Sky Lord
11.Ordinary Teacher
 学校を出ても、はすぐには家に帰らなかった。
 手塚の『世界が違う』という言葉、そして不二たちが何を言いたかったのかが気になったからだ。
 そうこうしている間に、金華の戦闘領域を感じ取り、その場へと足を向けた。
 彼らのいる廊下から少し離れた角で見ていて、は思い切って声を掛けた。
 しかし、その光景は異様だった。
 廊下のガラスが、一枚割れている。
 足元に転がってるのは、もしかしてテレビとかで見る銃弾? が転がっていた。
「お前は、どうしてここに……」
 少し怒ったような、どこか呆れたような様子のの言葉に、は反射的に「ごめんなさい」と言ってしまっていた。
 というか、もしかして本当に怒ってる?
「ごめんなさい。せん……せ?」
「なんで……ここに……」
 そう呟くの声が怖い。
 その声は、学校での声でもない、ましてやが家で見せていた声でもなかった。
――どうしてこの人こんなに怖いの!?
 そんな思いから、の足が自然と後退する。
「あの……先生?」
「『あの』じゃねぇんだよ! このボケェェ!」 
 そう言って一気に間合いをつめてきたの『手刀』がマトモに入る。
「イテッ!」
 ビシビシビシッと三発入って、頭が痛いです。先生。
――叩かないで。っていうか、っていうかぁぁぁ! 顔が鬼だぁぁぁぁぁ!!!
「お前のせいで何もかもぶち壊しだ、全く。あと一瞬でも遅かったら弾がそいつらの頭を貫通してたっていうのによ。どう落とし前付ける気だ? あ゛ぁ?」
「あの……ごめんなさい?」
 っていうか、弾が貫通? 何言ってるの?
「ったく。なんで来た」
 前髪を掻き揚げて心底疲れたようにそう言った後、盛大に大きなため息を吐いた。
「気になったから、です」
「気になった、ねぇ。もういいや。ガキのケンカに首突っ込んだ俺が馬鹿だった。そんな訳で俺はもう帰る。なんかアホらしくなってきた」
 そう言って金華と銀華に背を向けて歩き出そうとした。
「そうは……させねぇよ。折角も揃ったんだ。あんたの能力だけでも確かめさせてもらう!」
「金ちゃん。拘束して! なんかソイツ普通じゃない!」
「分かってる。俺たちの名前は『SLPEEPLESS』! 名が同じでも繋がっていない二匹の獣に闇を下ろす者! 戦闘システム展開!」
 始まった!
 とは直観で感じ取る。
――でもどうしよう。この人、何も知らないんだっけ。
「闇よ。あの先生を覆い尽くせ」
 そう言った途端、闇がの周りに集まっていく。
「やめろよ金華! 先生何も知らないし、何もできないんだよ?」
 はそう言うが、二人には聞いてもらえなかった。


「ダメよ。その先生、なんか変なんだもん。さっきも妙な気迫があってさ」
 そう答える銀華の声が震えている。
 だが立ち直った彼女が、金華に命令を下した。
「金ちゃん、もういいよ。やっぱり無能で役立たずで、自分のサクリファイスも守れない。最低の戦闘機だわ。潰して」
「分かってる。闇の中にいる者を完全に沈黙させろ」
 そう言って金華が宣言する。
「やめろよ!」
 これ以上、力を使えない先生を巻き込むのはやめて欲しい。
 はそう思った。








「この資料は、どういうことです」
 電話の相手が上司と共に直接持ってきた資料を見て南はそう言ったきり絶句した。
 机に置かれたファイルの、表紙に捺された『極秘』のスタンプ。
 そして、ファイルを開けてまず飛び込んできたのは一面真っ黒に塗りつぶされた報告書だった。
 だがそれは報告書というよりは、読ませないようにできている、単なる紙だった。
「彼が我が国に入ってきたとき、向こうから届いた唯一の資料だ。恐らく関わっている機関が塗りつぶしていったのだろうと思われる」
「どういうことですか」
――入ってきた?
「彼は、今でこそあの青春学園の教師ですが、本来は違います」
「違う?」
「これは口外無用でお願いしたい。というより、今回の件がなければ私たちのような下っ端が言えるべき内容ではないのだ」
「一体なんだというのですか」
 この二人でさえ『下っ端』だと告げるその真意が南には分からない。
 この二人は学園の担当官で、政府の中でも高官にあたるからだ。
 妙な苛立ちを南は隠せない。
 殺されると、電話口で言われた。
 しかし、言語戦闘で命のやりとりまでは出来ないはずだ。
 そう教えていないのだから。
 だが黒塗りの資料を前にして、南は得体の知れない恐怖に包まれる。
「彼は、この国では持つことが許されないものを三つ持っています。一つは銃・一つは軍・そして最後はそれに伴う義務と権利だ」
――銃? 軍?
 聞き慣れない言葉が二人の口から出た。
「彼は我々が調べた中でも、書類上最低三度は死んでいることが分かっています。一度は九歳のとき、二度目は軍に入ったとき、そして三度目は十五歳でこの国に入ったとき、です。その時の階級は陸軍少尉。死亡扱いですから、二階級特進で最終階級は大尉です。そして、この時既に『戦闘機』として覚醒していた模様です」
――軍人?!
「その一個中隊が、この国に極秘に入国したのだ。上層部は流石に困り彼に日常の生活を保証する代わりに義務を言いつけた。それが『嘱』だ」
「彼等の任務は対内外裏工作。ここから先は、あなたならお分かりになるはずでしょう」
『校長先生。あの戦闘機、全くダメだぜ?』
 送り出した金華の言葉が脳裏に空しく響く。
「それと現在、国は明かせないが予備役ながら空軍の大尉をやっている。上層部は反対したんだがね。しかし『どうしても』と先方から言われ、こちらが折れたのだ。つまり、彼を欲しがる国は何もわが国だけではない。そういうことだ。彼は、という人間は、昔から生粋の軍人であり、現役の戦闘機乗りでもあり、君達の言う『戦闘機』でもあるんだ。気をつけたまえ」
 資料を片付け、二人は席を立った。



「全く。どこが『駄目な戦闘機』ですか」
 受話器を取り、南が呟く。
 今すぐ彼等を撤退させないと確実に殺される。 爪を、隠していただけだ。
 早く彼等に知らせないと、本当に死ぬ。
 規模は不明だが、一個の「軍隊」が動いている。
 真実を知った南は、早急に彼らに連絡を取った。




 Pipipi…Pipipi…
「銀華、校長先生から」
 電話を取り出した金華が、銀華に確認を取る。
 しかし彼女はそれを後回しにした。
「後にして。それよりも、今はアイツを潰すのが先でしょ。金ちゃん」
「あぁ。そうだな」
 二人は、選択を間違った。
「夜よ。中にいる獣を潰せ!」
「止めろよ! 金華!!」
 は全力で叫んだ。
 だが、いつまで経っても夜の中から声は上がらなかった。
「?」
 が不思議そうに、金華が生み出した夜のほうを見る。
 その中から聞こえてきたのは、地獄の釜の底から響いたような声だった。
「うるさい」
アトガキ
動きます。
まだあまり怖くないね。
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/10 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥