「日本さん、いますか?」
 カメラバッグを持った若い少年の声が、軒先で自分の名前を呼んでいましたので縁側に出て対応してます。
「はい」
「あ、良かった。居ましたね。ちょっと助けて欲しいんですが」
 そう言われ、不思議に思って玄関に回ってくれるようにお願いすると、引き戸を開けたそこに立っていたのはポコポコと湯気の立った……
「ギリシャさん?」
 と、
「トルコさん?!」
 そしてそんないがみ合った男たちの間に挟まれて困った様子の
「……君」
 だった。
「あ、日本さん。こんにちは」
 最初に挨拶をしたのは困った様子の君で、トルコさんとギリシャさんはそんな彼の一歩後ろに立って何やら言い争いをしているようで、日本は不思議に思いながらに聞いた。
「こんにちは君。それにしても、一体どうしたんですか?」
 と。
 それに答えたのは、トルコさんだった。
「いやぁ、鍋を食いたくなってよぉ。電話したろ? で、迷ってたらコイツ等に会ったからツイデに拾ってきたってぇ訳だ。そんな訳で邪魔するぜ? 日本」
 そう言うと、仮面の上からでも分かる人懐こい笑みを浮かべてニカッと笑った。
 ギリシャさんは不機嫌そうだったけど別段強くは反対しなかった。
 梅を見に行くとか言っていたような気がしたけれど、そろそろお昼も近くなってきたしで、はお呼ばれを素直に受けることにした。





 コポコポコポという音を立てて湯のみに注がれる緑茶のいい香をかぎながらは、初めて入った日本と名乗る人の形をした『国』という不思議な存在の家が意外に質素なことに驚いた。
 と同時に、どこか居心地のいい雰囲気に思わずカメラを取り出してその風景を撮りたくなる。
――今時こんな純和風の内装なんて、ほとんどないよなぁ
 などと思いながら日本さんに手伝いを申し入れると、ここまで来た経緯を思い出しながら包丁を握った。
 最初はギリシャさんに(こっちは面識があるからな)出会ったのがきっかけだった。
 彼が
「梅という花が見たいのですが、どこか良いところありますか?」
 と尋ねてきたから、時間も余ってたので案内していたらいきなり後ろからムンズと掴まれて道をそらされてしまった。
 で、出会ったのが……これまた驚いたのだが、自分を『トルコ』と名乗った仮面つきの男で。
 そしてギリシャさんが彼に突っ掛かっていったその理由がなんとなく分かったので、は黙って見ていたのだが。
「なぁそこの日本人。てめぇ名前は何てぇんだ?」
 なんて、見事な江戸弁よろしくな「てやんでぃ」口調で急に話題をこっちらに振ってきたから驚いて
「え、えっと。っていいますけど」
 と、咄嗟に答えてしまったんだっけ。
 するとゆポコポコと頭から湯気が立っているギリシャさんがスゲェ勢いで
! 答えなくていい」
 とギリシャ語で言って前に立ったわけで。
 一触即発で大変でした。
 と、火にかけた鍋に野菜を入れながら彼は話すともなしに話していると、居間の方で何やら言い争う二人の……
「仕方ないですねぇ」
 そう言って米を研いでいた日本さんが居間に足を向けてしばらくすると
「全く! ご飯くらい黙って待てないんですか?! 煩くする人には鍋は食べさせません!」
 と一括した声が聞こえて思わずの体がビクリと震えて驚いてそちらを見るが、あの穏やかそうな日本さんが怒ったことが何故か直ぐに理解できてしまっていた。



 ご飯には煩い。
 そしてそれを待てない子供には容赦がない。
 とどのつまり、そういうことだ。



 それにしてもトルコさんが仮面を外して
「うめぇ、うめぇ!」
 を連呼しながらご飯食べてるその横で、ギリシャさんが何やらボソボソ言っていたのは分かったけど、何を言ってるのかは分からなかった。
 両方親日な国でありながらお互いを嫌っているというかなんと言うかな間柄な以上、そこにあまり突っ込むのは止めては黙って鍋の中から白菜と豆腐とシイタケを取ると、黙って食べていた。
 それにしても何で俺、国に囲まれながら飯食ってんだっけ?
 そう思いながら。
偶には鍋でも
アトガキ
ちょっと不思議系文章
意味不明と言う
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2010/02/16 初稿
管理人 芥屋 芥