とある町にある一二三商店を少し入ったところにその横丁がある。
地元の人でも、用事が無ければ寄り着かないその場所は。
誰が呼んだか『拝み屋横丁』


――そうだ。思い出した。あの感じ、あの隠居三人組が昔作った雑霊を集めたモノじゃないのか?
 昔、神主の北見、神父の米倉そして陰陽師の高田が作った、あの『絹代ちゃん』の感じじゃないのか?
 だとしたら、ヤバイかも……
 そう思うと、は精神を集中させ、そこから一気に大家の文世の家に飛んだ。
名前の力
 屋根に降り立ったが感じたのは、いきなりな衝撃波だった。
「うっわ!」
 と叫んで、ゴロゴロと屋根から転がり落ちる。
「ん?」
 と六人分の視線を浴びながら、そのままドスンと道に落ちた。
「イテテテテ……」
 と言って体をさすっていると、上から
「あ、丁度よかった。ゴンザレスさん。丁度家が半壊になりましてねぇ。少々手伝っていただきたいんですがよろしいですか?」
 と、顔を上げたところに文世が聞いてくる。
 そして、さっきとは人数が微妙に違うことは気づいた。
 ご隠居三人は除いても、なんだか一人増えているような……?
「なぁ文世。その子、誰?」
 と、さっきまで居なかった少年を指してが聞いた。
「ん? 彼は僕の甥の市川正太郎です。とは言っても、正太郎君は君のこと見えないと思いますけ……」
 という文世の言葉を遮るように、その正太郎君が
「ねぇ叔父さん。この人誰?」
 とを指して聞いた。
 これには、その場にいたご隠居三人組と東子ちゃんが驚いた顔をして顔を見合わせている。
「正太郎君。君、が見えるの?」
 と言うのは文世だ。
 コイツ、絶対普段面白がってる!
 とは確信する。
 が、そんなことは今はどうでもいい。
 文世がそんなに驚くってことは、この子
「もしかしてこの子。霊感ないの?」
 と聞くと東子ちゃんが
「全然。全くない。あぁそうか。あんた今実体化してるから見えるのね」
 そう言って一人、いや、四人が納得する。
「そうじゃな。は自力で実体化できるからなぁ」
 と、隠居組み三人がそれぞれ口をそろえて同じことを言った。
「ねぇ叔父さん。この人……」
「あぁ。ここに居着いてると言います。よろしく。正太郎君」
 と、文世が変な紹介をする前にさっさと自分で自己紹介を済ませる。
 恐らく、この波動というか『感じ』からして、彼女? 絹代ちゃんは彼によって吹っ飛ばされたんだと思ったからだ。
 あんな強い雑霊を吹っ飛ばせるんだから、もし文世があんな名前のまま紹介したら……
 想像するだけで怖い。
 そんなことになれば一気にこの姿が不安定になってしまうだろう。
 そんなことを考えていると東子ちゃんが
「ねぇ君。この家、あんたの力でなんとか直せない?」
 と、とんでもないことを聞いてきた。
ナ ン デ ス ト ?
 こういうのを、人の言葉で表すならば『血の気が引く』とでもいうのだろうか。
 幸い血は流れてないが。
 それでも、どこかしら体温が下がった気がするのはきっと気のせいではないとは思った。
 それは無理だよ東子ちゃん。と言おうとしたところで、大家の文世が口を開いた。
「しょうがないですねぇ。しばらく応急処置として、廃材か何かで壁を作りましょうか」
 と。
 そして
「当然、皆さんも手伝ってくれるんでしょう?」
 と、笑顔なんだか、笑ってないんだかな微妙な笑顔を俺を含めた五人に向けて言った。
「「「「「は……はい」」」」」
「ホイっと」
 とさんが軽い動作で脚立に登る。
「ご隠居、トンカチ貸して」
 というと、トンカチだけが浮いた状態に彼の姿がスーッと目の前で消えていった。
 そして
「そこじゃ。そこに打ってくれ」
 とご隠居が指示を出す。
 すると不思議なことに、木が自然にくっ付いていく。
「すげぇ……」
 思わず声を洩らすと、横から神父の米倉さんが
「あのお方は聖霊だからな。大方木の聖霊たちに協力してもらっているのだろう」
 と言った。
「よし。見栄えは悪いけど、粗方できたね。どうだ? 文世。中の様子は」
 壁の向こうにいる文世に向かってそう聞いているのは
「ま、こんなものでしょう。あとは横丁の皆さんが帰ってきてからということで」
 と言うと、外で横丁の皆が帰ってくるのを待っていた。
 そして、帰ってきたのは横丁の皆だけではなかった。
 家の状態の説明をしているときに
「壷を割ってしまいまして」
 という文世の言葉を事もあろうに正太郎君が受け継いだ。
「この家は……」
 という正太郎君の言葉に、めずらしく『しまった』という顔をする文世。
 そして
「絹代ちゃんに壊されちゃった」
と言った瞬間だった。
 ビュンッ!
 と黒い何かが飛んできたのは。
 ん?
 と思ってが振り向くとそこには、正太郎の頭の上に乗る、黒いカラスが一匹。
 そして
『アンタの為に、実体化して戻ってきてあげたわ』
 と喋った。
「なぁ文世。あれ、どうするの?」
 カラスが喋るという事態にちょっとした騒ぎになっている横でそっと聞くと
「当分預かるしかないでしょうね」
 と言って、珍しく文世が兄に電話をかけていた。
 それにしても、名前の力、いや言葉の持つ意味や恐ろしさを改めて実感しただった。
「ね? ゴンザレスさん?」
「だから、それ付けるなぁぁぁ!!」
 と、今日も今日とて響く聖霊が一匹……
アトガキ
一巻 第一話 二分割
シリーズなので原作に沿ったり沿なかったり。
2011/12/28 加筆書式修正
2007/05/29
管理人 芥屋 芥