どこかから強烈なボールが飛んできて、頭に当たって気がつけば見慣れない日本家屋に寝かされていた。
 そして視線を少し動かすと、白髪(ここはあえて、ハクハツと呼ぶ)の男が、枕元に立っていて自分を見ている。
「あ、気がつきましたか」
 自分が見ていることに気付くとその男は、ニコリと笑って濡れた手ぬぐいを渡してきた。
rec -018...
Two o'Clock Jump
「頭イテェ」
 と、頭をさすりながら体を起こしたその人を何故店に入れた理由を挙げるならば至って単純です。
 ジン太が打ったボールは、彼の頭に直撃して、それで倒れてたんです。
 でもこの人、オカシナこと言うんです。
 東京に、空座町なんて街はないって。
 だから、枕元に座って聞きました。
「ありますよぉ。で、アナタ。一体ドコから来たんです?」
「ドコって、東京ですけど。あ、すみません。俺、と言います。」
 差し出したお茶を受け取って、ゆっくりと飲むこの男は……
「あ、ワタシここの店の店主やってます浦原って言いマス」
 ちなみに、アナタはこの世界の住人じゃないですよん。
 と言いそうになりましたけど、驚かせるのもナンデスし。ということで言いませんでしたけど。
 でも、そうなんですよねー。彼はこの世界の住人じゃアリマセンデシタ。
 じゃぁ、一体どこから来たのでしょうねぇ。と、調べるようにして自然に湯のみを持っている手とは反対の手を掴んで、上に動かしたり揺らしたり、またじっくり見ていたりすると
「あの、浦原さん。一体何してるんですか」
 と、いかにも胡散臭そうな目でワタシを見るもんだからついつい
「いやぁ、あなたの体をちょっと調べてるんですヨ」
 と言うと、掴まれていた腕を引っ込めようとしますけど、でも、そんなこと、許すと思います?
「あの……浦原さ……ん?」
さん、声が少し震えてますよー」
 不安を見破ったのか、この白髪(何度も言うが、ハクハツと言わせてもらう!)男の表情はニヤニヤしていて、明らかに楽しんでいた。
「浦原さん、俺ね。東京に空座町なんて街があるなんて聞いたこともないし、大体あなた、変ですよ。人の体ジロジロ見て触って、何してるんですか」
「あぁ。一応、ジン太の打ったボールが頭に当たったわけですし。大丈夫かなぁっとね」
 と言いつつ、その手は休むことなく腕・肩・頭に触れてしまう。
 だって、ワクワクしませんか?
 この世界の人間じゃないんですよ、彼。
 もう、それだけで研究対象になるというものですヨ。
「大丈夫ですから。それよりも、俺は学校に帰らないといけませんので、これで失礼……ッ」
 そう言って立ち上がりかけた彼は、頭をグラリとさせて再び布団の中へ。
 その際その手から滑り落ちた湯のみを布団の上から拾い上げ
「ホラね。大丈夫じゃない」
 と言いつつ、彼に布団をかけると言った。
「じゃ、ワタシはこのボールの犯人を捕まえてきますから。それまでゆっくりしてて下さいね」
 やがてそのまま引き戸の奥へ方と消える。
 しかしその表情は、とても嬉しそうに笑っていた。
 
 
 
 少しやんちゃっぽい男の子をつれて浦原が再び彼が横になっている部屋に現れたのは、彼がここに寝かされて二時間ほど経った頃だった。
「ほら、ちゃんと謝ってくださいネ」
 そう言って、引き戸を開けて入ってきたのは二人だった。
 一人は、この店の店主だと言う浦原さん。
 そしてもう一人は、まだ小学一年生にも満たないだろうか、五歳前後にも見える少年がそこに立ったまま動かない。
 そして彼が居ない二時間の間は、黒ブチの眼鏡かけた大男の部類にはいるだろう男の人が色々世話をしてくれたから随分助かったのだが……それにしても、この少年があのボールの犯人?
「店長……」
「なんです?」
 と少年に向けるその顔は、ちょっと怖い。
「なんで俺が……」
 プイと横を向いて抵抗する少年に、浦原さんが膝を折って目線を合わせると、一言一言言い聞かせるようにゆっくりと言った。
「ジン太、謝ってください、ね?」
 最後の『ね』の部分で二コリと笑うと、ジン太が渋々さんに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい」
 
 
 
 
 
「どうでしたか、店長」
「はい。彼は無事に帰りましたよ。それにしても、こんな事ってあるんですねぇ」
「調べないのですか?」
 黒ブチ眼鏡の男が、店長と呼ばれた男にお茶を差し出す。
「まぁ、ね」
 そう言うと、男の出した湯のみを受け取り、それをゆっくりと飲むその表情は、少し残念そうだった。
 
 
 
 
 それは、昼過ぎに起きたたった二時間だけの、少し不思議な昼下がり。
「あれ、俺……」
 気がつけば、保健室。しかし誰の気配も感じないから、どうやら保険医は席を外しているようだと思った。
 時計を見ると、どうやら自分が気絶して10分も経っていなかったけれど。
「夢……か」
 の割りには、やけに生々しい夢だったなと思いつつ、彼はベッドから降り思いっきり伸びをするとそのまま保健室を出て行った。
アトガキ
リクエストくださった方へ。
ありがとうございます。
2012/03/19 書式修正
2008/12/21
管理人 芥屋 芥