その日は、南国特有の太陽の強い日差しも地面に届かないほどのどんよりとした曇り空だった。
まるで『何かある』
そこまで信心深くもないこの街の住人がそう予感するほどに、その日の朝は不気味な雰囲気を纏っていた。
そんな街の、とある建物の中で一つの話が行われている。
それは、この先にはあまり関係のないことでもありながらしかし、だからと言って見過ごすわけにはいかないといったそんな事案だからこそ、彼女に伝えなければならない。そして、彼女の判断を。
それが男の下した決断だった。
男はずっと、あの時からそうやって生きてきた。ずっと支えて生きてきた。そして彼女もまた、捨てられた自分たちと共に歩むことを選んだ。
何故なら彼女は、自分たちの指揮官なのだから。
兵士にとって、指揮官の命令は絶対なのだから。
「大尉、お話が」
緊張した面持ちで帰ってきた部下が言葉を伝えてくる。その大尉と呼ばれた濃い茶色のようなスーツを着こなした、見事な長く豊かな金髪を一つに束ね、まるで豪奢な猫の尻尾のようにその長い髪を垂らせている女が窓の外をジッと見ながら男の話を聞いている。
「食えない男だ。ミスター張」
とポツリと呟くその口は少しだけ釣りあがり、後ろを向いたまま窓の外を見ている自分の上官が笑っていることが伺い知れたが、その顔をわざわざを確認しようとすることほど愚かなことはない。
「それにしてもアイツか。少し厄介なことになってきたな。だが私は楽しい気分だ。何故か分かるか、軍曹」
スッと体を反転させ、大尉と呼ばれた女性が机の方へと歩を進めながら、最初からその部屋にいてソファに座っていた居た顔に傷のあるもう一人の男に向かって口を開く。
「……」
答えが分からないという風に無言で答えた男は、だがその意味を理解して頷くとそのままその視線を女から自分が付けている腕時計に落して確認すると顔を上げて真っ直ぐに彼女を見て、言った。
「大尉、時間です」
rec -017...
Waying@FrontNoizy-02