「賊狩り、ですか?」
そんな命令が下ったのはついさっきのことだった。
へー
ふぅん
ま、嫌われているこの剣虎兵には『相応しい』仕事だな、とは思った。
だが声に出しては言わない。
ただ思うだけだ。
言ったところで、命令が変更されるわけでもなかろう。
嫌われ部隊
「うん」
と、少し力が抜けたような声でそう答えるのはここの分隊長。
新城直衛中尉、だ。
まぁ、嫌われてるのを肌で知ってるのはこの人だからな、と視線をさまよわせながらは「失礼しました」と言って部屋を出ていった。
「行くんですかね」
と聞いてきたのは西田だった。
「さぁな。でもまぁ命令が下ったということは、俺たちはそれに従うだけさ。でも賊狩りとは。少しは暇つぶしになるかな」
と自信があるようなことを答えた。
の言うことは間違ってはいないのは確かだった。
軍人と賊では話にならない。
そして新設された剣虎兵、だからこそ嫌われているのは確かだから。
「だからといって、暇つぶしにもならなかたら俺暇人決定だなぁ……西田?」
そこまで聞く必要がなかった西田は、もうとっくにのそばから離れていた。
「つれないヤツめ」
そう呟いたは、改めて肩をすくめた。
「助けてくれ! ……命だけは!!」
所々でそんな声が上がっている。
だが中尉からは『全滅させよ』との命令が(何故か)下っている。
だから殺した。
容赦なく。
しかし素人相手の殺し合いだから、なんの感情も沸かなかった。
今まで散々悪いことをしてきた連中だ。
だから俺たちが手を下したんだ。
力のある人間が、『命令』を受けた人間が悪いヤツ等を殺すんだ。
これは『正当』なことだろう?
だって、これは『正義』っていう大義のタメに殺してるんだから。
それに、訓練以外で体を動かすってことを最近しなかったからな。
殺す感覚を忘れてたのは確かだからな。
丁度いいと言ってしまえば、いいのかもしれないが……
それにしても、最近暇だ。
訓練・訓練で実践がない。
そろそろ自分の中の野獣が暴れそうで、その手綱を握るのが少々難しくなっているんだ。
だからと言って、それを出そうとする訳じゃないんだけどな。
まぁ、なんていうか。
出る時期を待ってるっていうか、な。
俺自身よく分からないんだけど、そんな感じ?
「命だけは、命だけは助けてくれ! 頼むよ、この通りだ! 命だけは……命だけはッ!!」
そんな必死の声にもなんの感情も沸かない。
むしろ気持ちが冷めていく。
こんな連中のために狩り出された、ある種のやり場のない怒りもあっただろう。
だが、それをこんな連中に向けるには余りにもこいつらは『素人』すぎた。
どうでもいい。
怒りとむなしさで何もない。
「命だけは、ねぇ。お前、盗賊だろう? 今までどれくらいその言葉聞いたんだよ。なぁ?」
力が抜けた様子で言い、そしてそのまま銃剣を首に刺した。
ズブリ……という肉の間に剣先が入っていく感覚にも、もう既に慣れた。
いや、慣れすぎてなんだかあっけないくらいだ。
こんな、あっけなく制圧できるくらいなら、出る必要はなかったなぁ……
と、は漠然と思う。
ドサッ
と相手が倒れる音にすら興味がなく、首に手を当てて空を見上げていると
「燃やしたら、任務完了だ」
というこの隊の隊長新城中尉の声を聞いて
「油を持て」
と部下に命令をしてその場を去る。
火が灯る。
その火が大きくなり、炎になって燃え上がっていく。
どうせなら、もっと燃え上がって自分のいるところまで炎がくれば、自分もこの暇な時間から解放されていいのかもしれない。
まぁ、どうでもいいけど。
激しく燃え上がり、炭になりそうだなぁと思ったところに、引き上げの命令が下った。
とは言っても、部下には既に帰投の準備が下っていたようだからな。
こんなところに長居は無用だから。
どうでもいいさ。
こんな連中が炭になろうと、なんになろうと。
「なんでこんなところに……?」
そんな声はもう慣れた。
まぁ、町に剣虎がいるだけで不安になるのは分かる気もするが。
なんせ、一声命令をすれば彼らを襲うことも可能だ。
この辺り一帯を血の海にすることもできる。
が、それはやらない。
というよりもできない。
何故ならそれは『大義』ではなくなってしまうからだ。
別に彼らと戦争をしにここに居る訳ではない。
だから、彼らにはなんの興味も示さないし、第一する意味もない。
だから彼らの戯れ言は、俺にとっては何の『意味』も持たないのだ。
「一人も捕らえることは……」
という老人の言葉に中尉は
「できませんでした」
と答えていた。
だがそれは嘘だ。
捕らえることは可能だった。
特に最後に死んだあの頭領、は、いや、あの頭領以外にも捕らえようと思えば捕らえることは可能だったろう。
それを『全滅を』と言ったのは他ならぬ中尉自身だ。
これまた残酷なご命令ですこと、などと思ったものだ。
ま、息抜きにもならないがな。
「嘘でしょう?」
と西田が聞いている。
嘘だろうな
と思っていたら案の定
「もちろんだ」
と中尉が答えていた。
やっぱり……
だが「生け捕ることは可能だったのではないか」の言葉に俺は少し口を曲げた。
嘲笑、という訳ではなかったが、しかし、言っていることが少し『難しい注文』だったからだ。
その理由を説明したのは曹長だ。
「奴は懐に匕首を飲んどりました。生け捕りは不可能でなくとも面倒ではありました」
と。
やはりな。
まぁ、殺して妥当だった、いうかね。
顔も覚えていないがな。
この後、帝国が襲ってくるなんて全く考えていなかった。
けど、なんとなく『そんな気』がしてたんだけど、でもまさか隊全体に『しんがり』を任されることになろうとはなぁ。
アトガキ