Sky Lord
16.Known and Ignorance
先生」
 テニスコートの端に立っているに、後ろから不二が声をかける。
「ん? 何?」
 振り返ったがすっとボケるのは、不二にとって織り込み済みだ。
「いえ。何かあるんじゃないかなって思いまして。先日の領域の件とか、ですね」
「あぁあれね。気にすんな。もう少ししたら終わるから」
「本当ですか?」
 隣に立ち並んでの顔を少し見上げる。
「あぁ。大丈夫」
 不二に視線を向け、少し笑ってが答える。
「無茶、しないで下さいね。先生」
「名前持ちには催眠効かないからなぁ……」
「すみません」


 そう。
 あの時初めて、という人間の本当の顔を見てしまったから。
『だからぁ! 香港じゃ勝手に行動するなって言っただろう!!』
 修学旅行で行った香港で、つい迷ってしまったボクたちは地元の奴等、チンピラに絡まれていた。
 その数は六人。
 そして、その中の一人が銃を持っていた。
 ボクたちを庇い、その正面に対峙する先生を殴っては何か言っていたが、生憎広東語のため何を言ってるかまでは分からない。
 しかし先生だけは理解しているようだった。
 その時だ。
『よぉ。お前に一つ貸しだぜ?』
 と言って、後ろから誰かが言ったのは。
『旦那?! なんであんたがこんなところに?!』
 とても意外そうな言葉で先生が広東語を使うのには、本当に驚いた。
 その問いかけにそのサングラスにスーツの男はただニヤリと笑って
『たまたまだ。偶然通りかかったら、見知った顔があったんでな。少しばかしだが、恩を売っておきたい。そう思ってな』
 そう言ってニヤリと笑い、現れた男が銃を取り出す。
『ちょっと旦那。本気ですか?』
『お前、そいつ等の前じゃ本気は出せないようだな。だったら俺が、出さしてやろうって言ってるのさ』
 次の瞬間響いたのは、先生の日本語での怒号だった。
『お前等!! 頭下げろ!!』
 有無を言わせないその声に、ボクたち全員が頭を下げしゃがみこんだ。
 そして
『周! に銃を貸してやれ!』
 サングラスの男が英語で言った。
『ちょ!? ったくもう! 生徒の前で撃ち合いさせるのかよ旦那!!』
 と、最初こそ戸惑いの声を上げていた先生だったけれど、放り投げられた二つの銃を空中で受け取ってからの動きは全く別人のようだった。
 まるで手慣れているかのように銃をぶっ放す。
 そして先生は、その黒服の男と共に淡々と相手を片付けていった。
 その時間、だいたい十秒前後だったと思うけれども、ボクにはその時間がとても長く感じられた。
 その後には、六人のうめき声が響くだけだった。
『日本人だからって、甘く見るんじゃねぇよ。ボケが』
 英語でそう言った先生の顔は、そいつらよりも凶悪な、まさに『悪人』そのものだったのは今でも強烈に覚えいてる。
 そして、その場に居た乾も、大石も、菊丸も絶句していた。
 まさか銃を使って平然と人を撃つなんて、それまで全く考えられなかったのだから。
 だが手塚だけは知っていた。
 彼が銃を握ることを。
 彼が銃を使うことを。
 そして先生は、ボクと手塚以外の頭からその時ことを消してしまった。
「何ボーっとしてるの不二。大丈夫?」
 声を掛けられてハッとする。
 少し昔を思い出していました、なんて言えないから
「えぇ。大丈夫です」
 とだけ答えた。










 ピンポン、とチャイムが鳴ったから無視しようとは思ったが、ドアの向こうから『大家です』と言われ出てみて固まった。
 多分、今一番会いたくない人だと思った。
――どうして?
 反射的に閉めそうになったドアを
「ったく。学校サボってどうするの?」
 と言われ、それを遮られた。
 そして
「では管理人さん。ありがとうございました」
 とが大家さんに笑顔で言って
「では私はこれで」
 と言いながら、大家さんが帰っていく。
 正直、行かないでくださいとは言おうと思ったが、声は出てこなかった。
「どうして?」
 頭の中がゴッチャになって、上手く言葉が出てこない。
「どうしてって、話をしにかな。お前がこの部屋に閉じこもっていようが、何をしていようが事態は動く。世の中そう言うもんだよ。さて、俺はお前に報告があって来たんだ。全て事後報告になるが」
 が言葉を区切った。
「お前、七声学園に帰れ」
 そう言われ、の頭は一瞬止まってしまう。
 え?
 今、なんて?
「向こうの校長とも既に話はつけてある。了承済みだ」
 と言って、書類をカバンから取り出して
「ここにお前がサインすれば全てが終わる」
 と言って、そのままに向けて差し出した。
「決めるのはお前だ」
 ここに名前書けば終わる?
 決めるのは俺?
 分からない。
「玄関じゃ書類書けないから、上がってよ」
 と言って、とりあえず部屋に上がってもらった。


 が部屋に入っても、お互い何もいう事がなく、ただ黙ったままだった。
 そして書類をずっと見ながらは、頭の中では全然違うことを考えていた。
 あの日、金華と銀華の二人が学校で目の前に座ると戦闘をした日のことを。
「で、書くの?」
 促すようにが問う。
「急に帰れって言われても、もうあそこに居場所なんてないよ」
 自嘲気味にが暗く笑う。
「そうかな。少なくとも南先生はそうは思ってないみたいだけどね」
「出戻りって、皆に笑われるだけだ」
「そう?」
「それよりも。先生の言ってた『支配枠』のこと、教えてください」
「結構強いな。君」
 もう少し弱いかと思っていたが、どうやらそうではなかったようだとは思う。
「頭ん中、まだ整理ついてないですよ。ついてないけど、事態は動いてるでしょう? だったら付いていかなきゃ追いつけないって、そう思っただけです」
「で、はどうしたい?」
「知りたいです。先生のこと」
 真剣な表情でが告げる。
「じゃ、教えてやるよ。俺のこと」
 何も知らないままで向こうに返した方がいい。
 はそう判断したのだが、どうやらはそこまで子供でもなかったようだ。
 話してる間、質問が飛んでくる。
「じゃ、格闘とかもやるの?」
「俺の戦闘スタイルに制限はないよ。格闘、銃撃、なんでもござれだ」
「なんでも……」
「俺は、あいつと違って躊躇わない」
 そう告げたを、は真っ直ぐに見る。
「お前のやることはただ一つ。俺の制御だ。状況を把握して、抑えること。でないと、マジで殺すからな」
アトガキ
戦う為の空飛ぶ兵器=戦闘機ですよね。多分
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/12 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥