theMeaders!
物語は、知らない間に進行する
「今、誰かの悲鳴が聞こえたような気がする」
空耳かと思ったが、どこか胸の中がザワザワする。
「ごめんマイザーさん、チェス。先に行ってて」
 二人の名前を言い先に行くように言うと、学校の方へと走り出す。
「あっ!」
兄ちゃん?!」
 二人が後ろで名前を呼ぶのを振り切って、彼は走った。
「ごめん、あとで追いつくから!」
 そう叫んで。
 
 
 
「絶対『食いたい』なんて思うなよ?」
「分かってるって。でも・・・お前・・・本当にいいのか?」
 遠慮がちにフィーロが言う。
 こんな記憶なんて、弟には継がせたくない。
 そんな思いからだが、彼の決意は硬かった。
「いいよ。だってフィー兄の負担、少しでも軽くしたいからさ」
 そう言って椅子に座るにエニスが
「ですが、いくら情報共有したところで、渡す側の情報が消えるというわけではありませんよ?」
 と、言いにくそうに椅子に座る義弟に忠告する。
 一瞬下を向いた彼だったが、顔を上げてはっきりと言った。
「それでも、義弟(おとうと)として、かな」







1931 12.31
「ところでマイザーさん。列車でやってくる、古い友人って?」
フィーロがマイザーに聞く。
ここは、駅の待合広場。
今日ここに到着する、『フライング・プッシーフット号』でやってくる一年前に出合った友人達を皆で待っているのだ。
年があける前日に到着する大陸横断鉄道のその汽車は、すごく豪華なものだと話に聞いたフィーロは朝からずっとソワソワしていた。
「マイザーさん、もう少し早く」
と、運転する眼鏡をかけた男、マイザーを後ろからフィーロが急かす。
だが、それに答えたのは助手席に座っただった。
「道が混んでるんだからしょうがないだろう?
 大体フィーロ、そんなに急いだところで汽車は時間どおりに来るんだから!」
と、正論を叫んだに後部座席のフィーロの横に座るエニスが冷静に意見を述べる。
「確かに、さんの言うとおりですね」
と。
「エニスまで!」
そうやって二人に追い込まれたフィーロに対しは助手席で小さく息を吐いた。
その様子を、マイザーが微笑んで彼らをジッと見ていた。
あの時初めて隣に座る少年の本当の名前を知ったと、感慨深く思いながら。
「マイザーさんは、俺たちが不死者になってしまったことを後悔しているようだけど、多分そんなこと気にするような人たちはこのファミリーには居ないよ」
と、不死の酒を飲んでしまったファミリーを前にして嘆くマイザーにが言った。
そして
「ま、下っ端の俺が言っても全然説得力ないけですけどね」
そう言って本当の少年っぽく笑い、それにつられるようにしてマイザーも苦笑しながらも
「そんなこと・・・ないですよ」
マイザーが答えた後、は言いにくそうに鼻の頭を人差し指で掻きながら
「マイザーさん。俺、今まではアメリカ人っぽくなるように偽名を使ってたんだけど、本当はって言って、ヤグルマさんと同じ日本人なんだ」
と言うだけ言うと、驚いて一瞬動きが止まったマイザーを他所に、そのままファミリーが騒いでいる輪の中に飛び込んでいった。
「俺も混ぜてくださいよ!」
 
 
駅について、ガンドール三兄弟と合流する。
「やぁ、ラックさん」
は、三兄弟の末っ子であるラック・ガンドールに向かって声を掛けた。
この二人は、本当の意味での末っ子同士なため気が合うのか、プライベートではよく話してる方だと思う。
「やぁ、、それに皆さんも」
ラックが彼の後ろに立つフィーロ、エニス、マイザーに向けて声をかける。
この三人は三人で今日、汽車の車掌としてやってくるクレアに用があるのだ。
「早く見たいなぁ」
というフィーロに対して、マイザーが答える。
「フィーロ
 フライング・プッシーフット号は、駅に着く手前で電動汽車に取り替えられてしまうんですよ」
と答えると、エニスがどこから聞いたのかこう答えた。
「残念でしたね。
 どうやら、直前におきたトラブルによって、全車取り替えられてしまったらしいです」
と。
だからその姿が拝めないと聞いてすごくガッカリした表情を浮かべたフィーロだったが、すぐに気持ちを切り替えてマイザーに列車でやってくる友人について聞いた。
「彼は、臆病な人です。
 一人でなんでも抱え込んでしまう、そんな人です」
マイザーが友人についてそう評すると、ラックが言った。
「長生きには向かないタイプのようですね」
と。
――ところでフィー兄、いい加減エニスさんに告白の一つでもしたら?
――な!?なに言ってんだ急にお前?!
――だって、あれから一年ちょっと、全く進展なしじゃんかよぉ
――だからってお前なぁ、こんなところで出来るか!
あの事件の後ずっと付き合ってる(ハズ)エニスに、告白の一つでもしたらどうだと、周りから散々言われているのに、未だにフィーロは行動しようとはしない。
感情が分かりはするが理解ができないホムルンクルスであるエニスが相手だからこそ出来ることであって、普通の女性ならいくら気の長い女性であったとしても、丸々一年何も進展が無しでは、待てるような時間ではないだろう。
だから、
――だから言ってんじゃんか
――お前なぁ!
――明日は新年だし、友人も集まってくるしで、いい機会だと思うんだけど?
などともっぱら急かしているのは彼一人なのだが、それでも周りは特に長老衆などはフィーロのことを半ば孫を思う気持ちで見ていることを敏感に感じ取ったが代表して言っているのだが、如何せんこういうことには奥手なフィーロは未だに一歩踏み出せない。
――俺、エニスさんみたいな『義姉さん』ってほんと理想だと思うんだ
そういわれると、フィーロは何もいえなくなる。
ったく、この『義弟(おとうと)』は・・・
そして二人が結婚に踏み切るまでに、この後五十年は待たなくてはならなくなるとは、流石のもまだ、この時には全く予想していなかった。







20xx年
「君には脱帽しますよ、君。
 その再生力、不死の体、全くもって魅力的です。
 が
 それが災いとなって、契約することは不可能なのですよね」
意識が戻りかけ、声が響く。
「ここは・・・どこだ?」
どうやら廃墟の中の様子だが、一体いつのまにこんな状況になったんだ?
それよりも、田九朗さんは?
マイザーさんは?チェスは?
皆どこ・・・?
体が完全に再生し視界が戻ると、目の前には見たこともないような身体的に同じ年か一つくらい上だろう少年が、レザー地のソファに座ってを見下ろしていた。
それにしても、随分と廃れたビルの中だな・・・
余裕でそう思いながらも、一応口だけは怯えた感情を出してみせる。
「君・・・誰?」
永い間に、こういうことが身についてしまった悲しい性か。
チェスのように丸々『少年』っぽく振舞うことは許されず、かといってフィー兄のように大人とも見なされない中途半端な年に不死者になっちまったもんだ・・・と、こういう時にいつもは後悔する。
子供とも大人ともつかない、中途半端な年齢。
今までも大人扱いされたことはなく、かといって子ども扱いもされない中途半端な年頃。
自分が今まで知り合った子供達は、今は立派な大人になっているのに・・・
まぁ、不死者になった瞬間から、そういうことは考えないようにしてきから、すぐに頭の隅へとその気持ちを追いやった。
先ほど問い掛けて今まで、彼からの返事はない。
ならば
「もう一度聞くけど君は・・・誰?」
見たこともない恐らく中学校の制服であろう服を着崩している目の前の少年に再度問い掛けたが、返ってきたのは逆問いかけだった。
「君こそ、何者なのですか?」
問い掛けるガキの視線が腕の方へと向かっているのを追って、視線をやると服が破れていた。
これは・・・
ヤラレタな。
は直ぐに確信した。
「俺は・・・結城圭介ってんだ」
偽名が言えた。コイツは不死者じゃない。
ならば、もう怖いものはない。
そうだろ?
「嘘を言ってはだめですよ君。
 でもまぁ、偽名が名乗れるということは、僕が不死者ではないという確信にはなるというところですか」
その言葉に、わずかにの顔に驚きの表情が宿る。
こんな子供がアメリカのFBIですら極秘事項である不死者について、何故知っているのか。
「俺たち(不死者)のことをどこまで知ってる」
「さぁ。
 ですが、その研究を基礎として彼らが作られた・・・といえば、分かりますか?」
不死者の研究?基礎?彼ら?作る?・・・俺たちじゃない、フィー兄やマイザーさんやチェスはそんなことはしない。
ましてやアイザックさんやミリアさん、ガンドールファミリーは絶対にそんなこと・・・
心当たりがある。
いや、心当たりが有り過ぎて、頭がクラクラしそうだった。
過去幾度となく『彼』の関係者が現れては消えて、現れては消え、そしてまた・・・
裏で糸を引いている者達の一人。
自分達と同じ、いや、マイザーさんやチェスと同じ1711年のあの年にあの船の中で不死者になった錬金術師の一人!
「ヒューイ・ラフォレットか!」
アトガキ
バッカーノ!
2023/08/07 CSS書式
2008/01/22
管理人 芥屋 芥