Sky Lord
20.Old Determination
「だから俺は、手塚に対して負い目があるわけよ」
「何を言ってるんですか。俺のほうこそですよ」
――あぁ。割り込めないんだ……
 昔から知ってる彼と、自分とでは経験が違う。
 おまけに、あんな強烈なことがあったのでは、勝ち目が無い。
 昔からの絆に、決められたことに、勝てる訳が無いとは思う。




はさ、俺をどうしたい?」
 沈黙を破るようにが問いかける。
「え?」
「言ったろ? のすることは、状況を把握して抑えること。でないと、マジで殺すからって」
「聞きました。聞きましたけど、どうしたいも、何も。今は思いつきません」
「まぁの場合。望んで手に入れたものじゃないからなぁ。その名前」
「……」
 痛いところを突かれ、は黙る。
 しかしだって七年待ったのだ。
 探して探して、ずっと探して……
 七声学園に入ったあとは学校が探してくれたけど、でもやっぱり見つからず、はずっと一人だった。
 両親が死んでからは特に。
 だから見つかった時は嬉しかったのに。
 一人じゃない、もう一人の誰かが居る。
 そう思って生きてきたから、出会えて嬉しかったのに。
 しかし、ふわふわ夢心地な厨二病的な。言ってしまえば幼くて幼稚な関係を夢見てたと、現実的で即物的で、言ってしまえば大人な関係である手塚と
 大人なのはどちらなのか、耳が落ちてることも相まって、考えなくてもわかる。
 そして、それが分からないでもない。
「とはいえ、名前が消えるまでは繋がってる相手だからな。大事にはするけど、名前が消える消えないはの今後の心の持ち様だから、気をつけて」
「わかりました」
 それはサクリファイスのやることに、戦闘機は命令できないからだとは思った。




「ところで、先生の名前ってどこにあるの?」
のAIRLESSはどこに出てるの?」
 間髪入れずに返ってきた質問。
「質問を質問で返さないでくださいよ。肘の裏ですよ。見えにくいですけど。ほら」
 そう言っては名前を出す。
 そしては二つ気づいた。
 ここは、鏡で確認しないと分からない場所。人体の中でも目で確認しづらい場所だ、と。
 そしてもう一つ。
のAIRLESSはどこに出るの?』
 だ。
 の話が本当なら、の本来の『戦闘機』であるアレックスにもと同じ位置に出ていたはず。
「もしかして、アレックスさんはこの位置じゃなかったの?」
「あぁ。あいつは額に出てた。ダサいから嫌がってたが」
 額と聞いて、そこも目では確認しづらい、いや、目では確認できない位置だな、とは思った。
「もしかして、この名前って、自分の目では確認しづらいところに出る?」
「かもね。俺も背中だし」
 そう言って肩を竦める。
「先生がもらったAIRLESS、見たい……です」
「見せてもいいけど、お前見たら引く」
 と先手を取られてしまった。
――どういう状態なのか判らないけど、絶対引かない!
「……引かない」
「いいや、絶対引くね。手塚ですら引いたんだから」
先生。別に隠すほどのことじゃないでしょう」
 予想外に発せられた手塚の言葉に、が固まる。
「お前ね……」
 答える声は、かすれて少し震えていた。
 まさか手塚がの援護に回るとは思わなかった、という声をしている。
 冗談だろうけども。
「見せるだけですから、俺は別に何とも思いません」
 とそう言って、と手塚が視線を合わせる。
 しばらく無言だったが、やがてが大きく息を吐いた
「わかった。だけど、『うわ』とか言うなよ? 引かれると結構傷つくんだよ」
 と冗談交じりに言って、一気にシャツを脱いだ。




 シャツを脱いで、後ろを向いたの背中は傷だらけだった。
『うわっ』
 って言わない。
 引かない。
 そう決めてたのに,でもやっぱりは、口に出してしまった。
「うわっ」
 と。
「やっぱり言った。だから見せるの嫌なんだ」
 そう言うの声は、本当に心底イヤそうな声をしている。
「ごめんなさい。だって、凄い傷……」
 一番最初に目に付いたのは、左肩のところから腰の辺りまである、一直線の傷。
「それ……」
 それが、が手塚を救ったときに負った傷なのだと、はすぐに理解した。
「そ。刀傷。目立つだろう? だからイヤなんだよ」
「痛くないの?」
「若干痛みは残ってるよ。とはいえ完治はしてるから、幻痛ってヤツだろうっていうのが医者の見解だけど」
「ファントムペイン……?」
「そ」
「意味は自分で調べろよ?」
「分かってますよ」
 言葉の意味を深く理解していかないと、この人と対等になれないから。
 それ以外にも、小さな丸い傷跡もついている。
「丸い傷は?」
「銃弾の痕」
 初めて見た。
 なんて感心している場合ではなく。
「あんまジロジロ見んなよ」
 左の刀傷とは反対側の、右の肩甲骨辺りにその名前があった。
「AIRLESS……」
 名前が浮き上がってるほかに、糸がに繋がってるのを見ては少し安心した。
 予断は許さないけれども。
「そう言えば。手塚くんはどこに出るの?」
 と問うと、右の首にある動脈付近を手塚が指差して
「この辺りだ。あと、俺のことは手塚でいい」
 と教えてくれた。と同時に、呼び捨てで呼ぶことを許した。
「さすが『容赦ない』よね。そこ急所の一つだもん」
 そう言って、がシャツを着て提案した。
「さてと。もう十一時近いし、二人ともどうする? 帰るなら送ってくけど」
 確か明日も練習があるはずだと思ったは、これ以上長居はできないと考えて
「帰ります」
 と答えた。
「そか。手塚は?」
「泊まります」
 即答した手塚にが『やっぱり』という顔をして
「へいへい。じゃ、俺は送ってくから、手塚は留守番よろしく。シャワー使っていいからね」
 そう言って席を立った。





 車の中でが言う。
「正直、まだ実感わきません」
「ん?」
「だから先生のこと、まずは教えてくれたらって思います」
「それは『命令』?」
「……はい」
「そか。そうだ。は夏休み、暇?」
 思いついたようにに問いかける。
「え、えぇ。俺は大学受けないので、暇といえば暇です」
「就職組みか」
「……ですね」
「よし。パスポートは持ってる?」
 話を変えるように、が聞いた。
「え……持ってないです」
 そもそも小さな頃から日本から出たことが無い。
「よし。俺が書類用意するから、パスポート取って。夏休み使って、俺がホントはどんな人間なのか、みっちり教えてやろう」
 そう言ってはハンドルを切った。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
次は、おそらくR-15程度になるかと思います。
2023/07/15 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥