Sky Lord
04.Reason to Reverse
 ただただすごいとは思った。
 なんであんな動きができるのか、ちょっと信じられないけど。
 それにしても『自分がどんな人間か、知りたいなら教えてやる』と言われ、ここまで付いて来たけどれども、これは……異常だ。
 あの店にしたってそうだ。
 どう考えても『普通』ではなく、自分を見る目が怖いと思った。
 ……いや、ここでは『』と呼ばれるこの人。
 それがの考える『普通』ではないことに、ひたすら衝撃を受け続けた一日だった。






 それにしても、カマを掛けたとは言え正にビンゴを引くとは思わなかったぞ。マチルダ。
 と、幼い頃の顔しか思い出せない彼女の顔をは思い描く。
 あの時分で結構な美人だったから、そりゃぁ美人に育っただろうなぁと、顔も見えない相手のことをは考えた。
 それにしても、まさか一度は戦線を張った人間とこうして敵として相対するとは思ってもみなかったが。
 だからと言って容赦はしないからな。
 これも『仕事』のうちだ。
――それにしても、これで俺が借り出された理由もある程度知れたな。依頼に隠し事は無しだぜ? って言ってるのになぁ。全く。
 と呆れながらも
――こりゃ部隊を連れて来たほうが良かったかも知れんな
 少しだけは後悔し、すぐに先ほどバオが教えてくれた情報を反芻していた。


「子供がな、消えるンだとよ。それも張の旦那の管轄するエリアで、だ」
 そう言って、イエローフラッグの店主・バオは今流れている噂を話してくれた。
 最初は旦那も気にもしなかったらしい。
 が、段々と手口が大胆になってきて、しかも子供は子供でも、耳・尻尾付きの子供達だ。
 その子供が五人消えたときに、問題が起きた。
 三合会傘下の人間が一人、殺されたらしいのだ。
 それが張の旦那のケツに火を点した。
 そして正体が割れないまま、大使館絡みのガキが一人、攫われた。
 張の旦那がに持ってきた文書は、その救出依頼書だったのだ。
「ありゃ完全に三合会に喧嘩売ってるな。張の旦那の頭の中はマグマになってるってよ。そんで三合会絡みで昔色々あったお前が、もしかしたら来るんじゃないかって噂があった時に、ズバリお前が来たって訳。だから、こりゃ嵐が起きるなぁって思ってるわけさ」
 そうバオは話を結んだ。
 だが、バオの話にはチョイトばかし違うところがある。
 が今回来た理由は、別に三合会からの依頼だけじゃないということだ。
 まぁ、地元の連中だけならアメリカの大使館も我関せずで通してたんだろうが……
 自分のところの国の子供が攫われた途端、動き出したって訳だ。
 その線で依頼が来たって訳だが、まぁ内容はいたって簡単。
 いや、簡単すぎて涙が出らぁ
――それにしても、昨日の連中の反応からして、もしかして狙いは……俺か?




 
「あー? あのな……」
 気絶させた三人に目もくれず、とても言いにくそうにが言う。
「さっきの店と、今ので分かったと思うけど。この街はとても危険だから俺の指示通りに動いてくれ。勝手に動かれると、マジでここは危険だから」
――勝手にうろつかれては堪ったもんじゃない
 そんな思いを込めてに告げる。
「わかってます。邪魔はしません」
 と、やけにが物分りよく答えた。
 そりゃそうか……と、は思う。
 なぜなら、こんな事自体、日本ではあまり発生しないのだから。
「分かってるならいい」
 そう言って、その場からさっさと抜け出そうとしたときだ。
「あの、先……さん。あの三人は……」
 倒れている三人を見やってが聞いた。
「朝になったら目が覚めるさ。放っておけ」
 それにが冷酷な声で答えて、今度こそ二人はその場から抜け出した。 




「勝手に行動するなよ」
 と言われてそれを聞き入れられたのは、この街は本当に危険だと察したからだ。
 それにこの街が危険なのは、さっきので十分に分かったからだ。
 下手したら生きて日本に帰れないかも、とさえは思った。
 それでものことを知りたいと思ったのは自身だ。
 知りたいから、今は従う。
 例えそれが、逆転になったとしても、だ。
 日本にいたままでは信じられない状態だったろう。
 戦闘機に命令されてる、なんて状況は。
 でもアレを見た後じゃ、に、ここではに従うしかない。
 銃を持ってた。
 それにあの動き……
 本当にスゴイんだと、は心のどこかで思った。




 二人が入ったのは通りを抜けたホテルだった。
 ここは、予定表にあったホテルだ。
 ツインの部屋に入ってすぐ、すぐには明日の予定を告げた。
「ひとまず、相手の動き次第になる。明日はホテルで朝食の後の予定は未定だ」
「待って。先生は一体何やってるの?」
「依頼だ」
「依頼?」
「仕事だよ。クライアントは明かせんが、仕事が入ってる。そのためにここに来た」
「どういう……」
「知りたいんだろう? 俺のこと」
「はい」
「だったら、黙って見てろ」
「分かりました」
 の纏う空気や口調が、日本にいたときに感じていたソレとはまるで違うことに、はもう戸惑わない。
 ピリピリとして何だか痛いけれども、それがこの人の『本来の姿』なら、受け入れるだけだ。
 そして翌朝、二人が朝食を食べ終わった直後にソレは起こった。
 突然動きを止めたを、が不思議に思う。
「……先生?」
「車に乗れ」
 ホテルを出て、いつの間に手配したのか小さな車が駐車場に停めてあり、に促されてすぐに乗り込んだ。
 運転席に回ったが、そのままキーを回し目的の場所まで飛ばして行った。







 ここは港の輸出用のコンテナ置き場。
 静かに話す分には、ここが一番丁度いい。
 少し潮の匂いがするがな。
「それで? 今度はどこだ?」
 そう聞いたら
「ラチャダ・ストリートのど真ん中だ」
 と煙草を吸いながら答えたのは旦那だ。
「ほぉ……なるほどな。しっかし朝だろう。お宅の見張り員は何してたんだ?」
 と、少し驚いたようにが言う。
「これがなぁ。どうにも解せねぇ。誰もが『誰も居なかった』って言いやがる。なぁ。おかしいと思わねぇか?」
「ガキはそこに居たはずだよな」
「あぁ。だが『目の前にいたはずのガキが次の瞬間には消えていた』と来てる。まるで日本語で言う神隠しだ。俺は一つ、思い当たる節があるんだがなぁ」
 と、サングラス越しにを見ながらそう言った。
「あぁ。そっちの線なぁ。一個だけなら情報がある。昨日イエロー・フラッグで飲んだ後、ワザワザ忠告に来た輩共がな。ちょっとばかし面白いことに反応したからよ」
 と話を持ちかけた。
 恐らく旦那も気付いてる。
 これがただの誘拐じゃないってな。
「ほぉ」
「マチルダ・グリエンコ。俺と同じ戦場にいた、言わば戦友ってヤツか?」
「なるほど」
「ま、俺が向こうを知ってるってことは、向こうも俺をよーく知ってるだろう。それにしても、回りくどいところは変わってねぇなぁ」
 そう言って張の旦那に書類を渡す。
 それを開けて見た旦那がサングラスを取った。
「なるほどな。道理でパームツリー通りのアメリカ人のガキを攫ったはずだ。そうなると後は簡単だ。奴等は何より面子に拘るからな。お前に依頼が行くことも向こうはお見通しだったって訳か」
「そういうことだ。たかがだガキ一人のために借り出されるのも何だか癪だが、まぁこれも利益と信頼のため。労働は尊いってことがよぉく身に染みるぜ」
 そう言って、が少し笑った。
「さて旦那。どうする? 言っておくが、向こうは『俺と同じ』だぜ?」
 そう言って横目で見ると、旦那がサングラスを掛けなおした。
 そして
「香港からも命令が来てる。『完全なる鉄槌を下さん』ってな。……動くぞ、
「了解。我的主人」
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
今回は主人公と張の旦那がメインなのです。
2023/07/20 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥