うるさい教室。
ガキって皆こうなのかねぇ……
どうなんだろう。
ま、『まとも』な少年(ガキ)時代送ってない俺にとっちゃ、初めて見る世界ってことだけは確かだな。
捨て置け。
それが一番だ。
教室を出ると、真っ先に体育倉庫に向かうと、屋上に行った。
張り巡らされたフェンスの強度を確かめるとニヤリと笑って、倉庫から取ってきたロープを結ぶ。
そして、そこからは横壁の運動。
これが案外気持ちいい。
まぁ、訓練で俺は一番これが好きだったから、な。
「もう。何やってるんですか、先輩」
東雲がフェンス越しに俺に向かって声を掛けた。
「何って、ビル降下訓練だよ。ちょっと待て。今そっち行くから」
ったく、降りるより登る方が体力いるんだぞ?
「危ないですよ?」
と、フェンスの外側に居て、足を空中に投げ出して座る俺を見て東雲が一応『注意』をする。
少しでもバランスが崩れたら、俺は空中に放りだされるのを危ないと思ったのだろう。
だがこんなことは慣れている。
それにさっきは側壁に足をつけていたんだぞ?
「それ、誰に向かって言ってんだよ。お前、俺のバランス感覚疑ってるの?」
そう言うと
「もう。一応『先生』からの注意です。それにしても、先輩全然クラスに馴染んでないじゃないですか! ちょっとは小学生らしくしてくださいよ……」
最後の言葉は、弱かった。
呟きっていうか、そんな感じだったけど
「聞き捨てならないなその科白。あのなぁ、今更俺がガキらしくできるわけないだろうが」
――タダでさえこの年齢までは戦場にいたんだし
最後の言葉は、言えない……よな。流石に。
「それは、分かってますけど……でも、羽渡さんが一生懸命話し掛けてるのに、無視はダメだと思います」
そう言って軽く睨んできた。
おぉ。ちょっとは成長してるんだな、コイツも。
と、別の考えが頭に浮かぶ。
初めて会ったときは、教育研修だったかな。
公立の小学校の教員に一発で合格したから、それなりに優秀だってのはすぐに分かった。
分かってけど、コイツ自身もちょっとガキっぽかっていうのだけは、記憶にある。
まぁ、変わってないっていえば、変わってないのか……
「いいんだよ。馴染まなくても。どうせ俺はいつか消える。この通常ではない状態だって、いつかは終わりが来るんだ。次会うときは、俺はお前よりも年上になってるんだから気にするなよ」
「でも、それじゃ謎の人物のままですよ?」
コイツのこういう天然なところ、俺は案外好きだったりする。
「ぶっ……はっはっはっはっは、いいねぇ、『謎の人物』ってさぁ! やっぱ東雲、お前最高だよ!」
笑いが止まらん! 最高だ! コイツ!!
「先輩、笑いすぎです!」
顔を真っ赤にしながら東雲がそう言っても、俺は笑いを収めなかった。
「いい……お前発想が天然だよ。いいねぇ、そういう考えの自由さってさ。俺にはないから、羨ましく思ってるだけさ。それにしても、謎の人物ねぇ……」
「まだ言う気ですか?」
頬を膨らませて、ちょっと怒ってるか?
「あの羽渡って子によく言っとけ。もう俺に話し掛けるなって。それとあの青柳って子にもだ」
「え? 立夏君?」
意外な顔で俺を見る。
ってことは、気付いてないな。
「視線が煩いんだよ、青柳は。それと、あいつの兄貴だがな、あれ、生きてるよ。……じゃな!」
と言って、東雲がその言葉に反応する前に、そこから身体を下に自分で放り投げた。
「ちょ……先輩! どういう意味ですか!? 立夏クンのお兄さんが生きてるなんて!」
東雲がそう叫んでたけど、この際気にしなかった。
『何故かは自分で考えろ。俺が元に戻るまでの宿題だ』
と、壁の途中に足を付けて、彼女に手旗信号でそう告げてると俺は今度こそ地面に降り立った。