Sky Lord
15.The Order
 病院行かなきゃ。
 あの二人の見舞い行かないと
 でも体が動かない。
 ベッドから出られない。
 俺の戦闘機は殺されていた。
 それも俺が少しでも期待した人間に。
 あの人のホントの名前は、WINGED……翼ある者。
 どうして期待なんかしたんだろう。
 一人で飛び出して、一人で舞い上がって、その結果が二人の入院だ。
 こんなんじゃ俺、バカみたいじゃないか。


 それにしても、今の今まで見つからなかったはずだ。
 当然だ。当たり前だ。
 だって、もう十数年も前に死んでたんだから。
 悲しくなって涙が止まらない。
 どうしたらいい?
 南先生。俺は間違ってましたか?
 学校に戻りたい。でも、南先生に会うのも怖い。かと言って、はもっと怖い。
 どうしたらいいか分からない。
 もうただの人間として生きていくしかないのかな
『特別なんだよ? 名前があるっていうのはさ』
 名前があるのに、ちっとも『特別』じゃないよ。





『ターゲット。家に閉じこもってばかり』
『そりゃそうだろう。相当ショックだったみたいだからな』
『どうされます? 大尉』
『どうって、現状維持だよ上等兵。俺は放課後寄るところがある。定時報告は二時間後』
『了解』
 と、授業をしながらは領域を外展開させ、モールス状にして現場を見張っている彼らと会話している。
 とそこに割り込んできた者がいた。 
『第一撃。いえ、この場合は迎撃かしらね。途中で何があったか知らないけれど、これで『脅し』にはなったのかしら?』
『そうだな。これでこちらに主導権が渡ったということになる』
『それにしても、ホッント素人同然なのね、あの二人。自分たちに付けられた監視に気付かない。包囲されていることにすら気付きもしない、本当にただのド素人の子供だったのね。ねぇ、。やっぱり今度タイに来なさいな。相手があなたなら、私も少しは『マトモな戦争』ができそうだから。退屈はさせない自信はあるわ』
『俺は忙しすぎても嫌いなんだ』
『冗談よ。あなたはここで果てる覚悟があるってこと、私も知ってるから。ま、イイ算盤見せてもらったわ』
『満足したかい、じゃ、またな』
『えぇ。でも、私はそうでも、彼はどうかしら?』
『ちょ!』
 慌てたように応じるが、相手は既すでに領域を閉じていた。
――ったく。意味深なこと言うなよ






「銀華……」
 幸い彼女は一命を取り留めた。
 だけど状態が重く、入院することになってしまった。
――どうしてこうなっちまったんだ。
 と金華は思う。
 あの男……
 腕を折った時のあの目を思い出すだけで震えが止まらなくなる。
 本当に獣かと思ったくらいだ。
 それに、あんな圧倒的な恐怖は今まで知らない。
 あんな……まるで天が落ちてきたみたいなあの圧力なんて、今まで受けたこともなった。
 しかもあの二人が居なくなった後、俺たちを学校の外に連れ出した連中も明らかに変だった。
『お前ら、一体何者だ!』
 精一杯叫んだつもりだったなのに、返ってきたのは冷たい視線だけだった。
 あいつ等は、ただ淡々と自分の作業をこなしていた。
 まるで機械か何かかのように。
 どうしてこうなっちまったんだ。
 いつも通りやれば勝てる。そう思い込んでいた。
 目覚めてもいない、役立たずな戦闘機だと、そう思い込んでいた。
 でも、実際は全然違った。
 迫力が、受けたダメージが、何よりその威力が全然違っていた。
 あんな人間が居るなんて信じられねぇ。
 もし、視線で人を殺せる人間が居たら、きっと俺はあの時死んでいただろうな、と金華は思った。
――銀華……
 未だ眠り続ける彼女を見やって、金華は後悔する。
 あれは、そう。
『命を握られていた感覚』
 だった。
 そしてそれは、眠っている銀華も同じように感じていたはず。
 でもその先生はただの教師……だと、その時までは思っていた。
 そうだ。ガラスを割ったのは手品だと。
 きっと何かをぶつけて、ガラスを割ったのだと。
 あそこに転がっていた弾だってレプリカか何かで。
 何も出来ない、役立たずの戦闘機。
 可哀想な
 守ってさえもらえないなんて、と馬鹿にしていた。




「彼女の容態は、決してよくありません」
「そうですか。わかりました」
 そう医者に答えているのは南だ。
 あの後、学校、いや、七つの月に直接入ってきた電話でこの病院を教えられてタクシーを飛ばしたのだ。
 基本的に我妻草灯以外興味がない南だが、その彼女の容態を聞いて珍しく動揺した。
 病院に向かうタクシーの中で、南は考えていた。
 言語闘争で、あそこまで酷くなれるものなのか?
 彼は、もしかしたら草灯君以上じゃないのか?
 精神と肉体の両方に攻撃した。
 それも圧倒的な力でだ。
 それもその筈だ。
 恐らく彼、は、彼以上に訓練と経験があるのだろう。
 そして、もしかしたら言語闘争で相手を殺す経験もしているかもしれない。
 流石に命のやり取りまでは、学校では習わせない。
 だが彼にはその制限がない。
 どこまででも残忍かつ非情になれる戦闘機。
 そして軍人で、空を駆る戦闘機乗り。
 だからこそ、その戦闘領域を半端なく広く持てる。
 そう。彼は、純粋な、戦う為だけの存在……
 ゾクゾクする。
 どうして子供のときに出会わなかったのか、と後悔するほどに。
 南は、目を掛けていた我妻草灯以来、初めてという人間に興味を持った。
 医者が去り、南が独り言を呟く。
「主導権は、完全に向こうが握ったようですね」
 いつでもヤレルことを、これで証明したんですよ。彼は。
 の言葉は、流石に言えなかった。
 言えなかった言葉の代わりに、別の言葉が出る。
「金華君。体に障る。もう帰りたまえ」



 ベッドに横たわる銀華に視線を向けていると、スマフォが鳴った。
 非通知で掛かってきたそれに、南は一瞬怪訝な顔をしながらも、病室を出て電話に出た。
「はい」
『失礼します。あなた、南先生?』
「そうですけど、あなたは?」
『直接話すのは初めてですね。私、と申します。少し、あなたに聞きたいことがありましてね。そちらの学園から転校してきた君。ご存知ですよね?』
 確信を掴んでいる声で言われ、南は誤魔化せなかった。
「えぇ。知っていますが何か?」
 嫌な予感がする。
『彼、転校初日で怪我をして倒れていたんでがね、どうやらそちらの生徒さんが襲ったようなんですよ』
「何か、証拠でもあるんでしょうか」
 声が硬くなるのを、南は自覚した。
『いやいや、これは彼の証言から分かったことなんで、証拠はありません』
「証拠もないのに言ってくるのは、言いがかりって言うんですよ?」
『えぇ。ですが、彼女は元気ですか?』
「?!」
『俺の資料、見たんでしょう? 一切の反論は無用。こちらで全て調べは済んでいますから。そちらが仕掛けてきたんです。これ以上酷くなるようでしたら、受けて立ちますよ』
 受けて立つ、といった時の声が一段低くなる。
『分かってると思いますが、決定権はそちらにはない。そのこと身をもって知ってもらいましょうか。まずは、今病院にいる『彼女』から、死んでもらいましょうか』
 ハッとした。
 ギリッと、電話を持つ手に力が篭る。
 こんな屈辱は初めてだった。
 まさか病室にいる彼女にまで手を伸ばすというのか?
 これほどまでに容赦が無いのか。
――南先生。あなた、失敗しましたね
 その言葉が頭をよぎる。
 知らなかったとは言え、手を出してはいけないものに手を出してしまったようだ、と南は思う。
 これ程までに相手の闇が深かったとは。
「銀華の命は、取らないでいただきたい」
 ここで拒否をすれば、彼女の生命が無くなることを意味している。
 確実に殺されるだろう。
 そして、それを行える力と権利が彼には認められている。
『契約成立、ということでよろしいでしょうか。これ以上、うちの生徒に手を出さないでもらいましょう。あと気になったんですが、彼は本当に?』
「何が言いたいんです。先生」
『いえ、なんでもありませんよ。それと君ですが。彼には俺を操れないと思うんですよね。なんていいますか、そちらが何を教えてきたのかは存じませんが、彼は『甘すぎる』あれじゃぁ俺を制御できない』
「何がいいたいんですか」
『返しますって言ってるんです。あんな甘ちゃんでは、例え一緒にいたとしても、苦しいだけだ』
「……わかりました。引き取りましょう」
『それでは書類等は追って青学に送ってくださいね。では失礼しますよ』
 そう言ってからの電話は切れた。
 手のひらで遊ばれている感覚がする。
――気に入らない。
 ギリリと、南は奥歯をかみ締めて悔しそうに顔を歪める。
「それにしても、君の名前の特徴まで見抜くとは……」
 そう一人呟いて、南も病院を後にした。








「圧倒的な力で制圧する。それがの持ち味よ。見事な算盤だったろ?」
 と、船の上でそう話すのは、長い金髪を揺らすバラライカと厳つい表情のボリスの二人。
「えぇ。我々とは正反対ですな」
「あぁ。だから私は彼を気に入っている。だからこそ潰し概があるというものだ。と言っても、向こうも暴力には長けているからな。アイツとは、いい『戦争』ができそうだよ」
「機会があれば、ですな」
「機会というものは、作るものなのよ?」
 そう言って彼女はニヤリと笑った。







「ヘックション!」
 ん? 誰か噂でもしてるのか?
 くしゃみが出たは、そんなことを思った。
アトガキ
戦う為の空飛ぶ兵器=戦闘機ですよね。多分
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/12 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥