Sky Lord
18.Notice it!
 一日考えさせて。
 そう言ってには帰ってもらった。
 シンッと静まり返った部屋に一人。
 誰も居ない椅子に座って、テーブルに置かれた書類が入った封筒を見つめて、ただは考えていた。
 ヒトゴロシ。
 がそう糾弾するのは簡単だった。
 でも、それ相応の理由があるとも知った。
 それに何より、助けてくれた。
 何も言わずに、倒れていたを助けてくれた。
 そしての、病院に行きたくないっていうワガママも聞いてくれて、先生の家に運んでくれた。
 何も言わずに手当てしてくれて、あの痛い風呂にも入って、包帯巻いてくれた。
 あのりんごを擦った食べ物、すごく美味しかった。
 作ったのは手塚なんだけど。
――ねぇ。どっちが本当の先生なの?
 あの冷たい顔と、学校や家で見せてくれた顔と。
「分からないよ……」
 判断材料が少なすぎるんだ。
 たった二三日見ただけで、その人の何もかもが分かるはずなんてないのに。
 だから少し整理をしようと、ベッドに入りながらは思った。


 最初にまともに会ったのは十日前。
 職員室で、は緊張しながらと会った。
 金華と銀華に襲われて、怪我をしてるところを助けられた。
 それからあの二人が学校に来て、先生が逆に圧倒した。
 その後のことはよく分からないけども、どうやら南先生と先生が話し合って、俺の処遇を決めてきたんだ。
 その書類がここにある。
 サインすれば、は七声学園に戻ることができる。
 けれども、もう戻るつもりはないとは思う。
――俺の本当の名前が、俺の覚悟がなきゃ消えていくのだとしても、俺は先生の傍にいる。
 そうが決意したとき、彼のスマフォが音を立てた。
――誰?
 そう思って表示された名前を見ると、そこにあったのは菊丸の文字。
 そう言えばテニスの試合のとき、菊丸という同学年の生徒が
『ねぇねぇ。ってスマホ持ってる?』
 って言ってきたから、番号交換したんだっけ。
 かけた事無いけれども、まさか掛かってくるなんて思わなかった。
 でもそんなこと言ってられないから電話に出る。
「もしもし? 菊丸くん? 何か用?」
『あ、出た。さ、明日暇?』
「暇……だけど?」
 明日は土曜日だ。特に勉強以外やることがない。
『じゃあさ、ちょっと付き合ってよ。あ、集合は十七時、学校ね。私服でいいから。あ、財布は忘れないでね』
 と言われは素直に返事をする。
「わかった」
 そう答えて、は電話を切った。




 次の日の十七時前に学校につくと、テニス部の面々がずらりと立っていた。
――なんか、迫力が……
 耳のあるなし色々だったけれども、それでも持っている迫力が違って、は気圧されてしまった。
 とりあえず、呼び出した理由を電話をかけてきた菊丸に話を聞いた。
「どこかいくの?」
「うん。DolphinStreetっていうジャズ喫茶。今日ね、演奏会なんだよね」
 とあっけらかんと言ってのけた。
「ジャ、ジャズ喫茶!?」
 初めて聞いたその名前にが面食らう。
「そ。で、チケット一枚余ってるからって、俺がを呼ぼうって提案したんだよ」
「あ、ありがとう。で、誰が出るの?」
 初めて聞いた店だった。そんな店があるんだ。
――というか。俺、この街自体初めてだからよく分からない。
「ん? そりぁもちろん兄ちゃんだよ。あとは氷帝の榊先生?」
「ねぇ。気になってるんだけど、なんで菊丸くんは先生のこと、兄ちゃんって呼ぶの?」
「うーん、癖かなぁ。兄ちゃんと、俺の兄貴の一人が同じ年でさ。それでよく家に来てもらってたから、それでだよ」
 人懐っこい笑顔でそう言う菊丸に、
「そうなんだ」
 と返すの声は、硬かった。
「話してないで行くぞ。菊丸、
 と手塚が促すのを、
「ほいほーい」
 と軽く受け流した菊丸に、が後を追った。




 チケット代を菊丸に渡して、ワンドリンク制だからと教えられながら、は歩いた。
 学校から歩いて、二十分くらいのところにその店は建っていた。
 のはいいけれども、ここさ。
――なんか俺みたいな高校生、入っていいの?
 っていうくらい『大人』な雰囲気なんですけど……?
 がためらっていると、さっさと桃城が入っていくのを追いかけるようにして、海堂も入っていく。
 年下の彼らが入っていくなら、一個上のが入れないはずないんだろうけど、でも俺耳と尻尾ついてるしなぁ……と、は思う。
 雰囲気に合わないかも。
 なんて思って立ちすくんでいると、後ろから手塚に
「さっさと入れ」
 といわれ、意を決しては足を踏み入れた。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/13 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥