「だからぁ! ソイツは弾当たっても平然としてやがったんだ」
 最初は与太話だと思っていた。
 しっかし、これは一体どういう了見だ?
 と、初めてソレを見たときは疑問に思ったもんさ。

 そして今、あのときと同じような話が街の噂で流れている。
 それはあの時と全く同じ言葉で、そして似たような状況。
 これは、当人に聞くが正鵠か。
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long submarine-02
「う……うそ……」
 ドアを開けて入ってきた二人の後に現れた少年を見て、レヴィが驚いた表情のままソファにから顔を出した状態で固まりロックはそう言葉を発したまま同じようにトイレのドアから出てきたまま固まっている。
「おいおい、どうしたってんだ。二人して」
 固まった部屋の空気をダッチが動かして……しかし、二人は尚も動かなかった。
 何故なら、ついさっきに確かにレヴィが彼を『殺した』から。
 外したのか?! あの距離で?
 と、レヴィは考えロックもまた、しっかりとこの目で彼の頭に穴が開くのを見た……よな……と自分の目を疑った。
「あぁ! やっぱりさっきの!」
 と、もまた、さっき自分の頭に穴が開いたことについては何も言わず、警察で簡単な調書を終えて出てきたレヴィとロックに会ったことだけを口にする。
「へぇ、この四人でラグーン商会……か。で、鉄火場に突っ込んだのはあんたとあんたかな?」
 と、ダッチそしてレヴィと視線を移しながらがあの時突っ込んだと予想された人間二人を順次見て
「うん。じゃぁ用事も済んだし、もう帰るね」
 と、本当に用事が終ったようで一人勝手に納得すると、体をドアに向けて事務所を出ていこうするのをロックが止める。
「ちょ、ちょっと待って」
 その声にが反応し振り返ろうとした瞬間だった。
「ダッチ!!」
 いち早く周囲の異変に気付いたレヴィが、雇い主であるダッチの名を呼び引き戻すと今度はそのダッチが
「ベニー、ロック! 身を低くして隠れてろ。それにしたって……なんだってこんな」
 ったく、厄介なガキを拾っちまった。
 と後悔すれど時既に遅し。
 既にレヴィは周囲に気を配りつつも、顔は笑って
「おーおー。誰に雇われたのか知らねぇが、集まってきやがった」
 窓の外を見ながら言う。しかし、ここは冷静さを取り戻したダッチがに向かって
「さて、火の粉がこっちにまで降りかからんようにお互いの立場ってモンを弁えておこうか? 坊ちゃんよ」
「はい?」
「今外に居る連中の目当ては、間違いなくお前だろうが。さて、ここで交渉だ。幾ら払う?」
 コイツが金を持っていることについては間違いない。
 それはコイツ自身が、聞いてもいないのに喋った話の内容から推察できる。
 だが、コイツは俺たちを見るためだけにここに来たと言った。
 ならば付け入る隙があるとしたらソコしかない。
 ここで逃がせば、金は入らん上にこいつもヘタをすれば……いや、さっきの路上で見た光景が確かならばもしかしたら『生き残る』のかもしれんが……な。
「お前は、俺たちのことを見にきたと言ったな。だったらここでシッカリと見ていったらどうだ?」
 マドリードの雇い主に便乗し、あの私兵と俺たちとの衝突を楽しんだ人間……だ。
 とは言え、仕事は仕事、金は金だ。
 貰うモンは貰うがね。依頼されれば……の話だが。
 と、ダッチは考えそしてその言葉を聞いたの顔がニヤリと歪み
「仕事が欲しいか? それとも金が欲しいか?」
 と問う。
「ヘッ、仕事をこなして金を貰う、だ。あの電話を聞いてたあんたなら、俺の考えは分かってるんじゃねぇのか?」
「そうだなぁ。ここで俺が断れば、あんたらに実害は無いがそれじゃ『面白くない』……か。一万でどうだ? 経費入りで」
 なんだか桁が一つ違うじゃねぇのか?
 正直思ったが、この際そんなことはどうでもいい。
「決まりだな」
 というと銃を取り出して
「ベニー、ロック。身を低くしてそのままドッグに向かえ。船を出す。レヴィ、仕事だ」
 それだけでレヴィは全てを理解した。
「じゃぁ、えっと……」
 ロックが下に向かうときに向かって一緒に来るように言うが、そう言えば名前を聞いてなかったなと思い直してって、なんだってこんな時に自己紹介ができるのか自分でも不思議だったけれど。
「えっと、アッシュ=リー……違う違う。でいいよ、ロック」
 と、先ず偽名を名乗ってから本当の名前を言う。
 コイツさっきも同じような方法で名乗ってなかったか?
 とダッチは思ったがそれ以上何も言わず、ただ外にいる奴らを迎える準備を進めている。
「じゃ君。先に下に……」
 と言ったロックの言葉を遮って、彼が
「おいおいおい。アンタ、何か勘違いをしてないか?」
 と言って首を横に振った。
 疑問に思ったロックが再度問い掛けると
「だからさ、たった今から俺はあんた達の仕事振りを見るっていうのが目的に加わったわけよ。分かる?」
 と、分かってないなぁと言った様子でロックに言う。
「仕事振り?」
「そう。仕事振り。ってなわけで、俺はここに残るってわけ。OK?」
 その言葉を最後に、周りに銃声が轟いた。
「コンバンワが抜けてるぜ、このド阿呆共」
 バンッ!
 内側から響いた銃声を皮切りに、一気に事務所内に銃声が飛び交う。
 それをなるべく避けながらが、外に向かって銃を撃ち返しているレヴィの方に徐々に近づいていき
「なぁ! この街っていつもこんな感じなのか!?」
 と聞いた。
「あぁ? 邪魔すんなこの野郎! ドケ!!」
 バン!
「楽しい街だなここは。ダッチ! とりあえず俺をあの潜水艦のところまで運んでいけ! そっから先は自分で何とかするから!」
 というと、そのままレヴィから離れてこの嵐の中、立ち上がる。
「見えました」
「できるか」
「はい、大哥」
 目標を立たせろ……とは言ったが、まさか本当に自分から立ってくれるとはな。
 そしてそこから狙撃手が、引き金を引いた。
 ドンッ!!
 嫌な予感がしてレヴィが叫ぶ。
「伏せろ!!」
 そんな大声が部屋全体に轟く……が、少年は行動を起こさなかった。
 ドンッ!!
 一発だった。
 たった一発で『一万』が消えた。
 たった一発響いた銃声の狙いは、明らかに立ち上がっただった。
 一瞬の間凍りつく事務所の中と外。
 そして、何故がすぐ一瞬前に立ち上がったのかについては、ダッチには皆目検討もつかなかった。
 やがてソレが合図だったのか、外の連中の数が徐々にこの場から去っていくのが分かる。
 部屋に転がってる連中も、同じようにして戦意を失っていき……
 そしてダッチは、確実に彼の頭がぶち抜かれたのを見た……が。そこで信じられない光景を目の当たりにする。


 ドサッ!
 という派出な音を立てて、が倒れる。
 それまでは良かった。
 問題はその後だ。
 死体の処理をしなくちゃなぁ……と、心のどこかで考えていたのだが、やがてソレは驚きに変わっていった。
 おい。
 ……おいおい……
 おいおいおいおいおいおいおい……以下略だ略。
 弾は確かにガキの頭を貫通した……よな。
 が、こりゃぁ……一体何の冗談だ?
 と、この時ほど『神』というものを本気にしそうになったことはない、とダッチは思った。
 何故なら、血が戻っていくから。
 倒れたの体から溢れた体液や血が、まるでテープを逆再生したかのようにゆっくりと彼の体に戻っていく。
 さっきは暗がりで良く分からなかったが、今は事務所の明かりではっきりと……
 やがて全て戻ったがゆっくりと体を起こして
「ったく、痛ってぇなぁ。誰だよいきなり頭撃ってきたのは!」
 と叫び、返事がないだろうと思っていたラグーンの面々は、とは言え直前に見た光景があまりにも衝撃的だったために言葉も行動も起こせなかったのだが、近づいて来る隠そうとはしない誰かの気配で、それも消えた。
「よぉダッチ。元気だったか?」
 と、そこに居るはずのない少し陽気な人間の声がドアの暗がりの向こうから響いてくる。
「……旦那か?」
「旦那って……誰?」
 ダッチとドアの向こうに居るであろう男の真ん中に立って、ドアの向こうに顔を向けながらがダッチに問い返す。
「あ……お前はこれ以上口を開くな。話がややこしくなっちまう」
 と、にダッチが答えると、ドアの向こうにいる人間が明かりの下に照らされたその格好を見て、が素直に感想を述べる。
「うわぁ、黒ずくめだ」
 と。
「今日の夕方、妙な話がウチに飛び込んできてな。その話に少しばかり覚えがあったから、こうして俺はここに居るわけだ」
 と、旦那はそこから話を切り出した。
 なんでも、屋台で騒ぎがあったまでは良かったのだが、問題はその後だと旦那は言った。
「弾が入ったはずなのに、その男は平然と飯を再開したんだとさ」
 ちらりとサングラスの向こうからを旦那こと、三合会のタイ支部のボスミスター張は盗み見て
「それで、少しばかし裏を取ったら簡単に見つかったからこうして馳せ参じたわけだ」
 と言葉を結ぶ。
 屋台が並ぶ通りでレヴィが銃を撃ち、それをロックが避けてその流れ弾が誰かに当たる。
 よくある話だ。
 が、問題はその後……平然と飯を再開しただと?
 だが、それはなんとなくさっきの衝撃的な光景を見せ付けられなければ信じられないような『与太話』だ。
 が、今はソレを信用というより……
「一体何がどうなってやがる。コイツの正体は何なんだ」
 そう問い掛けたダッチに答えたのは、自身。
「不死者」
 と。
「何?」
「聞こえなかった? 不死者。そう、俺ね、死なないんだ。これ本当。俺の名前はアッシュ=リー……う〜ん、ここには不死者はいないね」
 まるで独り言のように言葉を結ぶ。
「どういうことだ」
「さっき君たちが見たとおりのことだよ。それ以上でも以下でもない。あぁ、俺が最初に偽名を名乗るのはちょっとした、不死者としての『ルール』の確認。別に隠すことでもないから言うけど、不死者同士じゃ偽名が名乗れない。その場に一人でも不死者がいたら、俺は必ず本名を名乗ってるから。だからまぁ、見破るための保険かな」
 と言って、ソファから立つと張の方へと歩いていき
「それにしても随分偉くなったなぁ、張君? 見たとき驚いたよ」
 と言った。

「な!?」
 レヴィとロック、そしてベニ−が口をそろえて驚いた。
 だが、そんなことはお構いなしに、そして観念したように旦那がその問いかけに答える。
「変わらんな、お前は」
「そうかな? 目立つ行動は結構控えていたつもりだったんだけどなぁ。ま、俺の特殊性は一度見たら忘れないだろうし。すぐ分かったろ?」
 ここまで張の旦那にタメ口を叩く……見た目14・5か6の……子供は初めて見たな。
 とダッチが考えていると、
「ところでお前何歳になった。見てくれが変わらんから、忘れそうになる」
 そんな旦那の問いに平然と
「さぁ。80は越えてるか? う〜ん、正確には覚えてない。ごめんね張君」
 などと答えている。
 それにしたって、コイツ……
「旦那。和んでるところ悪いが、あんたこれからどうするつもりだ?」
 今は、この人は敵になる。
 とは言え、どうやら完全な敵というわけじゃなさうだがな。
「噂の真相は確かめたし、後は好きにしろ。それと。ウチの長老が会いたがっている。一度は香港に寄れ」
「その時はお世話になるよ。今は、忘れられた潜水艦に用事があるんだ。人が作ったはずなのに、忘れ去れたカタコンベに、ちょっと会いに行こうかなってさ。だって今居る人間は、あの時生きた人間じゃないからさぁ、忘れちゃうんだよな」
 恐らく、ラグーン商会での仕事振りに納得したのか、次の目的を張に言うその言葉の雰囲気は、まるで『ちょっとそこまで買い物してくる』か『ちょっと友達に会ってくる』といった程度の軽い調子だった。
 そしてそんな軽い言葉の最後に、強烈な皮肉が込められたことも。
 その言葉を聞いた張の表情が少し穏やかになって
「変わらんな、お前は」
 そう言葉を残し、旦那は事務所へと帰っていった。
 それにしたって、何なんだ一体。
 と、まるで嵐が去った後のようになったラグーン商会事務所の中で、一人くつろぎきった雰囲気だったが言う。
「事務所の修理代も追加しておいて。まさかこんな方法で確認取ってくるなんて思わなかったから……さ」
 と。
 潜水艦が沈んだ現場付近に船を止めて、そのままジッとその海を眺めたまま動かないを見ながら、四人はただ黙って海を見ているを見つめている。
 そんな見られている彼、が小声で何かを言ったような気がしたけれど、誰もそれには言及せず操縦席に戻ってきた彼にダッチが静かに聞いた。
「終ったのか?」
 と。
 それに笑顔で
「あぁ」
 と答えて、まるで満開の花が咲くように、笑った。
アトガキ
後半

BLACK LAGOONxBACCANO!の混合夢
リクエストくださった方へ。
ありがとうございます。
2012/03/18 書式修正
2008/08/28
管理人 芥屋 芥