゃ、まぁ……」
 沈黙が落ちそうになるのを、が遮った。
「これからホテルで話し合いがある。一先ず戻るぞ」
「はい」
 そんな会話をしながら、車は朝出たホテルに戻っていく。





「聞いたか? この街に出たってよ」
 噂が噂を呼ぶには、この街は早すぎる。
「ん? あぁ。珍しい耳付きの十六くらいのガキだ。滅多に拝めるもんじゃぁねぇなぁ」
「あぁ。見た見た。イエローフラッグに来てたよなぁ。なんだか可愛い子猫かと思ってたけど、鴨が材料抱えて、ついでにコンロまで抱えてきたって感じだったぜ?」
「ほぉ。で、ソイツを狩るって?」
「いんや。どうやら攫うらしい。といっても護衛はあのだ。俺は関わるのはご免だ」
「三合会絡み。俺もパスだ。今あそこは爆発寸前の火山じゃねぇか。コンロどころじゃねぇぞ」
「俺もさ。てか、とは揉め事を起こしたくねぇ。下手すりゃバラライカも噛んでくる」
「なんであのホテル・モスクワが噛んでくるんだよ」
 そう聞いた一人の男に周りの視線が集まる。
「お前知らねぇのか。有名なんだぜ? あの『なんとか』っていう兵士時代のの名前は」
 そうイエローフラッグでんな会話を男達がしている頃、ホテルに戻った、そして張と護衛は今後について話し合っている。
 その会話は広東語で行われており、二人のやり取りに流石のはついていけない。
――すごい。この人……色んな言葉が話せるんだ……
 とはただただ感心する。
 昨日、男たちに話しかけた言葉も、英語ではなかった。
 などと思っていると、急に二人が動いた。
 そして会話は英語へと切り替えられている。
「来たか?」
「あぁ。誘いに乗った。後はこっちの思惑通りいくかどうか……だが。そっちは任せたぜ?」
 ドカッとテーブルに乗せていた足を床に戻して立ち上がった張の旦那と、スッ物音をさせずに椅子から立った
 そして
。この後、何が起こっても質問はナシだ」
 これは日本語で言った。
 もうここまで来て、も「え?」などと疑問を挟まない。
 ただ、その人を信じるだけだ。
 ここじゃ言霊なんかよりも、先に銃弾が物を言うというのが昨日の事だけでもわかったから。
 そしてがそのまま窓の方へと足を進める。
 シャッと音をさせてカーテンを閉めたその時、その嵐は唐突に来た。
「RPGだ! 伏せろ! !!」
 がそう叫んだ次の瞬間には


 ドガァァン!!!


 と言う物凄い音が辺り一面に鳴り響いた。
 が怒鳴り、条件反射のようにが頭を両手で抱えて座り込んだその上から、被さるようにしてを押さえ込む。
 そして上から物が落ちないことを確認すると、には一瞬で移動した見えた動きでドア方へと向かい、廊下の左右から向かってくる男達に向かって一体どこから取り出したのか、既に両手に持っていた銃を躊躇いなく撃った。
――な……?!
 外さず、正確に相手に撃ち込むの銃撃にが息を呑む。
 そしてそのまま、二人はドアを蹴破り廊下へと飛び出した。
「旦那!」
 叫んだの、右側の廊下の更に向こうから銃を撃ちながらやってきた男達が来ると、は立ち上がり黒いスーツの男と背中合わせに銃を撃ち込み始める。
 そんな二人には目を見張る。
 それはまるで、踊ってるようにも見えた。



「チッ! ガキのお守も大変だな。えぇ? 先生よ」
 と話をする余裕すらある。
「まぁな。でも、あんたの無償労働にゃぁ感謝するぜ!?」
 と言っての後ろ、窓から侵入してきた男を撃った。
「報酬は後でタップリ頂くさ。今回のケリが着いたらな」
 黒いスーツの男の方が答えたとき、誰か一人の男が何かを投げた。
 あの形……
 もしかしなくても、手榴弾?!
「う……わぁ!」
「あンまり喚くと舌噛むぜ? こういうのはな、ビビったら負けなんだ」
 と言って、相手にそれを蹴り返したのはだった。
 ドカンッ!!
 大音量と共に廊下の向こうが爆発する。
 と同時に、この場にはそぐわない口笛が響く。
「な?」
 に振り返ったときのの顔が、とてつもなく怖い。
 初めて見た。こんな真剣で、それでいて楽しそうな顔。
 こんな血と硝煙の匂いの中でとても生き生きとした表情で、それがとても怖かった。
――こんな顔、絶対日本じゃしてくれないよ……手塚。
 本当には、先生をやってるのが不思議なくらい荒事に慣れているのだと、このとき初めて本当には実感した。
が道を開いた! 楊!! ガキを連れて戻れ!」
 黒いスーツを着た人がそう言うと、の体が浮き上がった。
 そしてに向かってくる男達に向かって、また銃撃戦をして蹴散らしていく。
。お前は二挺拳銃よか筋がいい」
「そいつあぁどうも」
 二人は言い合い、銃を撃った。





「ったく。たまには命に危険がない仕事がしてぇよ。俺は」
 そう言ってソファに寝転がってるのはだ。
 あの後、車に乗り込んだたちはこの黒スーツの人の事務所に運び込まれた。
「何言ってやがる。ぬるま湯の国に居やがるくせに。しっかし。RPGとはなぁ……」
 と黒スーツの男、張が言う。
「あれは予想外だった。お陰で部屋が半壊だ。旦那、修理はこっちで受け持つよ」
「そうしてくれ」
「それにしても、俺はここに来る度に命の危険にさらされてる気がするんだがな。この前は姉御がらみだったしよ。まー今回コイツと俺とで連中も一石二鳥って考えたんだろうが……生憎だったな」
 とを見てそう言った。
――俺?
 そんなの疑問を打ち消すように、張の旦那がはき捨てるように言う。
「完全に潰すには向こうにも踊ってもらわねぇと割に合わん」
 と。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
台風だ……
手榴弾を蹴り返すシーン、本当に好きです。
2023/07/22 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥