Sky Lord
12.Radius 1500km
 うわぁすげぇ幼稚だなぁ。
 と、他人事のようには感心する。
 こんな戦闘、まともにやり合ったことないからな。
 それにしても、こうして間近で言葉での戦闘を見るのは昔を含めて何度見ただろう。
 そりゃ確かに戻せばできるが、でも俺は使う気更々ないんだよ。
 悪かったなガキ共。
 そう思って、後ろを向いて去る。
 ハズ、だったんだけどなぁ。



 状況は極めて単純かつ複雑だ。
 闇が体を包み込む中、の頭は冷静に働いていた。
 まず、自身に今の状態では戦闘領域を展開する能力はない。
 既に展開しているものを、また更にすることは今のところ出来ないからだ。
――まぁ俺の領域を戻してない状態では、クリファイスだと思われるにダメージはいかないみたいだから、その点では問題ない。
 それに、自身も応戦する気が今のところはない。
 アレックスも、言語戦闘者としての自分を嫌っていたからな。
 あいつも、最後まで『人間』でいようとした野郎だったから。
「金ちゃん。もういいよ。やっぱり無能で役立たずで、自分のサクリファイスも守れない。最低の戦闘機だわ。潰して」


 軍人は走るのと耐えるのが商売だ。
 だがな、忍耐にも限界っていうもんがあるんだよ。
 あの言葉の中に、俺の地雷が埋まっていた。
 踏んだなぁ。ガキが。
 俺たちは、例え指一本でも接近戦になれば人を殺せる。
 そう訓練された。
 だからこそ『言葉』は大切だった。
 最期の最期まで、あの男は『言語戦闘者』としての力を使わなかった。
 だから死んだんだ。あの甘ったれは!
 ドクンッと、妙に大きく心臓の音が聞こえたと思ったら、パキンッと、頭の中で何かが割れる音がした。









「五月蝿い」
 その声は、まるで地獄の釜の底から響いたように聞こえた。
 何もかもを吹っ飛ばすような声音。
 がこの声を聞いたのは、昨日の日曜日。
 テニスの試合を見に行ったその時、不二と忍足の間に響いた、あの声音。
 いや、さっきのソレは、あれよりももっと迫力があった。
 たった四文字を言っただけ、なのに。
 三人は圧倒された。
「なに? 今の。中で何が起こってるの? 金ちゃん確かめて」
 銀華が命令を下す。
「お、おう。夜よ、少し離れろ」
 夜が離れたその一瞬だった。
 中から白い何かが飛び出してきたのは。
 そして次の瞬間、バキィという、なんとも変な音がその場に響いた。
 そんな異質な音に、ここにいる誰もが固まった。
 そして金華の前には、の姿があった。
「ぐあぁぁ!」
 一瞬遅れて響いたのは金華の叫び声。
「金ちゃん!?」
 驚いた銀華が金華に駆寄る。
 だがの手が、彼女の頬を思いっきり叩いた。
「イッ……あんた、あんた、金ちゃんに一体何したの!」
 痛かったのだろう。
 叩かれた頬に手を当てて、涙目になって銀華が問う。
「ウルサイ、ガキ。攻撃してくるものを敵と認識し、排除・殲滅することは俺の権限において認められている。それを行使しただけだ」
 あんな怯えた目をした二人をは初めて見た。
「あんた、何言ってるかわかんない! 金ちゃんをどうしたの!?」
 肘から下がダラリと垂れ下がっている金華の腕が見える。
「もしかして、折ったの?」
 ここで、ようやくが震えた声を出して問いかける。
「そうだ」
「あんた……」
 そこで銀華の声は途切れ、何を見たのかヒッと声を出して後ずさる。
「うっ……銀華。大丈夫だ。まだ、やれる。夜よ、この痛みを消せ」
 違う。こんなのは言葉による戦闘じゃない。
「ちがう。こんな、こんなのは『言語による闘争』じゃないよ! こんな……」
 の背中に向けてそう告げる。
 こんなのは、ただの暴力だ。
「だからなんだ。俺は俺に向かってくる敵に対しては容赦はしない。そいつらには先程言ったはずだがな。忘れるほうが悪い」
「ぐ……」
 痛いところを突かれたのだろう、二人が絶句する。
「確かにあんたはそう言った。言ったけど! まさか、あんな急に襲ってくるとは思わなかったのよ!」
 怯えた表情で銀華が叫ぶ。
「何もかもが異質よ。コイツ!! 金ちゃん、強制的に拘束して! こいつ変だ!」
 銀華の言葉に金華が脂汗を流しながら宣言する。
「夜よ。二人を強制拘束しろ!」
 ザァ。
 夜が降りてくる、と同時にその夜の中から拘束具が伸びてきての手首を拘束し始める。
 バチンッ
 痛い!
――そういえば俺、戦闘で拘束されたの初めてなんだっけ……
 ジャラ……
 金属音を言わせての前に立ち、静かに息を吐いた後、こう言った。
「Back to MyDomain Back to MyArea but I wanted to be it with a person to a limit」
 え?
 英語?
「今マッハ3で戻してるから、後十秒待て。それと、来た瞬間に多大な圧力がこの空域全体に掛るから覚悟しろ。、お前は除外されるが、銀華と金華だっけ? お前らは耐えられるかな。勝負は一瞬で決まる。言っておくが、そこの女の生死に関して、俺は問わんぞ」
「な?!」
 が絶句する中、女の声が響く。
「ハッタリよ。そんなの、できる訳ない! そうよ。覚醒もしてない戦闘機に何ができっていうの? 冗談じゃない。そりゃ、確かにちょっとは変だけど!」
 怖いのか、銀華が饒舌になる。
「金ちゃんの腕を折ったり、私の顔を叩いたしたけど! でも今拘束してるのはこっちの方なのよ? 動けないんでしょう? 痛いでしょう? そうよ、何もできないのよ!」
 そう叫ぶ銀華の声が震えているのを、はハッキリと感じ取る。
 しかし、そんな彼女の叫びを一切無視したが淡々と誰ともなしに告げる。
「来るぞ。
 In from 1.1
 point7
 .6
 .7
 .6
 HeatMissile FoxTwo」
 ドッンォォォン!!
 という、まるで雷が落ちたみたいな、そんな大音量の音が鳴り響いた直後だった。
 そして、信じられない光景がの目の前で展開されていく。
「ぐ……キャァ……あ……あ……ぁ……」
 あちこちから伸びてきた鎖に強制的に拘束されて、銀華の声が声にならない。
「グ……ゴボッ……」
 そしてそのまま彼女が血を吐いて、倒れてしまった。
 銀華が倒れたことで、過剰な力が戦闘機である金華を拘束し始める。
「お……前、いった……い、何を……した」
 なんとか声を出そうとする金華の言葉も、相当な『何か』の影響かで途切れ途切れだ。
 膝をつき、立とうとした金華は、やはり立てずにそのまま膝をついて『何か』に耐えている。
 そこにの声が静かに響く。
「さっきまでの威勢はどうした? ガキ。さぁ、たかだか7Gが半径1500キロの範囲で掛っただけじゃないか。さぁ、掛って来いよ。俺を試すんだろう? お楽しみはこれからだぜ? ガキ共」








『戦闘領域の広さが半端ではありません。彼は、本物の戦闘機にも乗るんですよ。つまりその戦闘機の『戦闘行動半径』という距離が彼の戦闘領域の広さということになるのです。その半径、約1500キロ。この国の半分を覆えるくらいの広さを持ちます。恐らくこれほどの戦闘領域の広さを持つの者は、どこを探しても彼一人でしょうね』
『南先生、日本の半分の『戦闘機』達から恐らく連絡が入るはずです。その対策も、よろしくお願いしますよ』
アトガキ
HeatMissile ・・・熱源探知誘導ミサイル
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/10 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥