一瞬、自分の身に何が起きたのか理解できなくて呆然としているところに、自分を吹っ飛ばした誰かが自分を吹っ飛ばした勢いそのままに床に倒れこんでいるのが見えた。
そして、その彼に手を伸ばしかけたスーの姿も。
おめぇ、そんな顔できんだっぺな。
滅多に変わらない彼の表情が、まるであの時のような表情をしていて、何故か視線が外せなかった。
気がつけば視界は床に近くなっていて、おまけにノルに何かを言われてドアが閉まる音で我に返った。
そして今、家の外にいるのは自分だけだと、周囲の状況を把握する。
「え……えっと……ノル?」
シンッと静まり返った誰も居ないエントランスで、エレベーターが勝手に作動して下に降りていくその、音もなく動いたそれにビクリと体が反応してる自分を不思議に思う。
「?……??」
この静けさに、遥か彼方の記憶が僅かに揺られて戻ってくる。



あぁ。
あん時もそうだったっぺな。
スーが出て行って、それにフィンが付いて行って。
家に残ったのはノルとイースの二人だけ。
といっても、イースはまだ小さかったしノルは友達だったから。
今の言葉で言う、ライバル的な存在だったスーが居なくなったことが信じられなくて。
そこから本当に独立されたときの、家の中で一人ポツリと今みたいに座り込んだまま動けない自分とその時の家の静けさにそして、窓の向こうからは自分にとっては虚ろな雑音にしか聞こえなかったスーを待っていた人民の、喜びに溢れた歓声も。
今から考えれば、あん時から没落は始まってたんだっぺなぁ。
とは言ったって、今更振り返ったところで何にもならなんけどな。
天井を見上げてデンマークは思う。
それにしても、ノルの奴酷いべ。
俺んこと一人にするなんて。
「おーい、ノルー」
立ち上がり、ドアノブに手をかけて回して開けようとしたがピクリとも動かない。
ガチャ
「?」
な、なんで開かないんだっぺ。
不思議に思い、再度ドアノブを回してみる。
ガチャ
「ん???」
その後数回ノブを回してドアを押したり引いたりしてみるがピクリともしない。
「おーいノルー。開けてくれーい」
ドンドンと、今度はドアを叩いて中にいるはずのノルウェーを呼んでしばらく待った。
が、出てこない。
「おーい、ノルく〜ん、ノルーノルー、ノル君開けて」
シーン……と、エントランスに虚しく響くのは己の声のみ。
そして、デンマークの何かに火がついた。
「ノルー、ノルノルノルノルく〜ん、ノルーあーけーてぇー!!」
Nordic balance?-02
ピンポーン
!!?
響き渡った電子音に、それまで静かだった部屋の空気が凍りつく。
そしてそれは何度も連打された。
そんな煩いほどに鳴り続けるチャイムにノルが表情一つ変えずに
「あんこだ」
と言ってソファから音もなく立ち上がると玄関の方へと歩いていく。
その後姿から、恐らく怒ってるんだろうなというのが何となく理解できたのは、長年お互いの背中を見てきたからか。
――ま、ごっぢも背中見せてぎだがんな。背中合わせなんはお互い様か。
過去から現代に至るまで、地理的にも背を向け合ってきた自分たち二人の関係だかこそ、その背中が何を伝えてるのか何となく分かる。
ま、そう思っどるのは俺だげがもしれんっちょけどんも。
そしてその間にもチャイムの電子音はひっきりなしにリビングに響き渡っている。
煩い音立てで中の迷惑考えねぇ。そういうどころがノルに地味に苛められてる原因だない。
そしてそれは、自分が出て行った原因でもある。
そこを考えると気分が暗くなる。
デンは、友人ではないが……ないが……
『抜けることは許さん』
思い出しかけて昔に引きずられそうになった自分を引き戻すと、今のことを考えた。
――そう言えば昨日、遅ぐ帰ってきだなだいな。そうすっどの奴、二時間も寝でねぇんじゃねぇが?
そこに気付いたスウェーデンは、このインターフォンの音をどうしにかしないとと思い周囲を見渡す。
やがてその音に反応したのか、が体を動かしながら小さく声を上げた。
「……ん、るさぁ……」
恐らく寝言で『うるさい』と言ったのだろう。
やがて音の出所である室内インターフォンを見つけたスウェーデンがソファから立ち上がると、部屋のとある壁へと向かって歩いていく。
そして壁に掛けてあったその装置に手を伸ばしパチリとスィッチを切ると音が止んだ、と同時にノルの声が玄関の方から聞こえてきて、そちらに足を向けようとしたスウェーデンの足が止まる。
「ス……ーさん?」
「ん」
さっき起きて玄関に出たときにデンマークさんと名乗った人に対して何かしたような気がするのだが、その後の記憶がないことに不安を感じて思い出そうとぼんやりとした頭を懸命に起こす。
が、やはりその記憶はぼんやりとしたままで一体自分が彼に何をしたのか、何かをしたのは分かるのだけれども具体的に何をしたのかまでは思い出せないことがなんだか恥ずかしくもあり申し訳ないような気がして真っ先に口走ってしまった。
しかも、起きて玄関に出ておきながら何もせず、いや、何かをした後こうして運ばれてソファに寝かされてるなんて。
「あの俺、さっきデンマークさんに何か……」
何故ベッドではなくリビングのソファなのか。
という疑問よりも先にデンマークという言葉がの口から出たことにスウェーデンの表情が僅かに変化する。
そんな、過去の自分の行動から今のソファで眠っている状況を聞こうとしたの言葉をスウェーデンがたった一言で断ち切った。
「ん」
その声は、徐々に目覚めてきた頭でも分かるほどに硬くて。
そう言えば、最初の玄関を開けたときスーさんはどこか警戒してる様子だったことをは思い出す。
もしかしたら、彼にとってデンマークさんという名前は何か意味があるのかもしれない。
だから詳しく知らない自分ではそれ以上踏み込んではいけないような気がした。
『国』というからには、きっと色々な歴史や傷を負ってるんだろう。
今は穏やかだけれども、自分の知らない過去のこととか。
そして今、それらの中の一つか二つかは分からないが、そんな複雑な何かが顔を覗かせた気がしては話題を今の状況に変えた。
「いえ。あの、玄関の方に誰か居ます?」
視線を玄関へと続く廊下に向けてが聞く。
話題を全体へど変えたが。ま、起きて最初の言葉がデンのごどだったんが嫌だったんだどもな。
の言葉は心に秘めて、スウェーデンが答える。
「ノルがいどる」
「ノル……あぁ、ノルウェーさんですね」
そうだ。確か名前を聞いたような気がする。
そしてそうだ。一緒に来ていたデンマークさん。って、じゃぁどうしてここにはスーさんしか居ないんだ?
そして何故スーさんはデンマークさんが来てるとは言わないんだ?
疑問に思ったら、頭が冴えてきた。
さっきは眠くて眠くて自分のことで精一杯だったけれど、今はそれほど眠くはない。
たった10分程度の差だったが、それでも眠気の山は越えたようだった。
そんな、少し目覚めてきた頭で改めて考えると確かに何かが……変?
「あ……の?」
「ん?」
自分の体に掛けられていた青いコートを見て、次に浮かんできた質問をしようとしたその声が途中で止まる。
明らかにその雰囲気と行動と表情が物語っているのは『まだ寝とけ』ですよね。
と、見上げたスウェーデンの、ずり落ちているコートを再度掛けようとしていた彼の行動に対して勝手にそう判断したは、手を動かして拒否を示す意思行動を取った。
それを見た彼から、今度は疑問の雰囲気を感じ取ったは今度はハッキリと
「いえ、起きます」
と、言った。
それにさっきは何か、玄関で何か誰かを吹っ飛ばしたような気がするから。
「……」
寝ておけというスウェーデンの雰囲気と行動に逆らって、はまだ眠いと訴える体を無理矢理起こす。
結局二時間、眠れたかどうか。
でも、そんなのは慣れているから別にいい。
いいけれど、やっぱり若くはないなと実感する。



ピンポンと、ドアチャイムを鳴らし続ける。
中から誰かが出てきてくれると思って。
そして、ガチャリとドアが開いたその向こうに立っていたのは、怒った表情のノルウェーだった。
「あんこ、えぇ加減にせぇ」
「ノル?」
「家主が寝とる」
あ、怒っとる。
これは本気で怒っとる。
なんとなくだが、それは分かる。
友達で、昔から一緒にいたからこういうのはなんとなく分かる。
いつもいつも文句言いながらも、助けてくれったぺな。
だから甘えてたってぇのもあるんだべ。
でもこれは、今の状況はヤバイ。本気で怒っとる。
「……す、すまんノル。……スー」
ノルウェーの向こうに、スウェーデンの姿が見えた。
お前ぇ俺よりデカイっぺな。
と、今はあまり関係のない言葉が頭をよぎるとその前に居る誰かもう一人がここの家主、そしてさっき自分を思い切り吹っ飛ばした人が申し訳無さそうに言ってきた。
「あの、お取り込み中すみません」
「……」
その声に、ノルがスッと移動して後ろから声を掛けた彼に廊下を譲る。
「あの、先ほどは何かしてしまったようですみませんでした。ところで、中、入りませんか。玄関先っていうのも何ですし」
「あ……あぁ」
この、10センチ以上もある身長差を物ともせず投げ飛ばしたというのか。彼は。
と、改めて目の前で見るこの家の家主、という人間に対して興味津々な目つきでデンマークが彼を見る。
その様子を、部屋の中から冷静に見ていた二人は雰囲気だけで何かを相談しあっていたのだが、いい意味でも悪い意味でも鈍感な二人がそれに気付くことは無かった。
――あんこが気に入ってる。
――だない。
確かに嫌な予感はあった。
と名乗った人間が、あんこを吹っ飛ばした辺りから。
そしてその漠然とした不安は確信へと変わっていく。



こっちの時刻は朝の五時。
時差と、この時期のほとんど沈まない太陽の影響でほぼ暗くならない今の季節と相まって、こちらはちゃんと日が沈むのだということをすっかり失念していたデンマークがソファに座り素直に家主たるに謝っている。
「す……すまん、ついうっかり」
「いや、別にそういうつもりじゃなくて……その、こちらこそブン投げてしまったようで申し訳ありません」
「いや、こっちこそ煩くしてすまんかった。それより
とお互い頭を下げたところで、話をデンマークから切り出した。は良いのだがいきなり呼び捨て。しかも下の名前で。
それを聞いたノルウェーが、もう一つの一人掛け用ソファの上で僅かに体を動かすのをと同じ三人掛け用ソファに座っているスウェーデンは見逃さない。
――ま……まぁ、彼は国。そう、国だ。
いきなりの下の名前呼びに面食らっただが、それに不快な思いは感じなかった。
それは彼自身の気質からも伺えて、そう呼ばれて不自然さを感じない。
むしろオドオドとした空気はこの人には似合わない気がした。
ノルウェーさんが『あんこ』多分お兄さんとかの意味なのだろうが、彼をそう呼ぶくらいだ。
だからは素直にそれに応じることにした。が
「はい」
と何気なく普通に返事をすると気前の良い笑顔全開で
「おめぇはカワイイなぁ」
と言った。
一瞬部屋の空気が凍ったかと思った。
こ、この人もしかして空気ブレイカー?!
いやいやいや、まさか、そんなハズは。
でも、この空気の中にあってただ一人全開な笑顔をに向けている。
やがて衝撃が体から抜けるとが驚きの表情のまま
「はい?」
と、返した。
まさかこんな、予想外のとんでもなく遥か後方場外ホームランをぶっ放されるとは思わなかったから声は驚きで震えていた。
だがそんな些細なことには頓着せずに、デンマークは益々笑顔になって
「いやー、ホントにスーとは大違いだっぺ。なぁノル」
などと、スウェーデンの目の前で堂々と言い放つ。
途端スウェーデンの周りの空気がそして何より彼の表情が硬くなるのをはすぐに察した。
しかし察したのはだけではなかった。
というか、デンマークはワザとスーさんを挑発しているようにには感じた訳で、何故そんなことをするのかと疑問を挟んでいると
「あんこやめい」
と、話を向けられたノルウェーがデンマークを止めていた。
険悪な空気を生み出し吹っ掛けた割には能天気な笑顔全開のデンマークと、硬い雰囲気と不機嫌な表情全開のスウェーデンそしてその間に立つノルウェーの無表情な、仲裁に入っているとは言え何ともいえない面倒くさそうな顔が印象的で。
三者三様の様相を呈した部屋に、家主の声がゆっくりと響いた。
「あの」
が一言言うと、全員グリンと(一人は興味なさげにしかし雰囲気だけは明らかに)顔を向けて三人とも家主であるをガン見している。
「いや、あの、そんなに注目されると困るんですが……」
ここまで注目されるとは思わなかったの顔が若干引きつってる。
それを援護する形で、スウェーデンが顔を無表情に戻して問いただした。
「ん?」
「あ、えっと俺珈琲を飲みたいなって思って。で、皆さんはどうされますかって……思っ……!?」
言葉の最後が途切れたのは、ズズイとテーブルを挟んでデンマークの体がの方へと勢いよく伸びてきたからで。
動体視力は良いでも、まさかデンマークがこんなことをするなんて流石に予想できなくて目と鼻の先数センチの距離にあるデンマークの顔に思わず
顔が近い!
と叫びそうになったのを懸命に堪える。
だがそんなことお構いなしの彼は、数センチ離れたところでまたもや笑い、
「俺が煎れるっぺ」
と言ってテーブルに付けて体を支えていた手をサッと離すと同時に体を起こし、コートを脱いだ。






「お、ボダム」
カチャリと棚からカップを取り出した物をみてデンマークの動きが止まる。
まるで懐かしい物でも見るかのようなそれは、ボダムという会社の……そこまで考えて思い至った。
たしかこの会社。
「あ、はい。って、そっか」
あなたのところの会社でしたねと言おうとしたの言葉を受け取ってデンマークが手袋を外した手でポットに火を掛けながら引き継いだ。
「俺んところの会社だべな」
カチッという音を立てて火が掛かる。
「はい。お世話になってます」
この人に言っていいのかどうかは分からないけれど、言っても不自然さはないだろうと判断しては素直にお礼を述べた。
「そか」
まさかここで見ることになるとは思わなかったデンマークが嬉しそうに笑う。
だが直ぐに真顔に戻ると、リビングの方へと向いて
「それにしてもどう思う。あの暗ぁーい空気」
と冗談めかして言ってくる辺り、湯が沸くまでのリップサービスなのだろうと受け取ったはデンマークに流れを任せる。
「そうですね。でも俺はあの二人の空気は暗いとは思いませんが」
「そーけぇ? そうは見えんけどなぁ。それにあん二人、ホント会話がねぇんだべ」
と、冷蔵庫を開けながら答えたに対し不満たらたらな様子で流し台に手をかけて首だけをリビングに向けてソファに座るスウェーデンとノルウェーの二人を見ている。
そんな彼に、は冷蔵庫から卵を二つとベーコンを取り出してフライパンに油を落としながら答えた。
「そうですかね。俺はあの二人かなり会話してると思うんですけど」
その答えに一番驚いたのはキッチンにいるデンマークではなく、リビングで彼らの言葉に耳を傾けていたノルウェーだった。
そして目の前に座るスウェーデンも同じように驚いているのが分かった。
しかしキッチンに居る二人はそんなことはお構いなしに料理と話を進めていく。
「……えぇぇ!? 分かるっぺか?!」
「な、何となくですって」
チチチチ ボッ
「うわぁ。俺さサッパリ分からん」
コンコン パリン
「ま、まぁ人それぞれだと思いますけど(というか、この場合は国それぞれ?)」
コンコン パリン
「で、今何話してるか分かるべか」
ジュージュー
「いや、そこまでは分かりません。あ、そこの胡椒とってください」
ジャージャー、ガタン ガタン
「だろな。どぞ。てか、地理的にもそうなんだっぺ。俺んところとは正面向いとるけどあん二人はいつも背中合わせだべな」
ジャリジャリジャリ
「確か、山を挟んで海洋国家と大陸国家でしたっけ」
カタカタカタカタッ
「んだ。お、沸いた。は砂糖とミルク入れるんだっぺ?」
「俺はブラックでお願いします」
「おっけ」


――なしてあぁして簡単に隣取ってぐっがない。
――完全に気に入って……しかも名前呼び捨て……あんこうざい


「ノルウェーさん、スーさん珈琲……」
「俺が煎れたんだかんな」
キッチンから、出来たという声を掛けるの声音に変化があった。
殺気のようなものを感じてが僅かに顔を引きつらせのと同時にデンマークが何も感じずにと話しているのを見て更に火に油を注ぐ形となった。

、ミルクどこだー」
「あ、ミルクは、冷蔵庫です」
あっけらかんとした口調で問いただすデンマークに対し、さっきとは明らかに何かを気にした声音のの様子にソファに座っていた二人が思う。
――ば気付いだが。
――なしてあんこは気付かね。うっとうしい。
「デンさん、すみませんが……」
――今なんづっだ。
――今、なんて
「これか」
「あ、はい。ありがとうございます。デンさんは砂糖入れるんですか」
二度目の呼びかけ。
「いーや、と同じでブラックでいい」
――呼ぶな。というがに呼ばせるない。
――あんこ……うざい
スウェーデン=ノルウェーここに復活、というより意見が合っただけだが、それでも手を組むには十分だった。
――今のノルどは気が合うだない
――そだな。
ガタッガタッと音を立てて立ち上がる二人にビクリと台所で最後の用意をしていたデンマークとの二人が近づいて来る二人をジッと追う。
そのの手には最後に作ったサラダがあって、デンマークの手にはドレッシングと食器入れがある。
「な、なんだっぺ?」
「し、知りませんよ。俺に聞かないでくださいって」
さっきからソファに座る二人が何か怒っているような雰囲気を感じ取っていたと、全くそんなことなど感じ取っていなかったデンマークの二人に向かって、ノルウェーとスウェーデンの二人が無表情のままキッチン入り口で立ちふさがっている。
そんな中、スッと前に出たデンマークが前に立つノルウェーに用件を聞いた。
「ノル、どした?」
「離れぃ」
「???」
「おめはこっち」
いつの間にかの手からレタスが盛られた皿を奪い、腕を取るとそのまま引っ張るようにしてリビングの三人掛けソファの真ん中にを座らせた。
「???」
訳も分からずキョロキョロしているにデンマークがその連れて行った相手の名前を呼ぶ。
「ノル?」
だが当のノルウェーはそっと少し距離を置くようにしての左隣に座ったまま動こうとはしない。
そして目の前に立ちふさがるは、積年のスウェーデンだ。
「デン……」
「なんだ、スーおめぇ」
っていうか、この連携はアレだっぺ。あの時にそっくりだっぺ。
と、完全に自分が没落してしまったあの時の出来事を思い出させるほどに華麗な連携プレーだった。
「隣は渡ざん」
ボソリと意味不明なことを言われ、今度はデンマークが顔が若干引きつる結果になった。
「はぁ!?」
……な、なん何だっぺ!?


ただ静かに食器がかすかに鳴る音だけが響く。
っていうか、なんでこの三人は険悪なんですか。
デンさんは空気読めないむしろ壊す人だしスーさんは固いしノルウェーさんは何考えてるか読めないし。
個性的といえば個性的なのかもしれませんが、挟まれるとちょっとなぁ。
と、ここに居ないフィンランドが居ればきっと震えて何もできない状況のど真ん中にいて、それくらいしか感じないの鈍感さは神経が太いというか図太いというか中々なものがある。
そして、緊張していつつもはそれでも無理矢理に料理を胃の中へと納めていく。
眠れなかったその分食べないと体が持たない。
でも、ヤバイ……眠い。
食べ終わってしばらくして再び襲ってきた眠気には勝てなかった。
カシャンという音がどこか遠くで鳴ったのを最後に、は何時の間に眠ってしまったのか覚えていない。
そして、デンマークの前に座る三人は気付かなかった。
テーブルを挟んで、デンマークから北を見て左にノルウェー真ん中にそして右にスウェーデンという光景は、まさにその地図そのものを表しているということに。
――こうして見ると、俺北の方ばっか見てたんだっぺなぁ。あぁ、まぁ全盛期の頃は南にも行っとたが。
二人に囲まれて眠っているを見てそう思った。
――それにしてもは『山』か。面白いっぺ。



そして、が箸を置いたままいつの間にか眠っているのに気がついた三人は、誰が運ぶかで静かな闘争が繰り広げられていたらしいのだが、それはまた別のお話。
アトガキ
天然二人に振り回されるの図
2023/07/21 CSS書式修正
2009/06/23 初稿
管理人 芥屋 芥