Sky Lord
02.El primer Ataque
 見つけた。
 学校が、どんなに探しても見つからなかった戦闘機
 AIRLESS……気配なき……
 俺の戦闘機だ。





 最初はどこだったか忘れたけれど、何処かですれ違っただけなんだ。
 確か、どこかの街の交差点で……
 たまには街に出てみようって思って。
 それで歩いてただけだったんだけど。
 彼が、彼等が歩いてきた。
 すれ違った瞬間、分かった。
 そして驚いた。
 こんなにも簡単に出会うなんて……って。
 大人で、耳が無くて、男なのにどこか格好よくて、眼鏡の男と歩いていた。



 学校側はすぐに手配してくれた。
 この青学への転校、住まい、身の回りの物。
 いつもは逆だ。
 戦闘機を学校に迎え入れるんだけど、相手が成人しててしかも社会人だってことで、無理だと判断したんだ。
 律先生は。ちょっと悔しそうだったけどね。
『どうして見つけられなかったのですかねぇ。やはり、それが『AIRLESS』というものなんでしょうか?』って。
 そう言っていた。
 職員室で名前を呼ばれたときは本当に嬉しくて、はただ俯くしかできなかった。
 男にしては少し高めのアルトの声。
 だけど、この人には似合ってる声だった。
 それにしても、こんなに緊張するなんては思わなかった。
「いいから。入っておいで」
 そう言っての手を掴んとき、の体が震えた。




 朝の職員室での態度とか、先生同士の会話とか僅かの時間にが観察して思ったことは、この人は、何も知らないのかもしれない。
 それだけだった。
 が彼のサクリファイスだということも、スペルでの戦闘も多分、知らないのだろう事。
 覚醒は、しているとは思う。
 でなければ、あんなに簡単に引き合わないと、前の学校の校長である南律に言われた事。
 しかしながら、自覚が全然と言っていいほど無いんだとは思う。
 が指さした方へと視線を向けると、最初に見たときに一緒にいた眼鏡の男が座っていた。
「よ、ろしく。です」
 と言って席に座る。
「よろしく」
 そう短く返事をする彼も、耳がない。
 というより、このクラス耳ついてるの十人ほどしかいないことには気づく。
――外って、こう言うものなの? 俺、ずっと学校の中にいたから全然外のこと分からないけど……
 がそんなことを考えていると「SHR終わり」と言ってが、教室を出て行った。




「転校生のだ。これから学校案内をするから大石、後を頼む」
「わかったよ」
 放課後、時間があるかと聞かれて「うん」と答えると、手塚君の方から学校案内を言ってきた。
 途中テニス部に寄って(というか、彼が部長らしい。そして生徒会の会長。すごい)彼の仲間、大石っていう奴にそう言って、俺たちは学校を歩いた。
 一通り回ったあと、どこからともなくギターの音が響く。
「あの音は?」
「あぁ。恐らく先生がどこかで弾いてるんだろう。たまにこうやって学校で弾くこともあるみたいだからな。行ってみるか?」
 そう言われて
「はい」
 と答えた。


 二人が着いた先は音楽室だった。
 そこではすごいことを知った。
――先生。ギターがものすごく上手い。
 こんな、音で圧倒されるとはは全く思わなかった。
「ありがとうございました。すごく、上手ですね」
 がそう言うと
「たまには弾かないとね。ずっと音楽室で眠らされてるから機嫌とらないとそっぽ向いたら大変だからさ」
 そう言ってギターを抱え歩きながら話す。
 そして、音楽準備室の扉を開けようとしたところで、教室のドアがガラリと開いて女子の声が響いた。
「あ! 先生、ギター持ってる!」


「今日は、ありがとう」
 そう言って、は手塚と教室で別れた。
 テニス部の部長である手塚は、この後も練習があると言って学校の中に消えた。
 一瞬邪魔したんじゃないだろうかとは思ったが、彼の方から言ってきたんだし。いいよね?
 そして相変わらず微かに響くギターの音色に、どうやらドラムの音と声楽部も加わってるのだろう。ポップスだったけれど合唱になっている。
 まだ捕まってるらしいがいるであろう音楽室に一度だけ視線を向けて、は家に向かった。




 先生のことは、少しずつ知っていければいい。
 全然知らない、お互い「初めまして」の状態なんだから。
 そうだよ。
 焦る必要なんかない。
 学校近くの公園前までが来た時、目の前に現れた二人組みが来るまでは、本当に普通の日常だった。
「よう。AIRLESS。お前の戦闘機。見つかったんだろ?」
「SLEEPLESS。なんで、お前らここに?」
 長髪の男と女。
 男が金華で、女が銀華。
 その二人組だ。
――どうしてこんなところに居るんだ?
「なんでって。お前の戦闘機が戦えるかどうか試しに来たんだよ。校長から『行ってこい』って言われたんだよ」
 そう告げる金華の声は不機嫌そうだ。
「律先生が? なんで?」
「なんででもだよ」
「なんで? っていうかあの人はまだ戦えない。だって全然知らないんだよ? 俺たちのことも、自分が戦闘機だってことも全く知らないんだ。なのにいきなり。そんなの無理だよ」
「無理でもなんでも、これは学校側の命令だから。ま、あんたにとっては初戦だよね。あの痛みに耐えられるかどうか見ものだわ」
 人を馬鹿にしたような目で銀華がを見る。
 確かには今まで戦闘をやったことがないから痛みが分からない。
 その上、この名前の意味も校長の南から『気配がない』と教えてもらっただけで、それ以上のことはは知らない。
――いくらなんでも今は無理だ。
「その前に、とっとと呼べよ。できんだろ?」
 金華の声がの思考を中断させた。
「できない」
 の答えに、不機嫌な声で銀華が言う。
「もう。さっさと終わらせたいのに」
「だから戦闘機呼べよ。そんなことも出来ないのかよ、この恥さらしが!」
「で……きないよ。俺」
 は言い淀む。
 まだそこまで繋がってない。
 というより今日が『初めまして』なのに、そんなこと出来ない。
 わかってる。
 ずっと一人だった。
 サクリファイスの仲間が、戦闘機が見つかったとかで一人また一人と居なくなっていく。
 また新しい仲間も次々と見つかって……入れ替えが激しいなかで、はずっと一人だった。
 だから、見つけただけでも嬉しかった。
――それだけで俺は十分、だったのに。
 今から、明日からあの人のクラスで、一緒に……
 戦闘機とサクリファイスは、離れては生きていけない。
 はそう教わった。
 なのに……
 繋がっていないことを思い出すだけでの心が、体が痛む。 
『戦闘機がいないサクリファイスが受けるダメージって、通常の六倍近くなるって知ってたか?』
 そう言っていきなり攻撃してきた金華。
 なんで?
 なんだか、学校に、律先生に裏切られたような気がした。
 どうして?
 ダメージを受けるだけの存在。
 攻撃も、反撃も出来ないのに!
 そう思った時、意識が途切れた。
アトガキ
書き直しと加筆と修正してみた。
2023/07/07 CSS書式+加筆修正
管理人 芥屋 芥