Sky Lord
07.Monitor'ss
「集まっとるな。いいか皆。練習試合だからと言って、遊びじゃないんだ。気合い入れていきな」
 遠くで誰か、先生だろう人の声が響く。
 そろそろ試合が近いのかなと、はぼんやり考える。
 コートに続く一本道を、クーラーボックスを抱えながら歩くの後ろを、は黙って歩いている。
 空は快晴、遠くには積雲が所々にある、梅雨の合間の夏空だった。
 暑くなりそうだな、と少しだけ空を仰いでは思った。
 その時だった。
「あ……」
 と、がそう言って足を止めたのは。
「どうした?」
 そう問いかえるの視線の先に顔を向ける。
 だがそこには誰も立っていないように見えるのだろう。
「誰もいないぞ? ほら、試合始まるから急ごう」
 と言って、そこからコートに向けて再び歩き出した。




 その後、彼等の姿が見えなくなってしばらく経った頃に、二人が立ち止まった場所に現れた二人の男女の姿。
「あの戦闘機。自覚の『じ』もネェんじゃねぇの?」
 とはき捨てるように二人が消えた方をじっと見て言った。
「金ちゃん。戦闘領域収めていいよ。それにしても、使えないかもアレ。あんなのが戦闘機なんてバカじゃない?」
 声に誰かを小馬鹿にしたような声音が混じっているのが女の方。
「でもあの野郎はアイツが覚醒してるって信じてた。校長も、覚醒してるから引き合ったんだろうって言ってたしな」
 そう言い合って、一組のカップルに見える男女がその運動公園から出て行った。






「ほら! ちゃんとコーナー突けっつんてんだ桃城!」
 と、声を張り上げるが圧倒される。
 練習の相手は氷帝学園というところだった。
「海堂はちゃんとカバーしてるじゃないか。見えてネェのか?」
 コートチェンジの時、桃城君にそう言って
「見えてるッス」
「つまらん対抗心なんか勝負の前じゃ紙くず同然だ。捨てろって何度も言ってるだろう。海堂、お前もな。後は、お前等のライバル精神をいい方向に転がせるだけだよ」
 そう言って二人の頭をポンッと叩いた。
「あの二人に、勝ってこい」
 そう言って二人を送り出す。
 テニスなんてまったく知らないけれど、すごい試合だとは思った。


「ヒドイ、ヒドイで? ありゃないで……」
 そうブツブツ言うのは活発そうな桃城くんと少し雰囲気が怖い海堂くん(一つ下だから呼び捨てでいいのか)のダブルスで負けた、まだ猫耳と尻尾が付いている忍足侑士という眼鏡をかけて少し長髪の氷帝のダブルスの片方の人だった。
 もう一人の方は、ベンチで倒れてずっと休んでいる。
――というかこの人。関西弁?
「あかんて。の言葉は魔法の言葉なんやから」
 とがドキリとするくらい、その人は的確なことを言ってのける。
「侑士。お前、一応俺は今『先生』でお前は『生徒』しかも『部外者』なんだぞ? ちょっとは弁えたらどないや?」
 と答えるの言葉も関西弁になっていることには驚いた。
――え? 何?
「えぇやんか。どうせ顧問は竜崎先生なんやろ? それにもう俺、試合終わったし」
 と言って、首にかけているタオルで顔を拭いている。
「あかんて。あまり俺に絡むなよ侑士。ほら来た」
 が軽く後ろを少し振り返る。
 その直後、の後ろから物凄く冷たい空気を帯びた誰かが立っているのがハッキリと分かった。
「氷帝の忍足君が、何うちの『先生』に手を出してるのかな?」
 と、圧倒的に冷たい声音で響いたのは確か……
「不二。お前に関係あらへんで? それに減るもんじゃなし」
 そう答える忍足は、さっきまでとは打って変わっての硬い口調だ。
 顔まで変わっている。
 まるで、猫が獲物を狙う瞬間のそんな表情をしていた。
「お前等、争うなら他でやれ。一応俺はの引率なんだ。ガキじゃねぇんだぞ?」
 瞬間、不二の持つ冷気も忍足の持つ空気も、何もかもが吹っ飛んだ。
 口調はいつもの口調だと思う。
 だけど何かが違う。
 それは何?
 が疑問に思っていると、が話題を逸らすように
「それと侑士。榊先生がこっちを凄い目で睨んでるけど行かなくていいのか?」
 と、向こう側を指さした。
 指した方向に、確かに向こうの顧問の先生らしき人がこっちを見て睨んでいたから流石の忍足も
「ほな。また今度寄らせてもらうわ」
 そう言って去って行こうとしたとき
「ほら侑士! これ飲んどけ!」
 と言って、下に置いていたクーラーボックスからペットボトルのスポーツドリンクをが投げた。
 それを片手で捕ると
「おおきにな!」
 と彼は思いっきり笑顔になって、向こうの先生の下へ走っていった。
 忍足が去っていった後、
「不二。ありがと」
 と、後ろに立つ彼にもがペットボトルを差し出す。
「あー! ズルイ! 兄ちゃん俺には?」
 とどこからともなく響いた元気な声に、は一瞬ビクッとなる。
――それにしても「兄ちゃん」??? 先生じゃなく?
 どういうことなんだろう。
「おぉ英二。お疲れさん。ホレ、飲め」
「おーおー。相変わらず気が効くねぇ。もらうよ?」
 と、いつの間にいたのか顧問の竜崎先生が勝手にボックスからお茶を取っていた。
「どうぞ。それと、さっきからそこに居るのバレバレなんだけど。お前等。いいから出て来いよ」






「じゃ、俺は送っていきますから。先帰りますね」
 と、試合後のミーティングもそこそこに、先生は切り出した。
 それにしても、ホント。すごい人だとは思う。
――テニスも出来る、というかしてたのかな?
 がそう思ったのは、着ていたジャージを見た竜崎先生が『懐かしいねぇ』と言ってきたからだ。
 竜崎先生の話だとこのジャージ
先生が現役時代に着てた、昔の青学レギュラージャージ』
 みたいだし。
 大事なもののハズなのに、貸してくれたのかな。
 とは思う。
 そこからは悶々と考えてしまう。

 先生について、分からないことが多すぎる。
 それにしても、金華と銀華。SLEEPLESSのあの二人。
 俺のことずっと見てる。
 今日だって、近くで戦闘領域を展開していた。
 わざとしてると思う。
 わざと近くで展開させて、この人の反応を見てたんだ。
 でも、俺はすぐに分かったのにこの人は何の反応も示さなかった。
 やっぱり覚醒してないのかな?
 確かめたい。
 でも、確かめるのが怖い。
 確かめて、覚醒してなかったらって。
 そんなことになったら、俺、バカみたいじゃないか。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/07 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥