Über dieLinse
Als Wörter Sachen
猫が落とした携帯に腕を伸ばして拾い上げると、は一息息を吐いて既に台所へと逃げている子猫を一睨みする。
が、当の子猫はどこ吹く風の涼しい足取りでの足元をすり抜けてコタツの方へと戻ってしまった。
――コイツ!
そんな子猫の様子に青筋を立てながら内心の苛々を顔に隠さずにいると、男が申し訳なさそうな言葉をかけてきた。
「あの、すみません」
「何」
険のある声と顔を隠さずに男の言葉に答えながら、はそのままコタツへと足を進めそのまま男の真正面に不機嫌そのままにドカリと座ると、男は擦り寄ってきた子猫の相手を止めての顔を真っ直ぐに見上げて言った。
「あの、俺、勝手にその、ここに上がりこんでしまったみたいで。すみません」
部屋の見慣れない物が溢れていることに違和感を感じつつも、男は少年に再度謝る。猫の一件で少しは少年の警戒心は薄れたようだが、それでも勝手に上がりこんでしまった自分を不審がっていることには変わりは無い。
「帰るのか」
それならそれで大歓迎だ。
そう言わんばかりの少年の声と言葉に、男はさっきから疑問に思っていたことを切り出した。
「はい。ですが、ここは何処ですか。できれば帝国内のどこかであればいいのですが。それなら歩いて帰え……」
男の言葉を遮るようにして、さっきが拾った携帯電話が彼の手から滑り落ちてコタツの天板にガシャリという音を立てて落ちた。
「……今、なんつった」
「?」
聞く少年の声は驚きの色を含んでいて、答える男は一瞬彼の言った言葉を理解できず疑問の表情を浮かべるそんな男に、が再度問いただす。
「だから、今なんて言ったって聞いたんだけど」
さっきの自分の言葉に何かあったのだろうか。男がそんなことを考えている間にも少年は三度(みたび)同じ質問をした。
「だから、さっきのあんたの言葉に聞きなれない言葉があったんだけど」
聞き……なれない言葉?
自分は何かオカシナことを言ったのだろうか。
そう思い直し、男が聞き返す。
「えっと、歩いて帰るってことですか?」
もしかして、自分は歩いて帰れない距離まで一晩で歩いて来たのだろうか。ならば一晩かければ元の場所に戻れるだろう。しかし違ういうのなら、一体何を使ったのだろう。馬車かそれとも馬自体を盗……ヤバイ。
もしそうなら、自分は警察に突き出されてもおかしく無い。そして、男の焦りなどお構いなしには言葉を続ける。
「違う違う。俺が引っ掛かったのはソコじゃない。もっと前の言葉。帝国とか何とか聞いたんだけど気のせいだったか」
確かに言ったような気がする。というか、言った。言ったけれどそこまで疑問に思われるようなことでもないはずだ。何故ならここは帝国内……もしかして……
「ここ、もしかして共和国なんですか?!」
「っは?!」
焦った男の表情と声とは裏腹に、少年の表情はとても驚いたものへと一瞬で変化した。
再度変な沈黙が部屋を支配する。
――ちょっと待て。帝国に共和国……どこだ。コイツは何処のことを言っている。帝国ってことは、大英帝国か。というか、そこくらいしか思いつかない。んでもって共和国。共和国っていうと、クサルホドあるぞ。見た目は、スラブ系だろうか。少なくともアングロサクソン系じゃなさそうだ。しっかしあの辺りは移民も多いから……って、コイツの服は軍服か……だとしたら俺の範囲を越えてやがる。どうするか。
などと、頭が高速回転しているに向かって男が問いただした。
「だとしたら、俺は捕虜に……なったんですか?」
もしそうならば見慣れない家具の状況も理解できる。が、それにしては物が多すぎないだろうか。しかもさっきは明確な答えは得られなかったけれど、猫まで飼っているとなると、捕虜というにはあまりにも待遇が良すぎるような気がする。
「ほ……捕虜!?」
――コイツは何を言ってるんだ?
「え、違う……んですか?」
の戸惑った様子に、どうやら自分の考えが間違っているのかもしれないとそんな不安げ表情で男が言うが、そんな所までは気をまわす余裕はなく、別のことを考えていた。
恐らく何かが根本的にかみ合ってない。そんな感じをひしひしと感じるのは気のせいか。
感覚的な話だが、この手のザワリとした直感は大体当たることが多い。あの人みたいに百発百中じゃないところが痛いけれど、でもカナリの確率で大抵当たる。
頭が痛くなりそうになりながらもは説明を試みる。この男、本気で病気か何かなのかもしれない。と。
「あのな、ここは俺の家だ。そんな捕虜なんてもんを匿うようなところじゃない。んでもって、昨日まではあんたは居なかった。ってことはだ。昨日の晩にあんたはここに不法侵入したってことになるんだけど、もしあんたが夜中にフラフラと行動してしまう病気ってんなら病院に行くことをお薦めするよ」
と、警察に連絡するのは止めとくからと言って、既に男の手に完全にスッポリ納まっている白い子猫に手を伸ばして抱くとそのまま床に猫を置いた。
その際、まるで抗議するように猫が鳴いたがそれを少年は一切無視する。それどころか、猫の頭を抑えて移動も抵抗もできないようにしている。
そんな静かな攻防を見て、しかし男は意を決したような表情で少年に告げた。
病気じゃないと思いたかったが、現にこうしてこの少年の家に無意識のうちに上がり込んでしまっている以上、そう思われても仕方がない。
警察に連絡をやめてくれただけでも、ありがたいと思わなければ。
「病院に行けるほどの、お金はありません。ですが、フラフラとここまで来てしまったことは事実ですから、ここが何処なのか教えて下さい。後は、自分で帰りますから」
「ここは東京だ。もしあんたが軍の人間なら、横田か厚木に連絡取れる人知ってるからその人経由で引き取ってもらってもいいけど、どうする?」
そう言って、コタツの中から出て立ち上がるとはさっき天板に落とした携帯を拾い上げて男に聞くと、男から信じられない言葉が返ってきた。
「あの、横田とか厚木とかって一体何の話ですか?」
と。
「え……?!」
これで驚くのは何度目だろう。というか、コイツの服は軍服じゃなかったのか?
違うとしたら、何だ。自分と同じマニアとでも言いたいのか。確かに本職と予備役の知り合いは居るには居るが、そんなマニアな外国人の知り合いは居ないはずだが。とは言っても、あの人を単なる予備役って言っていいのかどうかは甚だ疑問なんだけどな。と、知り合いに入るその人のことが頭をよぎる。
それにしても、この男日本語上手いな。
と、てっきり男が本職の人間だと思っていたは最初からその思考を改めねばならなくなり、速攻で思考を頭の中で組替える作業に入るその過程の中にあって、まだお互いの名前を名乗っていないことに気がついた。
「……あのさ、今更っちゃ今更かもしれないけど、聞いていいか」
「はい」
携帯をもって電話を掛けようとしていたが再度コタツに入ると、改まって聞いた彼の表情に男もまた声を固くして聞き返す。ここがの家である以上その主導権は彼にあることを重々承知しているようだ。
「あんた、名前は?」
まさかそう聞かれるとは思わなかったのだろう。男がキョトンとした表情で固まった。
今の今までお互い名乗っていなかったのを不思議に思うべきか。というかイキナリ現れたらそりゃ混乱するだろうよ。猫にミルクやったり構ったりしながらも、頭の中は混乱してんだから。
「だから、あんたの名前。俺はってんだ。一応ここの家の家主ってことになる。そんでもってこっちは半分飼い猫のミーだ」
ミーの説明に際して、相手が疑問を持ってしまう言い方をしたのははっきりと自分が飼い主だとは言い切れない部分があるからで、こういうところでは変に正直に話してしまうクセがある。そして、それは初対面の相手だろうと変ることは無かった。
悪い癖だってことは分かってんだけどなぁ……と、いつも言ってしまった後に後悔するである。
……さん」
少年の名前を初めて聞いたとき、聞きなれない名前の順番だと思った。
どちらが名前でどちらが苗字なのか、この順番では分からない。
きっとが苗字でが名前なのだろうと見当をつけ、自分の名を男が名乗る。
「俺は、ランデル。ランデル=オーランド」



男の名前を聞いたところでは今までの男の言動から不思議に思っていた疑問点を、頭の中で今までの言葉を再生させていくつかにピックアップする作業に入った。
不思議に思うところはいくつかある。というより、疑問や疑念がこの男にはありすぎる。
まず帝国と共和国という国名と共に飛び出した捕虜と言うきな臭い言葉。
そんな、明らかに何かがオカシイ言葉を使いながらもその割りには厚木や横田を知らないということ。
もしかしたら太平洋第七艦隊の新人の隊員かとも思ったのだが、最近入港したというニュースは入ってきていない上にオーランドと名乗った男の着ている服は明らかに海の服じゃない。
それ以前に、目の前の不審な男からは潮の臭いがしない。だから海ではないと見当をつけたのだが、どうやら空の人間でもなかったようだと思い直した。しかし陸の座間キャンプの人間かとも思えない。
もし座間キャンプの人間ならば、が横田か厚木と言った時点で訂正を入れるはずから。
そこまで考えて、はこの男が本気で病気か何かなのかもしれないと思い始めているのを、男は知らない。
名前からして英語圏の人間なくせして、そして服は自分の経験から分かる範囲だが明らかに軍服なくせして、厚木や横田の人間じゃない。
これが何を意味するのか、にはサッパリ分からない。
だから、最終手段としては男の話を聞く事にした。
どうやらそれしか方法がなさそうだからな、と一つ小さくため息を吐くとが男に問い掛ける。
「あんた、一体どこから来た」
と。
その質問に、男も疑問に思ったらしく聞き返してきた。
「ここは、帝国のどの辺りですか?」
と。
また帝国だ。その言葉が出るのは二度目か。って……まさか。
は、さっきからかみ合っていないような印象をここにきてようやくそれが正解だったと理解する。
どうやら、本気で自分たちの会話は最初から噛み合っていなかったらしい。
「ここは、帝国なんて名の付くところじゃねぇよ。六十年前までは確かに帝国って付いてたけどな、今じゃそんな一時の膨れ上がった名前は捨ててる、ただの日本国だ。あんた、さっきから帝国だの共和国だの言ってるけどアメリカは合衆国だ。ってことは、大英帝国から来たのか?」
おいおいおい、それなら英国大使館に連絡しなきゃ。俺の手には負えないぞ。
そう思ったところで、オーランドが再度言葉を投げかける。
「そんな国の名前は初めて聞きます。えっと、じゃぁフロスト共和国は知ってます……よね」
オーランドの言葉に、は頭の中で世界地図を広げてみるが、そんな国は存在しない……ハズだ。
そのことをオーランドに告げると、彼はとても驚いた様子でとんでもないことを言った。
「そんなことは。だって、つい半年までずっと戦争してたじゃないですか!」


この時の衝撃をなんと言ったらいいんだろう。
にはしばらく言葉が見つからなかった。それほどの衝撃だった。
そして沈黙が流れた後にの口から出た言葉は、どこかの関西人を思わせる言葉だった。
「んなアホな」
と。
「半年前ってお前、そんなの有り得ない。大体この国はあの戦後から今まで六十年間一度だって戦争したことねぇし!」
「そんなッ。だって、俺たちはずっと戦ってて。つい半年前に停戦が決まってやっと戦争が……」
お互い身を乗り出しコタツを挟んで言い争う二人の間に、妙な音楽が流れた。
「電話だ」
「?」
その音は、オーランドにとって初めて聞くような軽快な音だった。
一体どこから流れているのか、キョロキョロと頭を動かして確かめるとどうやら天板に置かれた小さなソレから流れているようだった。
小さな、初めて見る何かが光りながら音楽を鳴らしている。
その不思議なものをが掴んで操作すると、音が止まった。
「チッ、アイツか」
嫌そうなの声と表情に、どうしたんだろうと疑問に思っていると彼の手はその折りたたまれたソレを開けて耳に当て、顔を少しだけオーランドから背けるようにして逸らしながら、何かを話し始めた。
――なんだ、それは。
そう思ったきり、オーランドは驚きの表情を隠せないでいる。どうやらその小さなソレの向こうにはという少年が話す自分以外の別の相手が居るらしいことを予想させる……って、どうやらそれは、自分の想像を遥かに越えた代物だったらしい。
「あぁ。分かってる。っちょっと俺今取り込み中なんだ。……長くなるなら、悪いけど後にしてくれ。じゃ」
パタンという音を立ててそれを閉じると、再度天板の上に置いてはオーランドに向き合って話の続きを……しようとした。
が、どうやら彼の興味はコタツ天板に置かれた携帯に向いているようだと理解すると、
「気になるのか、携帯が」
と聞いた。
「あ、はい。あの、これは一体?」
まるで初めて見る物のように不思議そうに携帯を眺めるオーランドの質問に、が何気なく答えた。
「あぁ。携帯電話だよ。って……」
何気なく答えたはいいけれど、その途中で言葉が止まる。
違和感は、確実に大きくなっている。
戦争が半年ほど前に停戦したと言ったり、聞いたこともないような共和国の名前を言ったり。
果ては携帯電話を見て『これは何』だと?!
「あ……あんた、携帯電話は初めて見るのか?」
恐る恐る男に聞く。
というか、多分これで肯定されたら確実にこの男は、その何だ。病気か記憶喪失か何か(相手には失礼だとは思うが)だと思う。
だって今の時代、携帯電話はさほど珍しくない……と思う。例えそれがアフリカでも。
いや、まぁ。秘境ってんなら話は別だけど、しかしコイツはどう見たってそんな格好はしてない上に、勝手な見立てだが軍属っぽいことは間違いないだろうから。
その辺りは完全にの勘でしかなかったが、あれを追いかけて10年余り。
基地の中の人たちともかなり話せるようになって身についた、匂いのかぎ分け方というか。
とにかく、そう言った人達の匂いは何となくわかるようになっている。
「あ、はい。ですが、こんなものが電話なんて。あの、これは本当に電話なんですか」
恐る恐るとった感じで、オーランドがコタツの天板にが置いた携帯をマジマジと見やっている。
「電話だよ。さっき掛ってきてたろ」
「あ……はぁ」
納得したのかしてないのか分からない声のオーランドの返答に、はこの朝何度目か分からないため息を小さく吐く。
「あんたさ、さっきから帝国だの共和国だの。おまけに半年前に戦争が終っただの言ってるけど、証拠ある?」
まさかこんなエスエフちっくな質問をするハメになるとは、本当に心底予想してなかったんだぜ。
っていうか、誰か冗談だと言ってくれ。せめてドッキリか何かだと、もしこの家の玄関ドア一枚隔てた場所にそういう看板を持ったおっちゃんが立ってて、今にも『ドッキリですー』なんて言って出てきても全然不思議じゃないから。
というか、せめてそんなジョークの範囲だと確認させてくれ。少なくとも現実だなんて思いたくない。
顔が険しくなるのを自覚しながらも、それでもは言葉を止めない。
だって、そんなの『有り得ない』からだ。
そんな有り得ない現実が、どうやら目の前で起こっているらしい。そのことに何だか頭がクラクラしそうになりながらも懸命に言葉を続ける。
「証……拠?」
「そう。証拠。言っとくけど、そんな捕虜とかを出すような戦争なんてこの国では少なくとも起きてないからな」
戦争が、起きてない?
「う……そだ」
「嘘じゃねぇよ。大体なんだよ。イキナリ現れて捕虜だの帝国だの。六十年前じゃねぇんだぞ」
ろく……十年?
さっきも、その言葉が出た気がする。彼の、二度目の『六十年前』という言葉。
「六十年前に、何が、あったんですか」
「そんなことより証拠だ証拠。あんたがそんなことを言う根拠を出せって言ってるの」
冗談でも何でもいいから、今はとにかく証明がほしい。
もしこの男が本当に停戦から半年の世界から来たのだとして、じゃぁそんな世界はどこにある?
それは本当にこの世界の話かという問題が発生する。
というか、そんな大規模な戦争状態ましてや停戦云々なんて話は……隣の国か?
有り得ない!
あそこだって停戦状態から今まで(最近はキナクサイ情報が流れてるが)それでも直接戦闘行動地域なんてことはない。
第一米軍が動いてない。そんなことになれば陸続きの中国・ロシアはもちろん、海を挟んでる日本だって只じゃすまないからだ。
「証拠」
六十年前の話を無理矢理流されたことは分かった。
分かったけど、どうやら掘り返す余裕は与えてはくれなさそうな雰囲気だからオーランドもまたそれを流した。
また、いつか聞ければいいと。
今はとにかく、彼に証拠を出さなければ。しかし一体どうやって彼に証明すればいいのだろうか。
カラン
微かに響いたその音は、確かに聞きなれた金属音だった。
ランタン。そして銃。
証拠に、なるのだろうか。
自分が今身に付けている物といったら、服以外じゃこの二つくらいだ。
しかし彼を、証拠を出せと言っていると名乗った少年を納得させるにはこれしかない。
「これが、証拠になるのなら」
と前置きした男は意を決してベルトからランタンと銃を引き抜くと、ソレらを彼が電話だと言った物が置かれたテーブルの天板の上にゴトゴトと重そうに置いた。
鈍い音を立てて置かれたソレ等のものを見て、は言葉を失った。
「あの、さん?」
少年のことをどう呼んでよいのか分からないオーランドは、とりあえず教えてもらった彼の名前の最初の部分だけで呼びかけてみた。
きっとこちらが苗字だろうと踏んでそう呼びかけてみたのだけれども、当の少年は驚いた表情のまま固まったきりジッとその天板の置いたランタンと銃を眺めたまま動こうとはしない。
自分は、何か彼を固まらせるものでも出したのだろうか。
だとしたらきっとランタンの方に驚いているのかもしれない。
自分は、あの戦場で語られるあの戦場伝説の部隊なのだから。
ランタンの部隊の話くらいは、知っているのかもしれない。
と考え、少し男の表情が暗くなる。
が。少年が実際驚いていたのはランタンの方ではなくて、銃の方だと知ったら、男は驚くだろうか。
――オイオイオイ、ヤバイヤバイぞオイ。これはヤバイ
背筋に嫌な汗が流れるのを自覚しながら、はそれでも平静と保とうとした。
こんなものって、あの人の管轄じゃねぇか。俺には無理だぞマジで!!
内心焦りながらも、それでも何とか平静を保とうとする。
何だよ銃って。しかもかなり……この銃?!
「ミャオ?」
と、猫の声がしてそちらに視線を向けると、何時の間にかオーランドが座るコタツ布団の中にちゃっかり納まっていた子猫のミーが不思議そうな声で鳴くのを、はちらりと見てから安心したように小さく息を吐いた。
それにこの場合、猫の勘に頼るしかない。あのミーが銃を持っていると分かった今でも自分から擦り寄っていくってことは、それを信用するしかない。
数分後、猫の男に対するじゃれ具合を見たはイキナリ撃ってはこないだろうと判断して、男に対して口を開いた。
「……なぁ、オーランドさん」
「はい」
緊張した面持ちでオーランドが答える。その返事の仕方は、やはり彼が軍に属しているのではないかとさえ思わされる。
「この銃って、何ミリだ」
「えっと、十三ミリ……です」
そう聞く辺り、自分もマニアだなぁと思う。
が、やっぱり気になるじゃねぇか!
それに、初めて見る銃の『型』だ。こんな型、今まで見たことも聞いたこともない。
「弾、見せてもらっていい?」
「……はい」
まさか銃の方を聞かれるとは思わなかったオーランドが、少し驚いた表情を見せながらの質問に答えていく。
猫に多少失礼させてもらって、オーランドがその上着を脱ぐとその腕のところにあったのはズラリと並んだ銃弾の数々だった。
――何発持ってんだよ
と、半ば感心したような残りの半分は呆れたような感想をその銃弾の数に持つが、声には出さない。
「腕のヤツは外してここに置いて、もし中に装填されてるなら、ちょっと見せてもらって良いかな」
とりあえず、相手が状況を理解していない間に武装解除させなきゃ。俺がヤバイ。
そんな意図を全く知らない男が、ゆっくりと手を伸ばして銃を持つとバシュッという音を立ててその装填口を開けると弾を取り出してに渡してきた。
その時の間近で見たオーランドの手はとても大きく、それ以上に傷だらけだったことが気になったが、今はそんなこと気にしていられない。
とりあえず、一安心……ではあるわけだ。まだ危険物を隠し持っていなければの話だが。
それにしたって、俺がこんなにも緊張してるってんのに、ミーのヤツ!
と、男の体にじゃれ付いている子猫を恨めしそうに見るが、当の猫はそ知らぬ顔でのん気なものだ。
「十三ミリ……か」
男から渡されたその弾丸を間近で見て、はコタツから腕を伸ばして本棚の隅の方へと手を伸ばしてそこにあった定規と何かを取り出すと弾の直径を計り始めた。
「確かに十三ミリだな」
ゴトリと持っていた弾丸を天板に置くと、今度は銃の方へと手を伸ばした。
装填口を見ると、単純構造……単発装填?!
おいおいおい、こんな銃、どんな場面で使うんだよ。
少なくとも、スピードが要求される撃ちあい鉄火場の場面で使われる銃じゃなさそうだ。一撃はデカそうだがな。
そう判断して、は男に告げる。
「なんだか良く分からないけど、あんたの言葉、信じるよ。その戦争状態が停戦した云々っていう話。その上で悪いんだけど、あのさ、とても言い難いことなんだけどさ。悪いけど、この銃は没収だ。この国では、銃を持つことは法律違反になっちまうんだ」
と。



証拠を出せって言われたから銃とランタンを出したのに、銃の方を取り上げられてしまった。
おまけに
「予備弾も出せ」
と有無を言わさない声で言われ、仕方なく渡すと彼は心底安堵した表情を見せて教えてくれた。
ここは、彼の話によればどうやら帝国ではく『日本国』というところで、戦争なんて六十年も前にとっくに終って今はとても平和な国だということ。
そして、この世界には帝国という名の付く国はあるにはあるが、そこも既に大戦と言われる戦争はとっくに終わり、あるのは大英帝国という国があるだけという説明だった。
そんな簡単な説明を受けて、最も衝撃だったのはこの世界には『フロスト共和国』が存在しないことを教えられたときだった。
「そんな国、存在しねぇよ」
「う、嘘ですよね!?」
「嘘じゃねぇよ。ほれ」
そう言って本棚から取り出した地図を広げて見せられた世界の国名一覧の中には……
「これ、何て読むんですか?」
――なんだ、この文字。
初めて見る文字に固まっていると、さんが声を掛けてきた。
「って、あんた日本語話せるくせに字、読めない……」
待てよ。エスエフってヤツを考えるなら、もしかしたらコイツが話してるのはこいつの言葉なのかもしれない。そして、空気を通すとお互い意思の疎通が出来るとか何とかってヤツじゃねぇのか。これはもしかして!
うあ、なんだそのトンデモ設定は。
と、降りかかってきた信じられない状況にが改めて男の名前を言う。
「オーランドさん」
「はい」
改まり少し堅いの言葉と声に、オーランドが背をただす。
客観的に見るとこれって本当にオカシナ状況だよなと、朝っぱらからコタツで二人と一匹が何やってんだかと思えるほどに、さっきから言い合ったり緊張したり確認したりで昨日夜中三時頃まで起きていたとしては少々眠気が襲ってきて頭も痛くなってきた。
ついでに顔も凶悪にあってるだろうなという自覚がある。


眠いときに不機嫌な顔になっちまうのは生まれながらの仕様です。


「あんた、軍属だろう。階級は?」
と、最初の印象一番聞きたかったことがやっと聞けた。これで完全に目が閉じる前に眠ってる間に起こったことの整理が出来る。 そう思った。
「えっと、ご……」
ゴッ!
答えを聞く前に、その答えと重なるようにしての頭がコタツの天板にそのまま急転直下で倒れこんだ。
アトガキ
趣味全開です
2023/08/01 CSS書式
re;2009/06/04
2006/11/22
管理人 芥屋 芥