Sky Lord
03.Confession at dawn
「あれ? 誰か倒れてる」
 道をはずれの暗がりで、誰かが倒れているのをの目が捉えた。
 近づくと、今日転校してきたが倒れていた。
 それも血まみれで。
 周囲に流れる血の臭いが脳に届いたとき、心臓の鼓動をはっきりとは聞いた。
 雰囲気の変わったに対し、手塚が珍しく慌てた様子で名前を呼ぶ。
先生?」
「大丈夫。分かってるよ。大丈夫だ」
 答えたが冷静に手塚に指示を出す。
「手塚、動いて。119番で救急車呼んで。早く」
 そう言ったが、の傷を手塚の鞄の中に入っていた予備のタオルで拭いていく。
「手塚、悪い。使うよ!」
「はい」
 喧嘩にしてはこの傷の数は普通ではないと手塚は思う。
 ざっと見、幸い致命傷はない。が、いかんせん数が多い。
「おい。。大丈夫か? 意識あるか? おい、できるなら返事しろ!」



 結局あの後、病院に連れて行こうと電話が繋がる直前に僅かに意識が回復したから
「病院はいやだ」
 と言われ、仕方なくの家へとを運び込んだ。
「手塚は服脱がして楽にさせて。その間に俺は湯を沸かすから」
 言われたとおりに手塚はの服を脱がす。
 制服のシャツを脱がしたときに、右腕に何か文字のようなものがあってそのまま手塚は固まった。
――この文字、の背中にあるものと同じ?



「まだ服は着せるなよ。体をとりあえず消毒。あとは……どうした?」
 お湯が入った桶を持って入ってきたが言葉とともに足を止める。
「なんでもありません。続けて」
 そう言ってベッドから離れた手塚が、を渡す。
 サイドテーブルに桶を置いて、絞ったタオルを持ち
「大丈夫だ。傷は多いけどそんなに深くない。ちょっと痛くて熱い思いするけど我慢だ」
 と言ってゆっくりタオルを押し当てていく。
 恐らく消毒液が混じったお湯だろう。
 当てた瞬間
「痛っ」
 との体が跳ねてしまう。それを冷静な表情で見やったが手塚に指示を出す。
「手塚。押さえて」
「はい」




「どうですか?」
 が部屋から出てきたところで手塚が声を掛ける。
 彼は一瞬だけ視線を手塚に移し、またが眠ってる部屋へと視線を向けて口を開いた。
「まぁ。致命傷はないよ。ただ、傷の量がちょっと多い。今は痛み止め飲んで眠ってるけど。起きたら痛いだろうな」
 そのままリビングを歩き、テーブルに置かれた珈琲カップに手を伸ばす。
「作ってくれたんだ。ありがと」
 そう感謝を述べて椅子に座り、一口飲む。
 何事もないようなの雰囲気に、手塚は
――のあの腕の文字、気付いてないのか?
 と手塚は思う。

  名前を呼ぶと、視線だけ合わせてくる。
の右腕に、あなたと同じ文字がありました。気づきませんでしたか?」
「あぁ。そういえば何かあったような気がするけど。ごめん。そこまで気付かなかったよ」
 と言って、珈琲をすする。
「でも良く見てるねぇ国。ひょっとして妬いた?」
 その言葉に、とっくに気付いていることを手塚は確信する。
「少しだけ」
 ここで意地を張っても意味が無いことくらい経験から分かっている。
 だが
「かなりだろ?」
 と間髪入れずに訂正される辺り、適わないと手塚は思う、。
 きっと言葉では、この人には勝てないのだ、と。
「そういう言い方するときって、かなりなんだよね君は。とりあえずどうする? 帰るなら送ってくけど」
「帰りません」
「わかった。ひとまず家には連絡入れておいて。今日は帰る予定だったんだから、さすがに心配するからね」
「わかりました」
「とりあえず俺から寝るよ。悪いけど、しばらく起きてて。それにしてもあれだけの傷。一体何があったと思う?」
――そんなことオレに聞かれても困る。
 だから「わかりません」と言うと
「まぁ、後でに直接聞いた方が早いかな」
 そう言って椅子から立ち上がり、
「おやすみ」
 少し眠そうにそう言うと、自分の部屋へと入っていった。










 誰だ? そこにいるの
 ……なに?
 キィィ……
 風きりの音?
 なに? 人じゃないの?
 誰? 何? この臭い……くさい?
 この臭い、もしかして灯油?
 キーィィ……ン
 それに凄い音
 何? ここ。怖い、怖いよ
 なに!?


 ゴワァ・・・
 すごく煩い音が響いたあとに訪れた強烈な浮遊感。
 
 空が……近い?



「大丈夫か?」
「先せ……い?」
 が目を開けると、ベッドの横にがいた。
――今のは何? 夢?
 がさっき見た内容を疑問に思っていると、が口を開いた。
「随分うなされてたんだぞ? 起きれる?」
 そう言ってが手を貸し、を起こす。
「今……何時ですか?」
「朝の十時だよ」
 の問いかけに、が答える。
「ちょっと待ってな。何か作ってくるよ。何がいい?」
「えっと……」
 その申し出に、は断ろうとした。
 これ以上の迷惑かけられないから。
 が迷っていると、の声が届く。
「君は昨日から俺の生徒で、怪我して倒れてた。そういうときは大人しく素直に「はい」って言いなさい。いいね?」
 そう言ってが部屋を出て行く。
 軽い口調だったけれども、の言葉には力があった。
 言霊なんか無くたって、の言葉には人を惹き付ける何かがある。
 少し文法がおかしいような気がするけれども、それをカバーできるくらいの。
――なんでだろう。
 は疑問に思いながら、が何かを作ってくるのを待った。



「あんまり冷たいものは体によくないから。ホットミルク作ったけど甘かったらごめん」
 渡されたカップから、はホットミルクをゆっくりと飲む。
 ベッドサイドの椅子に座るは、恐らく珈琲だろう。
 いい匂いが漂っていた。
「で、昨日は何があった?」
 と、が真剣な表情で聞いた。
――きた。
 が、布団の裾をギュッと握る。
「一体何があったか、教えてくれないか? その傷の量、喧嘩にしてはちょっと尋常じゃないよね」
 が問いかける。
――そんな目で見ないでください。甘えそうになる。
。何があったかは、お前が自分から言うんだ」
 少し低くなった声に驚いてが顔を上げると、茶色の真剣な瞳がそこにあった。
アトガキ
かなりうちのサクリファイス君は・・・なんなんだろう。
ちょっと乙女っぽいか?
・・・ワカラン
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管理人 芥屋 芥