Sky Lord
04.Under Work
信じられんな……
そう思いながら、マンションの二階部分にある部屋で電話を掛けようとしたその手が止まる。
しばらく手を止めていただが、やがて思い切ったように電話を掛けた。
できるなら掛けたくない相手だったのだが。
恐らく、の言うことが本当ならこの国は動いてくれない。
『俺』を住まわせることにすら、出来るだけ穏便にしてくれてと及び腰だったこの国だ。
その上で利用してくるのだから言葉もないが、だがその辺りはギブ&テイクというものだろう。
しかしこの件に関しては恐らくいや、確実に動かないだろう。
そう考えては、最初掛けようとしていたのとは別の番号に掛けたのだ。
まさかそこでスカウトが入るとは思ってもみなかったが。
『珍しいな。君の方から電話が掛るとは』
と、最初の挨拶もそこそこに、は用件をいきなり言った。
「少し調べていただきたいことがありましてね。ここの公安は、動いてくれなさそうな事態ですので」
と、この国の言葉ではない言葉を使って話す。
ここは隔離部屋になっているから、外部に声や音が洩れることはない。
『受け渡しはどこがいいかね? オフィスがいいのかね?』
その申し出は断り
「いえ。家の近くに公園があります。そこで受け取りますよ」
と言った。
が倒れていた近くの公園だ。
『そうか。では、私が動くより適任の者が近く来る予定になっている。その者に届けさせよう。何、君もよく知っている人物だよ。急ぎではないのだろう? なら三日待ちたまえ。では異動の件。期待しているよ?』
そう言って相手が電話を切った。
――何が期待しているよ? だ。大体ワリジーノフ一等書記官、あんた一体いつからスカウトマンになったんだ。
と、電話を切った後にが心の中で悪態を吐いた。
「二人組みに、襲われたんです。」
ゆっくり、俯きながらそう話したの言葉に、途中信じられない言葉が混じっていた。
戦闘機?
戦闘機だって?
なにが? 何言ってるんだ?
『ちょっと待ってくれ。お前、一体何者だ?』
そう言おうとした自分をはギリギリのところで止める。
だが信じられないという思いから、回りの空気が硬化するのは避けられなかった。
当たり前だ。
――だったら、俺が乗ってる物は一体なんだ? そして『生徒』を、こんなにしたヤツを許せるほど俺は甘くない。『落とし前』だけはキッチリ付けさせてもらう。
そんな思いから、はに質問していた。
「とりあえず、その二人組みの特徴を言ってもらおうかな」
と。
チャキ……
という、金属特有の音をさせてソレを額にもっていく。
冷静になれ。事態に、状況に呑まれるな。
考えろ。
転校してきた。
彼はこの時期にして、強引に転入手続きが終わっていた。
そして前の学校は『七声学園』
もし、の言うことが確かなら、言霊での戦闘を行う人間を集めている。
相当な権力が働いているのは間違いないだろうな、とは予想を立てる。
そして、はその学校からの転校生だ。
初日にして血まみれで倒れていた。
襲ったのは二人。そしてそれは、『戦闘機とサクリファイス』という者達。
この『戦闘機』というのは……なんだ?
アレ、のことではないだろう。
あんなのが一般空域を飛んでいたら一発で分かるし、大体国が黙っていない。
の耳にも、あの聞きなれたエンジン音は響かなかった。
ということは、別の何か……の言葉を借りるなら『攻撃する側の人間』だと言っていた。
――ワカラン。
しかしが血まみれで倒れていたのは事実で、助けたのも事実だ。
まぁ、二人組みに関することは大使館の調査報告待ち、だな。
そう思ったは、遠い何かに狙いを定めて、一発だけ撃った。
マンションの一階部分に降りたは、そのままの部屋に向かう。
「、大丈夫か?」
まだ傷が全部塞がらない彼にが声を掛ける。
薬が切れるとまだ痛むらしく、隠し切れないのだろう、時折の顔が痛みで歪む。
「まだ傷が完全に全部塞がってないんだ。全身が痛いだろうが、こればっかりは我慢するしかない」
そう言って、痛みで細かい作業ができないに手を出させ、その上で薬をアルミ包装から取り出す。
「どうぞ。それは化膿止め。あと二時間したら痛み止め持ってくるから。遅いけど、昼飯作ってくるよ」
なんでも無いように言うと、はその部屋から出ていった。
アトガキ
2023/07/07 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥