Sky Lord
10.Withdrawal Right Now
『どうやら青学、大尉の学校に向かう模様』
『わかった。お前たちは外で待機しとけ。狙撃班は常に狙える位置に。俺が囮になる』
『了解』
 飛んで火にいるなんとやら、まさか向こうからお出ましとは、な。
 今は、とりあえずから聞いた二人組みが現れるのを待つだけか。
 昨日彼を連れ出したのは、向こうはもしかしたらの動きを把握しているのかもしれない。
 そう踏んだからだ。
 まぁ餌にした、と言えば聞こえは悪いが、囮にした、うーん。これも余り変らないか。
 とりあえず、動いてみて、ある意味正解だったなとと思う。
 このまま何事もなく過ぎてくれればいいんだがな。
 とも思うが、どうも嫌な予感が抜け切らない。
 いつもそうだ。
 こういう状況は余り好きではない。
 どちらかと言うと、正面突破の乱撃戦の方が得意だったからな。
 それに、護衛向きの訓練は苦手だったし。『アレ』のせいで。
 と、は思った。




「どうした? こんな時間まで」
 誰もいなくなった廊下に一人佇むのは、だった。
 だが明らかに様子が変だ。
 何故かは分からない。
 けれども何かが違う。
 そうが思ったその時だった。
 その違和感には気づいた。 
「お前ら『誰だ?』」
 そう言うと、さっきまでの姿をしていた男が、あの写真に映っていた男の姿に変わる。
 手品か何かを使ったのか?
 そう思ったが、すぐに否定する。
「へぇ。いい勘してるのね」
 と、響いたのは女の声。
 後ろ?
 違う、前だ。
 女も写真に写っていた女だった。
「ちょっと待ってくれ。どういうこと? あと、君たちここの生徒じゃないよね。学校に何か用?」
 私服を来ている彼らに対し、ひとまずは『先生』として、とりあえず探ってみることにした。
「あんた無能だなぁ」
 男の方が、いきなりとんでもなく失礼なことを言ってくれた。
 流石のも少し唖然とする。
「はぁ?」
「何よ『はぁ?』って。あんたって自覚ないの? 自分がの戦闘機だって。あーあ、やんなっちゃう。金ちゃん、確認取るまでもないよ? このセンセ、全く役立たずじゃない」
「悪かったな無能の役立たずで」
 おいおいおい、なんか知らないけど。
 人のこと言うに事欠いて『戦闘機』って。なに言ってんだ? こいつら。
 そりゃ確かに乗りはするけど。
 でもそれをこいつ等が知ってる訳ないと思うし。
 そういやぁ、も言ってたなぁと、ぼんやりは思いだす。
 攻撃する側のことを『戦闘機』だと。
 なぜそう呼ばれているのか、には全く検討がつかないのだが。
「兎に角、あんたと一戦やってこいってこっちは言われてるんだ。が居なくてもやってもらう」
 だから、なんでそこでが出てくる? と、は疑問に思う。
――というか、最初から目標が俺? どういうことだ? ならば何故をやった?
「ちょ、ちょっと待て! お前ら、もしかして俺とヤルつもり?」
 ド素人が俺と?
 あぁ。そういやぁ、言霊っつう戦闘の仕方もあったんだっけ。
 と、すっかり失念していた戦闘方法を思い出す。
 あぁ。今の今まで忘れてた。『あの』戦い方ね。
 っていうか、やっぱ解きたくねぇなぁ。
 いやだなぁ。
 戻りたくねぇんだよ。あの状態には。
 だって、なんちゅうか。
『最後の砦』ってヤツ?
 それにしても、すっかり毒気抜かれちまったなぁ。
 っていうか、緊迫感ゼロ?
 流石ヌルイ国の子供だ。
 命を、遠まわしに狙われてるって全然気付いてないし、警戒心の『け』の字もありゃしねぇ。
 完っっ壁に俺だけを見てる、視野の狭い連中だ。
 それに面白くもなんともねぇ漫才してるみたいで、少々気分が悪くなってきた。
 仕方ネェ。
『殺るか』




「お前等がどういった経緯でを襲ったのかは、この際聞くのはやめようか。それにしてもいい度胸だな、お二人さん?」
 そう言って右手を上げた。
『狙撃開始。ただし、命は狙うな』
 左手ならば『頭を狙え、即死させろ』だったのだがな。
 ちょっとこいつ等に本当の闘争を教え込むか。
 ここら一体はいつもの戦場。あの路地裏で遊んで、弾を飛ばしていたあの頃の戦場。
 そして、感情のないまま敵を殲滅させていたあの戦場だ。
 ほら、逃げないと喰うぞ?
 ピシッ!
 まるで空気が裂ける音がしてガラスが割れる。
「何!?」
 と、女の方が怯えた声を出して問う。
 そして、カランと鳴って足元に転がる弾丸を見た。
「お、お前、何をした!」
 途端男が怯えた声音でそう吼えた。
 おーおー弱い犬ほどよく吼えるってか?
「何って、一発撃っただけだ」
「撃った? な、何を……」
 言わなくても分かりそうなもんだがな。そこに残骸が転がってんだし。
 はそう思うが、弾を見ただけで、それがライフルだと気づける者は少ないだろう。
 そこに気づいて、は自嘲する。
「ライフルに決まってんだろ。大体遠方射撃するのに普通の銃使うかよ」
「ラ……ライフルだって!?」
 どうやら多少の軍用知識はあるようだと、は思った。
「そうだ。さっきからお前らのことずっと狙わせている。この国で部隊を展開するのは実に久しぶりだよ」
 そう言って笑う。
「お、お前。一体何モンだ!」
 そう問いかける声は、震えている。
 まさか、本当に生命のやり取りをさせられるなんて、考えていなかったのだろう。
「さぁ。何モンだろうなぁ。そっちで調べはついてるんじゃないのか? 七声学園だっけか。校長の名前は南律。相当な権力をもたされた、若き校長兼教師。そして言霊を使うやつらを集めている。これだけ情報が集まれば後の考察はたやすいことだ」
 ま、半分は二人の身辺調査の結果をそのまま口にしたのと、残り半分はハッタリだ。
「お前等じゃ俺には勝てんよ。俺は、俺の行く手を阻むものに対しては迎撃し、排撃し、そして撃滅する。親兄弟、必要ならば飼い犬までな。これ以上無駄な押し問答やると、実弾(タマ)当てるぞ」
「た、タマなんてありえない! それに、言葉での戦闘なら負けない!」
 食い下がるなぁ。
 脅しじゃないんだけどなぁ。
 っていうか声、震えてるよお嬢さん?
 そう思ってが左手を上げようとした。その時だった。
先生?」
「へ?!」
 一瞬注意がそっちに向いた。
 その隙を狙って、男の声が響いた。
「戦闘領域展開!」
 と。
「ちょっと。なんで来た?!」
 あと一瞬遅かったら、死体が二体、転がるだけで済んだのに。
 という言葉は、流石には呑み込んだ。
 それにしても、部隊の気配が消えたな。
 領域から弾き出されたか。
 仕方ない。
 予定外だが、遊んでやるか。









『南校長。今すぐ青春学園にいるへの攻撃を止めさせてください』
 緊急回線での電話を取ると、何故か切羽詰まった様子で向こうが言った。
「なんですか。挨拶もなしに」
 と、どこかやる気がなさそうに、電話に出た南が答える。
『あなた、相手がどんな人間か分かってて彼等を送り込んだんですか?! 今すぐ彼等を撤退させてください!』
 そんな理不尽な命令には従えない。
 それに君の戦闘機をずっとこちらも探していたのだ。
 最近やっとそれが見つかったと言うのに、そんな簡単に『今すぐ撤退だ』なんて言われて『はい。そうですか』などと言えるわけがない。
 だが次の言葉に南は固まった。
『殺されますよ!』
アトガキ
動きます。
まだあまり怖くないね。
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/10 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥