ヤバい、ヤバいよー。リボーンどうなってんの?! これ!
 街に入り、目的の場所まで歩いていただけなのに、目の前を何かが凄い勢いで通る。
 何かなんて聞かなくても分かる。銃弾だ。
 そして、イヤな予感がして隣にいる彼を見ると、やはり彼はソレを取り出して、しかも火までつけていて既に投げる準備を終えていた。
「だ……ダメだよ獄寺君! こんなところで爆弾なんて!」
 しかもその言葉が言い終わる前に彼は投げ終えて、それは炸裂し辺り一面に硝煙と火薬の臭いに鼻をやられそうになり、涙まで出てきた。
 そして、冷静なはずの山本も相手に飛び掛っていて手がつけられない。
 そしてリボーンは、いつものごとく止めることは無い。
 その時、誰かの声が響いた。

「止めろ、止めろ野郎共! これじゃぁただ鉄火場を混乱させてるだけだ! これ以上ソレをここで使うんじゃねぇ! このまま引け! この野郎共!」
 そう叫びながら乱入してきた男が、グイッとオロオロしている少年の服の袖を引っ張って走り、その場から引き下げさせる。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
 そんな引きずられるようにして場から去っていく彼の叫び声に、誰かが叫んだ。
「十代目!」
req-no.015...
smoking on the cracker
「ったく。一体全体、状況を悪化させたのは何処の誰だ、クソ。余計な手間かけさせやがって」
 彼は不機嫌そうに外の様子を見ながら、自分の後ろに立つ四人に向けて言う。
 そこは、どこかの二階建てのビルの中だった。
 彼らが入ったから、自分たちも入ったのだが……
 それにしても、コイツ一体誰? 何の目的でこんなこと……
 しかしリボーンは何も言わず、ただ黙って引きずられた少年と、その少年の袖をさっきまで掴んでいた男をジッと見ているだけだった。
「あ……あの……あなたは?」
 気弱そうな少年が、男に尋ねる。
 その姿は、とても事前情報とは違うような印象を男は持ったが、ここは頓着せず
「そうだなぁ。FC……とか、アックスでもレオンでも、なんでも好きに呼べばいいよ」
 と、名前を聞いたのに、まるで世間話でもするかのようにゆったりと、はぐらかして答える。
「あんたらとバラライカが取引するまでの用心棒だからな。それ以上でも以下でもないなら、名前なんてどうでもいいだろ? どうせ明日の朝までなんだし」
 と、気楽な調子で言う。
 しかしそれが気にいらなかったのか、少年の一人が噛み付いた。
「テメェ、十代目が名前聞いてんだろうが。ちゃんと名乗りやがれ!」
 と。
 しかし
「相手に名乗らせるには、まず自分から……ってね。そんな基礎的なことすら怠るお前らに名乗る名なんてねぇよ」
 と、さっきまでのゆったりとした口調とは一転して鋭い声で男が言い切る。
 そこへ
「リボーンだ。こっちは沢田綱吉。俺の生徒だ」
 と、赤ん坊の……
「へぇ。あんたがねぇ」
 と、別段驚きもせずに男が答え
 それに続いて
「山本武だ。よろしくな、えっと……」
「獄寺……隼人」
 陽気な声で言う山本の声に重なるようにして、獄寺が名乗り、そしてこの男の名前を言おうとして困った山本を見た男が軽く肩をすくめると
だ。でいい。あんたらの取引先である、ホテルモスクワの使いで来た」
 と言った。
「日本人……だったなんて」
 まさか、あんな……
 あの後、リボーンの説明で彼がこの地で道案内と護衛をしてくれる人だって分かったけど。でも
――じゃあ、お前が『少年その一』で、お前は『筒小僧』で、お前は『少年その三』な。
 と、それぞれ勝手に決めた呼称で三人を呼んだ後リボーンを見て
――あんたは、大人その一だな。
 と言ったさん。
「リボーン、もしかしてさんのこと、知ってるの?」
 そう問い掛けても、彼は聞いているのか聞いていないのか分からない。
 でも、リボーンを『大人』だと言い切ったさんは少なくとも……リボーンを知ってる。
「珍しいな。あんたが……」
 男が電話で、電話の向こうにいる誰かに語りかけている。
 薄暗い通路の奥の部屋だ。
 少し休んだほうがいいと言われたけど、休んでられないよ。
「バラライカにはバレテルよ」
 と、この声はさん?
 ソッと僅かに開いているドアに、沢田は耳を傍立てて会話を聞こうとしたけれど……
「っと、時間だ」
 と、一方的にが会話を終らせ、電話を終らせた。
 
 
 
 
「盗み聞きっていうのは頂けないな、少年その一。筒小僧は反省してるのか?」
 そんな声が部屋から聞こえて、彼は一歩その中へと踏み出した。
 それにしても、『少年その一』って……
 しかも、『筒小僧』っていうのは、獄寺君のことだ。
 だけど、そんなのあんまりだ。
 だから……
「オレは『少年その一』なんて名前じゃないし、獄寺君は、オレの友達だから……」
「だから?」
「え」
 思いもかけないが切り返した言葉に、沢田の声が一瞬詰る。
「だから何だ? あんな狭い路地状況じゃ爆弾は不利だった。なのあいつは無計画に投げつづけ、敵も味方も混乱した。だからあの場に一番近いところに居た俺が、頭であるお前をあの場所から引っ張り出すしか方法なかっただけの話で、結果がこうだ。自分の力を過信するのもいいが、それによって不利になったこの状況を鑑みて、あの筒小僧にお前はどう責任を取らせるつもりだ?」
 そんな辛らつな言葉がさんの口から出る。
 確かにあの時、逃げるしかなかった。
 獄寺君が放った爆弾の煙とかがあの狭く暗い路地の中に充満して、目も開けられなくて、逃げるしか……
 だけど、それは……
 そう思って、なんだかそれが悔しくて沢田が下を向いていると
「だが、俺がここにいるのはただ仕事をこなすだけのためにいるわけで。それ以上でも以下でもない以上、お前が俺をどう思おうともソレは俺のペイには入ってないし、知ったことでもない。OK?」
 と、これまた一方的に言って場を終らせてしまう。
 そしていつの間に隣に来ていたのだろうか、リボーンも山本もそして獄寺も、そんな彼に何も言わず、ただ黙って状況を見ているだけだった。
 だけど、一体何を……して?
「火薬だ」
 沢田が、の後ろにあるものが気になっているのを気付いた獄寺がボソリと、それを見て言う。
「か……火薬?!」
 驚いたように沢田が言うが、すぐに
「うるせぇよお前。ちょっとは黙ってろ」
 と、既に沢田達に背を向けていたが面倒臭そうに言いながら、手を伸ばした先にあったのは
「危ないよ。タバコ吸いながらなんっ」
「ぁあん?なんか言ったか?」
 顔を上げもせず、火薬が手についたまま煙草に火をつけようとするに沢田が慌てたように言うが、その言葉の途中でまた遮られてしまう。
 そして、黙った彼の代わりに叫んだのが獄寺だった。
「テメェ、十代目に凄んでんじゃねぇ」
「うるせぇなぁ。火薬に指向性もつけられないような奴が口出しすんな。いいか? ここはお前らが考えてるようなぬるい場所(土地)じゃねぇんだ。火薬に血の臭いがまだ染み付いてねぇガキに指図される謂われはねぇよ」
 獄寺の怒声すら軽くあしらって、煙草を吹かしながら作業を再開するに、沢田もそして獄寺も黙るしかなかった。
 山本やリボーンもまた、何も言わずに黙っている
 やがて、コト……
 という音がして、建物に誰かが入ってきたことを知った。
 休めた時間は、十分あるかないかだろうか。
 直ぐに、その時はきた。
 周りを見渡すと、獄寺も山本もそしてリボーンも既に厳しい表情で周りを見ている。
 そして、
 スッと、が割れた鏡の欠片を角の向こうにソッと出して通路を見る。
「前二人その後ろに三人、そして窓に五人か。窓の奴のことは意識するな。どうせ入ってこれない。ただ、問題は後ろの三人だが……ガキその三。できるか?」
 ガキその三っていうのは、山本のことだ。
 どうしてこの人、名前を呼ばないんだ?
 こんな時だというのに、沢田にはそんなところが気になって仕方が無い。
 でも、状況はそんなこと言ってられないらしく
「あぁ。黙らせればいいんだろ? なーに、簡単簡単」
 なんて、軽く山本が答え
「道は俺が作る。煙のないところ、それが道だ。そこを進めばいい。行くぞ」
 そしてその時初めて
 ジジッ……ジジジッ……
 という音が聞こえてきて、何かが燃えて焦げてるような臭いが……って!
 ドガンドンドンドン!!
 次の瞬間鳴り響いた、まるで地割れか何かが起きたかのような連続した爆音に驚いたのは沢田だけで、次の瞬間には皆行動を起こしていた。
 ガッ!!
 という地面を踏みしめたような音がしたかと思ったら、次に弾が放たれる音がする。
 そして前にいた二人が倒れると、が叫んだ。
「山本! 残りをヤレ! そんでもって後の残りは走れ!!」
 山本に言った『残り』は後ろにいた敵三人のことで、その言葉に反応した山本が一瞬早く前に走り出して、その後ろを沢田を含め獄寺とリボーンが走る。
 その視界が、凄く綺麗なことに沢田は驚いた。
 さっき爆弾を爆発させたのに、どうして煙とかそんなのがないの?
 そんなことを考えてスッと辺りを見回すと、疑問は直ぐに解消された。
 煙が、自分たちが通るべき床の方にほとんど流れてきていないのだ。
 な、なんでぇぇぇ?! さっきあれだけの爆弾の音してたのにぃぃ!?
 そんな混乱した中、彼が開けてくれた道を沢田、獄寺、そしてリボーンの三人が走り、五人を片付け終えたらしいと山本がすぐ後ろを走っている。
 そんなとき、ボソリと誰かの声を聞いた気がしたけれど、すぐに周りの喧騒にかき消されて聞こえなくなった。
「乗れ!!」
 残りの、後ろから撃ってくる仕留め損ねた男たちに銃を発砲しながらが叫ぶ。
「うるせぇ、テメェなんかの指図は受けねぇよ!」
 ここは獄寺が切り返すが、それでも目の前車のドアを開け
「十代目!」
 と沢田を招き入れている。
 そして自分も乗り込み、バタンッと乱暴にドアを閉めると同時に山本が助手席に、そしてが運転席のドアを乱暴に開けて倒れ込むように入ってきたかと思うと、直ぐにエンジンをかけて車が発進した。
「直ぐに取引場所に向かう!しっかり掴まってろよ!」
「うわぁ!」
 余りにも乱暴なの運転に沢田が思わず声を出したが、反応したのは獄寺だけで、誰もそれに頓着はしなかった。
 取引現場に居たのは、女の人だった。
「あれが、ホテルモスクワのバラライカだ」
 と、リボーンが言い、沢田が彼女にそれを渡すと彼女はそれを受け取って車に乗り込んで、直ぐには去っていかなかった。
 数歩離れ、もう仕事は終ったとばかりに明後日の方を向いていた男、さんの方に車を寄せて
「さすが、張に『爆竹』と言わせるだけのことはあるのかしら? 
 と、窓から顔を出して言った言葉に、その声が聞こえた獄寺は、とても驚いた表情に変わった。
「なっ!?」
 と、言ったきりまるで時が止まったかのように動きが止まり、そして驚いた表情のまま少し離れたところに立つの横顔をジッと見ている。
「うるせぇ。用事は済んだろ。とっとと行けよ、姉御」
 あしらうようにバラライカに言うのそんな横顔を、獄寺はただジッと見ていた。
 その目に、『信じられない』と言った色をにじませて。
「まぁ、あなたならいつでも大歓迎だから、考えておいてね」
 言いたいことだけ言うと、彼女は窓を閉め、車を出させたその後ろで、がその車に向かって
「入らないって言ってんだろが! ったく、こんなのに付き合わされた俺の身にもれってんだ、クソッタレ」
 と、まるで負け惜しみのように叫んだ。
 そんな獄寺の時が動いたのは、沢田の
「……獄寺君。あの人のこと、知ってるの?」
 という言葉だった。
「あ……あぁ……十代目……え……えぇまぁ」
 と、珍しく言葉を濁す獄寺に山本が茶化すが、その時には既に彼の姿は、どこかに消えていた。
 
 
 
 
 電話が鳴っている。
 それを男が取り、相手の話を聞いているその表情は、徐々にだが曇ってきている。
「勘弁してくれよ。これでも火薬の量をテンゴに抑えたんだぜ?」
 スッと壁によりかかりながら、電話をしている男が苛立ちを少し見せて相手に言う。
『心配すんな。そいつはドジな野郎でな。勝手に足を滑らせやがった、ただのバカヤロウさ』
 と、男の少し呆れたような声が電話の向こうから聞こえてきた。
「ヘッ。ソイツは使えねーな」
 その言葉を聞いたが少し顔を笑顔にしながら応えている。
『だろ?』
「旦那。これで香港に顔が立ったのか?」
 今回旦那は乗り気じゃなかった。
 だから、申し訳程度に下っ端の連中を使ってきた。
 とは言え、『代わり』の利く金で雇った連中ではなく、余程香港が言ってきたのか、正規の組員を……だ。
 だから殺すわけにはいかなかった。
 一人でも殺せば、旦那はそれこそ黙ってないだろうからな。
 とは言え、一人足の骨を折った奴がいたらしく、それで抗議の電話してきたのだ。
『……まぁな』
「あんたも大変だな」
 乗り気じゃなかったから、こっちだって申し訳程度に『痛めつけるだけ』で終らせた。
 とは言え、そんなことバラライカは百も千もお見通しだったわけだが。
『いつだって大変なのさ。まぁこれで、香港からの喧騒もしばらく収まるだろうし、あの女は俺との貸し借りがなくなって……それで世はこともなし……だ』
「貧乏クジを引いたのは結局俺だけか、ったく。アイツ等が甘いのも計算に入れてたとはいえ、あんた等の真ん中で踊ってた俺の身にもなってくれ。火薬・弾代だってロハじゃねぇんだ」
 バラライカから、それ相応の金はもらってる。
 だが、それを承知で言ったのは、きっと……
『オイオイ。そいつぁ穏やかじゃねぇ話だなぁ。ま、俺から新しくぶん取りたかったら、これから一仕事やってもらう嵌めになるが、それでもいいのか? Firecracker』

そうしてまた、喧騒の街が、動き出す。
アトガキ
リクエストくださった方へ。
ありがとうございます。
姉御と旦那に挟まれた、主人公になりました。
2012/03/18 書式修正
2008/08/06
管理人 芥屋 芥