Can't escape?
「よぉ。よく居たなお前」
今回の情報を渡す男が、心底驚いた様子で話す。
正直逃げると思ってたんだろうな、とは思った。
暗い倉庫の中、声だけは響く。
ココは腐れたゴミタメみてぇな街だ。
「持ってくるって言ったろ」
の青い瞳が、倉庫の中に僅かに入り込んでいる月明かりに照らされて僅かに光る。
「ま、半分は信用してなかったけどな」
男がそう言って、が差し出した封筒を受け取った。
中身を取り出し、入っていた写真をかざして見る。
「なるほど。こりゃ確かにウチのもんだ」
その口元が歪む。
こいつ、楽しんでる?
はそう思ったが、何も言わない。
正確には口を挟めない。
この状況、周りは手下で固められているのだから。
「偶然写ったもんに報酬はいらねぇよ」
用件は終わったはず。
これ以上束縛するなとでも言わんばかりの声でが言う。
「偶然だ? 違うな。お前は狙って行った。そうだろう?」
写真を封筒に仕舞い、男が言う。
「さぁね」
そう答えて帰ろうとしたの後ろで、撃轍が鳴った。
「吐け。狙っていたな? お前」
この男がその気になれば、頭一発撃って終わりだ。
そのことを理解しながらもは深く息を吐くと
「偶然だ」
そう答えると、即座に男が口を開く。
「ガキが」
その一言にはカチンときた。
「ガキじゃねぇよ。この街じゃガキは生きられないの、あんたも知ってるだろう」
普段寡黙なから出る、言葉。
十七年、ここで生きてきた。
俺はどうやら日本人とここの人間との間の子供らしいけど、目が青いってだけでここに置いていかれ、以来ずっとこのゴミ溜みてぇなこの街で生きてきた。
この街では、子供のままじゃ生きられない。
「ふん、そりゃそうだ。じゃ、今回の報酬だ。受け取っとけ」
一瞬で、男との距離が縮まった。
気が付いたときには、なぜか男の腕の中だった。
「テメェ!……ッ」
抵抗しようにも息が続かずの頭が真っ白になる。
ようやく解放されたのは、息が上がって足の力が抜けてからだった。
「だからお前はガキなんだよ。これからもよろしく頼むぜ? 情報屋」
そう言って男が去った頃には、の体から力が抜けて、地面に両膝がついていた。
「うるせッ」
毒づくに男はニヤリと笑って、
「ふん。逃げられやしねぇよ。お前はな」
サングラスの奥から、まるで勝ち誇ったかのような視線をに向けて男はその場から去った。
残されたは、力の抜けた体をなんとか立ち上がらせると、誰もいなくなった倉庫で一人呟いた。
「逃げ切ってやるさ」
その瞳に決意を露わにして、静かに。
例えそれが、三合会の張相手でもな。と、心の中で呟きながら。
アトガキ
2011/12/28 加筆書式修正
管理人 芥屋 芥