Sky Lord
09.Is it a joke?
あのテニスコートの一件以来、金華からの戦闘領域の展開はなく何事もなく過ぎていた。
と言ってもまだ一日だけだから油断はできないとは思う。
彼だって、いつでも戦闘領域を展開してる訳ではない。
そりゃ、戦闘機同士だと分かるみたいだけどでも、あの先生には自覚はない。
それは昨日のことでハッキリ分かったから。
七声学園に帰ろうかな、なんては思うが、律先生に会うのが何故かすごく怖いとも思う。
『俺を襲うのは、先生の指……示?』
『さぁな。お前が帰ってきてから聞けばいいさ』
学校を飛び出した。
それを南先生はどう思ったのか。
――なんとも思ってないかな。あの人、我妻さん人以外に興味がなさそうだったし。
『さんの戦闘機は、どんなのだろうね』
急に思い出した、年下の、青柳清明という青年のこと。
一度だけ話したことがある。
『俺の?』
『そう。さんの戦闘機、まだ見つかってないんでしょう?』
そう聞いてきた彼の口調は、確認の中に少し同情が混じっていた。
『うん』
『そのうち見つかりますよ。俺が保証します』
そう言って笑った顔がやけに印象的で。
『だと、いいけど』
反対に俺は、そう答えることが精一杯だった。
彼は、年下とは思えないくらいにしっかりしてて,そして自分の戦闘機を完全に支配していた。
完璧な戦闘機と、完璧なサクリファイス。
無敵だと思った。
実際。そうだったみたいだから、なんというか、だけど。
その時だった。
「ねぇ、君。転校生の君、だよね?」
廊下を歩いていたに後ろから掛り振り返ると、そこにいたのはテニス部の三年生レギュラーの誰か、確か不二と菊丸と眼鏡が分厚い乾、だったかなが立っていた。
――なに? 急に。もしかして昨日のことかな?
「そうだけど?」
「ちょっと、聞きたいことがあってさ」
通り過ぎる間際に「付いてきて」と不二君が言った。
彼等が向かったのは屋上。
こんなところで話?
「話って、何?」
「何って、昨日のジャージで分かったんだけど。君は、先生のところに居たの?」
居たか居なかったで言われれば、答えは一つだ。
「うん。居た。けど?」
「どうして?」
「どうしてって……」
どう説明したらいいのか、は迷う。
まさか戦闘機とサクリファイスの二人にやられたところを助けられました、なんて素直に言う訳にはいかないだろう。
「怪我をしてるとこ、助けただけだよ」
答えたのは、いつの間について来ていたのかだった。
驚いた三人が声のほうを見やる。
「先生?」
「先生!?」
「兄ちゃん?」
驚く三人に対して、注意するように告げる。
「こら、生徒は屋上立ち入り禁止だよ。戻った戻った」
話を聞く前に注意するに不二と乾が素直に従う。
「むぅ! 兄ちゃんのケチ!」
最後に菊丸がそう言って、三人は屋上から消えた。
一人残されたに対しても、は注意することを忘れない。
「ほら、も戻れ」
「は、はい!」
「仕事。珍しく詰めてるねぇ」
そう言って対面から差し出された冷たい缶珈琲には手を伸ばした。
「ありがとうごいざいます。ちょっと明日の夜。用事がありましてね」
と、一口飲みながら答える。
「ふーん。『仕事』かい? 」
「ちょ、こんなところでその話、しないで下さい」
と声を小さくして制止を求める。
「またか。ま、あんたのすることに首突っ込んでたら命がいくらあっても足りないけどね。そろそろ契約更新も近いんだろう? いい加減降りたらどうだい?」
そう言った途端、の空気が変わる。
いつもの温厚な『先生』の空気がガラリと変わり、その奥から正に凶気がドロリと流れてくる。
まるで地獄の釜の底のような、熱くて、血生臭くて、硝煙の……戦場の匂いだ。
「辞められません。こればっかりは」
ギリギリまだ『先生』の声だ。
「そうかい。体は、大事にしなよ? あんたは先生なんだからね」
そう釘をさしてきた。
「わかってますよ」
そう答えると、は仕事に戻った。
『標的一、動きました。』
『一だけか。二は?』
『二は動かず。あ、標的二にも動きあり。どうやら出かけるようです』
『わかった。そのまま尾行を続けろ。気取られるなよ。いくら素人でもな』
『了解』
さて。今日か明日か。
どうやって追い込むか。
まさか銃弾を降らせるわけにはいくまい。
カーニバルを演じて誘い込む、という手も使えない。
やはり、想定教則36のセオリーで行くかそれとも、呼び出すか。
相手はの言うことが確かなら、言霊を使ってくる。
出来るなら、ソレは使いたくないとは思う。
あの砦での攻防戦を、いやでも思い出すから。
ギシッ……
体重の移動で椅子が鳴る。
すっかり温くなった珈琲を一口飲んで、書類を書こうとしていたその手が止まる。
また、戻るのか?
声で人を殺す化け物に。
元々そうやって訓練を受けてきたんだろう?
だったらやる事は一つだ。
『失語症?』
『えぇ。あの一件以来、自分の声を封印したようです』
そこから付いたあだ名が『サイレント』だからな。
アル意味、笑えない冗談だ。
アトガキ
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管理人 芥屋 芥