Sky Lord
22.Is it Wild Goose Chase?
「なんでお前が居るんだよ」
 そう言って詰め寄ってきたのは、まだ腕に包帯をしている金華だった。
 日曜日、銀華が入院している病院にが行ったら、そこには金華がいた。
「銀華の様子、見に来たんだ。それと金華。こんなところでやめろよな」
 ここは病院で、戦闘なんかする場所じゃないから。
 を暗に言う。
「わかってるよ」
 答える金華は、ここ一週間で少し様子が変わったをハッキリと捉えていた。
 詳しい事情はわからない。
「病院、出よう。ここじゃ人が来る」
 は、持ってきた花を金華に渡しながらそう言って、エレベーターのボタンを押した。
「お前、あんな配慮できたんだ」
「悪い?」
「なんでもねぇよ」
 そんな事を言い合いながら、やがて二人は病院近くの喫茶店に入り、話を続けた。
「お前に手を出すなって、南先生が言ってた。なぁ。あの先生は一体何者だ? お前知ってんだろ?」
 入って早々、先に口を開いたのは金華の方だった。
「うん知ってる。でも俺は言えない。っていうより、上手く説明できない。それよりも銀華の具合、どう? だいぶ良くなった?」
 と、金華の質問を返して、は話を元に戻そうとする。
「具合は大分いい。だけどあの時のことでまだ怯えてるから、お前は会わなくて正解だったと思う。俺も怖いし」
 恐らく、あの時の視線を思い出すと未だに震えが止まらないのだろうとは思う。
「あのな金華。俺、もう学校には戻らないよ。もう少しだけ、あの先生のこと知ってみたいんだ」
 その言葉に思わず金華がカッとなる。
「そんな勝手な話があるか! 大体、俺たちがこうなったのは……!」
「こうなったのは、原因は確かに俺にあるけど。でも、南先生は俺を襲えって言ったの?」
 少し強いの視線に、金華は思わず気圧される。
「……言われて、ない。確かにあの先生が『戦闘機』として覚醒してるかどうかを確かめろ、とは言われたけど」
「じゃ、俺を襲えなんて言われてないんだ」
「俺の……俺たちの自業自得って言いたいのか? お前は」
「……違うの?」
 その言葉に金華は思わずカッとなる。
「お前! 大体お前が……!」
「大きな声出すなよ。傷に響くだろう? でも、本当のことだろう? そこから認めないと、お前いつまで経ってもそのままだよ?」
 相手の力を見極めきれず、すぐに戦いを挑もうとする。
 冷静になりきれないのは金華の悪い癖だと、は思った。


 金華が怒りを押し殺した目でテーブルに置かれたコーヒーを見つめている。
 きっと自分は悪くない。
 そう思っているのだろうけれども、腕が折れたのも、銀華が入院してるのも、全部……
 彼が、彼らがを勝手に襲ったことから始まったのだと。
 理解しているのだろう事が分かって、静かにが告げる。
「次の日曜、挨拶しに学校に行く。じゃね、金華。銀華にも伝えておいて」
 は自分の分のコーヒー代を置いて、喫茶店から去っていった。






 自分の判断で動いたことなんて、は初めてだった。
 喫茶店を出るとは大きく息を吐いた。
――緊張したぁ。だって、やっぱり金華は少し怖いから……
 帰り途中では青学に寄ってみることにした。
 この時間は先生も部活中だよね。
 でも、私服姿のでは入れない。
 何気ない日常。
――俺は、ちゃんと先生に説明したかった。巻き込みたくなかったから。だけど、本当に巻き込みたくなかったのは、先生の方だったんよね。
 そんなことを考えながら歩いていたのが悪かったのだろう。
 ドンッ
 と、誰かにぶつかった。
「あ、すみませ……ん」
 と慌てて言って顔を上げたはそのまま固まった。
 そこにいたのは黒いスーツでサングラスをかけ、髪までバッチリセットした、この季節には暑過ぎる格好をした素敵なオジサマ……
 じゃなくて!
『や』のつく人っぽい人が立っていたからだ。
――いやいやいや……普通の人だよ……ね?
 と、は焦る。が、兎に角、一目見て分かった。
『ヤバイ人だ!!!』
 と。
「ご、ごめんなさい!」
 と慌てて言って、足早にそこから去った。









「Wild Goose Chase?」
 ギターをスタンドに下ろし、一息入れるために小型の冷蔵庫を開けたときに手塚がそうリクエストを出した。
「だめですか?」
「う〜ん。いいけど、アレ難しいからあまりやりたくない。大体あの曲ピアノだし」
 そう言いながらも、取り出した缶ジュースをアンプの上に置き、ギターを抱えるあたりはやる気はあるようだ。
 そしてしばらく目を閉じたあと
「1・2・1・2・4・Q・・・」
 と言って、弦の上を指が走る。
 その指が、何もかもを決める。
 学校でチョークを握るのも、偶にラケットを握るのも、銃を撃つのも、全て同じ指。
 だが、この人がギターを弾いてる時の指が、手塚は一番気に入っているのかもしれないと思った。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/15 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥