その日家に帰ると、そこには見慣れない人が家の前に立っていました。
そいつは、大体俺の背より10センチ以上程高くて眼鏡を掛けていて、何より着ていたのが
この季節には暑いんじゃないかな。
と思う、どこかで見たような青いコートと帽子。いや、あれ軍のコートだ。
しかも、母さんの本国(スウェーデン)の物じゃないか!
もしかして、帰還命令が下されたとか?……いや。まさかそんなはずは……いやいやいや待て。
とか、そんな言葉が頭をグルグル回っていつつも、ドアの前にいる彼を不審に思い
「あのぉ、何かご用ですか?」
と伺ったらキッと睨まれて何やらボソボソと言っている。
聞き取れなくて
「あの・・・何か・・・」
と再度問い掛けたら、今度はさっきよりも少し明瞭に男の言葉が聞こえた・・・ような気がした。
「あんだのお母(があ)さんに様子見てきてぐれってたのまれ゛だでな」
矛盾の国から願うこと
「母から?」
これには心底驚いた。
そして、ソイツの名前自身が『スウェーデン』というから、更に驚いた。
ソイツ曰く
『自分自身が国』
なんだそうだ。
ハイ?
えーっと・・・今なんだかとってもメルヘンちっくなことを聞いたような気がするんですが・・・
という言葉を、日本語的に柔らかくして言うと
ソイツは
「んまぁ・・・いいが」
と適当にあしらって終わらせてしまった。
あーのー・・・一体どういうことなんでしょう・・・
まぁ、事の真相は後で母さんに聞くとして・・・
とは言え、彼の言う事を間に受けて真面目に『スウェーデンさん』というのは何だか気恥ずかしいので、とりあえず
「あの・・・じゃぁ、『スーさん』って呼んでもいいですか?」
と聞くと、言葉の前半でビクッとなった表情と後半の尋ねるように聞いた言葉でホッとした表情を見せたから、どことなく悪い人ではなさそうだと、思った。
 
 
 
「それにしても、こごは暑(あづ)いな」
部屋に入って、コートを脱いでも更にジャケットを着ているスーさんに
「ここは今夏に近いですからね。」
というと
「夏(なづ)って、ごんなに暑かったか?」
とこれまたボソボソと呟くように言うから
「もしかして、国から出たことはないんですか?」
と聞くと
「いや゛・・・昔(むがし)は海に出てたことはあっだがな。今じゃほとんど出ない」
と、かつて『北欧の獅子』とまで恐れられたヴァイキングの事を言っているのだろうとは思った。
今じゃ、武器・・・特に戦闘機・軍需輸出に支えられたリサイクルと福祉の国となっているからな。あの国は。
と、相反するモノを抱えながら進む今の母の母国の現状をは思った。
それにしても・・・
『国』がこうして目の前にいるとうのは、なんだか変な気分なんだけど・・・
ま、いいか。
 
 
「それにしても、母はなんであなたをここへ?」
とソファで向かい合って座って、アイス珈琲を飲みながら聞くと
「ん゛?
 なんでも、遠(どお)い国で独りで暮らしてるのがちょっど心配(しんばい)になったらしい」
相変わらずのボソボソした話し方だったが、慣れると聞き取れないことも無い。
そう言えば、母もこんな感じの話し方していたっけ・・・
と、随分昔を思い出す。
そして
「それにじても、今日は何があるんか?」
と急にスーさんが話を振ってきたから、は一瞬何のことかわからない。
「え?」
聞き返すと、思いっきり表情が変る。
ビクッとなっているのか怒っているのか分からないが、母との経験から少なくとも怒ってはいないだろうとは判断して
「いや・・・あの・・・
 今日は、『七夕』と言って・・・その・・・行事なんです。生憎の雨なんですが・・・」
と、ソファの横に置いたカバンの中から短冊のついた笹を出しては答えた。
「七夕(だなばた)?」
「えぇ。七夕です。」
 
 
 
「それ・・・やらねぇが?」
とイキナリ言ってきたから
「え?七夕を…ですか?」
「んだ」
と、めがねを外しテーブルに置いたスーさんが、『スウェ―デン人』としては小柄な方に入るに向かって頷いた。
「やります?七夕」
と再度確認すると、今度は
「ん」
という、恐らく『やる』という肯定の返事・・・なのだろう。と勝手に判断した。
顔は少々怖い気がするが、それでも雰囲気は少し先程よりも柔らかい。
それに、はっきり物を言う自分とは違い、彼は生粋のスウェ―デン人なのだろうとは考える。
母の故郷に帰った時、周りが確かこんな風に話していたような、そんな記憶が微かに残ってるからな。
と、昔平和だった頃を思い出しては思った。
 
 
それにしても、なんだか半分『かの国』の血が入ってる自分だが、育った環境が南だったせいか、気質も何もかもが違うことに随分ショックなんだけど。
 
「じゃぁ、短冊を買ってこないと。
 この笹の葉に願いを書いた短冊をつけて祝うので・・・」
というと
「短冊って、その細い紙のこどか?」
と聞いてきたから
「はい。
 あの・・・スーさん?」
人の話を聞け・・・と正直思ったが、彼はテーブルの上にあった新聞の折込広告から裏が白いものを取り出した後、ビリビリと破っていって見様見真似で短冊を作っていった。
「ハザミがあれば、もっど綺麗(ぎれい)にできるんだども・・・」
とボソリというものだから、はハサミを探しに部屋へと足を向ける。
「はい」
そう言ってハサミを渡すと、一瞬だったけど驚いた顔をして、そしてボソリと
「・・・ありがどう」
と言って、作業を再開した。
パチンッ
穴あけで穴をあけると、そこにスーさんが何か書いて、紐をつけて結んだ。
「あの・・・スーさん?」
それは、母国語で書かれた・・・その言葉に、思わず聞き返してしまった。
「ん?
 い゛やか?」
と聞きつつ、顔が『嫌』とは言って欲しくなさそうに聞いたから
「全然」
と答えると、途端ホッとしたように僅かに顔が緩んで
「そうが」
といわれて、グイッと何故か引き寄せられた。
アトガキ
スウェーデン・・・甘め
2023/07/21 CSS書式修正
2007/07/08 初稿
管理人 芥屋 芥