壁の向こうは、異次元の空間で通常の世界の法則っていうやつが一切無視される世界が広がっているらしいという噂がある。
そして、こっち側の世界の物理法則が滅茶苦茶らしいという噂もある。
また、異次元の世界が広がっているという噂がある。
そしてそれらの噂は大体な部分で合っているらしいことも。
カラカラに乾いた大地にいたハズだった。
だけど、ここは一体どこだ!?
そう思うのも無理はない。
近くで力の入り口ができて一瞬で吸い込まれ、次に目覚めた最初の光景はある意味あそこよりも異様な光景だった。
薄暗い、霧のようなモヤが立ち込める灰色の世界。
まるで大きな何かが大暴れしたかのような折り曲げられた橋に、壊れたビルに、壊れた人間……だけど、それに腐敗はなかった。
それらはまるで、その時のまま時間が止まったかのような異様な光景が広がっていて、動いているのは自分と周囲に薄く立ち込める不思議な霧だけ。
しかし何故か不快な感じは起きなかった。
まぁ、見慣れてるっていうのもあるのかも知れないけどな、と思いつつ地面を歩いていくと、不意に扉が目に現れる。
不思議に思ってドアを開けると、そこは何かの部屋だった。
そして、どこしらから自分を見ている視線に気が付いて、周りを探すと天井の角にカメラがあってそこに向かって手を振り笑顔をつくると、急に警報音が鳴り響いたから驚いた。
しばらくはその音を黙って聞いていたのだが、やがて
「うるせぇ音だなぁ。一体ここはドコなんだよ!」
と悪態をつくと同時に、部屋のドアが勢いよく開いた。
そして、駆けつけた研究員が見た光景は、警備員達の……
「至急外部の警察に連絡してくれ。門の深層部から現れた契約者だ!」
『星が生まれました。星のナンバーは『NL 101』繰り返します。星が生まれました。星のナンバーは『NL 101』!』
天文台からの連絡を受けて、警察が動く。
彼女は、乗っていた車のアクセルを吹かして、現場……地獄門の近くに向かってハンドルを切った。
その間にも、無線は電波を拾い続けている。
『……ザッザ……ザザッ、○警ら隊至急、応援に……あっ!』
さっきからガナリ立ててる無線の声が、驚きに変わる。
『ちょ、お前。コラ、入ってくるな、離せ!!』
『ちょっ……と、オッサンうるさい!』
年配の、聞きなれた警官の声と聞きなれない少年の声を無線が拾っている。
その警官の驚きようから、どうやら対象は壁を越えてこちらに現れたらしいことが分かった。
いくら門の中の研究が門外不出だからって、そういう情報まで後手に回してどうするのよ!
国家間の牽制が激しくて、情報が外に漏れないようにしたいのは分かる。
だけど、重要件案で、こちら側にまで被害をもたらしそうな事態に対してまでそれが適用されることは無いじゃない!
という理不尽な思いを持ちながらも、霧原は無線を聞いた。
『えっと、俺があの壁の向こうから来たっていう人間……違ぁう、俺は契約者じゃねぇ、不死者だ。不死者。大体契約者って何なんだよオッサン。ってか、
この無線聞いてる人で、誰か話の通じる奴いないの!?』
無線に入ってきた無線を出している車の向こうで、正規の警官と言い争いをしているらしい苛立ちを隠さない少年の言葉に、彼女は無線を取った。
「こちら霧原。君は一体誰なの、今どこにいるの。後、契約者じゃないってどういうこと!」
星が生まれたっていう知らせが入ったばかりだというのに、いや、それ以前に門の向こうから現れたくせに契約者じゃないですって?
信じられないという思いから、相手の車に乗っている対象に霧原の声は自然に荒くなったが、そんなことは今構っている余裕はなかった。
『お、お姉さんじゃん。あんたはコイツ等より話が通じそうだ。ハイちょっとオッサンごめんよー、車とめるよ。えっとねぇお姉さん。俺がいるところからはデッカイ壁が見える。あと何かのタワーの先っちょが見える。なぁ、ここはドコ?』
などと、少し暢気な声とともに自らの居場所を告げてきた。
「東京よ」
と答えると、
『嘘だぁ』
という答えが返ってきたけれど。
rec -013...
be No-answEr
「で、君はあのゲートの向こうから現れたわけだ」
あの後、警察の車で本庁に乗り付けた彼は、血液検査以外の調査を徹底的にされた後問題なしとされ、取調室No10というところに入れられて取り調べを受けている。
最初その表情は不機嫌そのものだったけれど、お腹がすいてないかという霧原の言葉にどうやら機嫌は直ったようで、表情は明るくなった。
「お姉さん、名前は?」
ラーメンを食べて余裕が出たのか、食器を片付けた後にそんなことを聞いてきた。
それに小さく呆れを含ませた息を吐くと、霧原は気持ちを切り換えて聞いた。
「まず、君の名前は」
「シャルル・ド・ゴール」
名前を聞くと、フニャリとしたふざけた笑顔を見せて一発で偽名と分かるフランスの空母の名前を名乗る。
判りやすい嘘を吐いた少年を前にして、霧原の眉間にシワがよった。
「嘘だよ、お姉さん。だけどそんな固い顔してると、早く老けちゃいますよ」
などといわれると、さらに……だが、構っていられないとばかりに再度、聞いた。
「君の名前は?」
「う〜ん。ここが東京なら日本語名で通すかな。。これでも通算4千年は生きてる。とは言え、世界がちょっと違うけど」
と、これまた突飛な発言をする。だが、それには構わずに、彼女は質問を続ける。
「へぇ。で、何故地獄門(ヘルズ・ゲート)の向こうから現れたわけ?」
「あ、信じてないでしょう、お姉さん。酷いなぁ。ここに来る前は、この地球を救う研究と星間移民船団で冷凍保存されて、さらにイレギュラーで落ちた砂の星で150年生きてたってんのにさぁ」
と、スラスラと自分の過去をと名乗った少年が言う。が、そんなこと……
「分かったから。で、君。年齢は」
「性別は聞かないんだ、つまんないの」
見て分かることを、わざわざ聞くまでも無いと判断したことを指摘されて、霧原の調子は完全に崩れた。
「じゃ、あなたの詳細を言いなさい」
諦めたように、小さく息を吐いて目の前の少年、に完全に丸投げした。
その表情は呆れ顔だったが、それに頓着せずに少年の表情は明るくなる。
「聞いてくれるんだ。嬉しいなぁ。だって久しぶりに話す日本語だし、使いたいじゃん。ずっと今まで英語だったんだからさぁ。えっと、名前はさっきも言った通り。年は見た目は15の実際は四千年を越えてる、途中魂だけになったり、記憶が吹っ飛んだりしてる、不死者の一人。で、さっき偽名を名乗ったのは、不死者がここにいるんじゃないかなぁっていうことを確認するためなんだけど」
ここで一つ言葉を切ると、グッと体を手前に倒してスチールの机の上で手を組んで、聞いた。
「さて、さっき俺のこと契約者なんて言ってたけど、この世界の法則は何?」
「あれじゃどっちが取調べを受けてるのか分からないわ」
自販機の前に置かれたソファにグッタリとした様子で座って缶珈琲を飲みながら霧原がつぶやく。
相手は、相当手強かった。
手の内を見せない話術は、ハッキリ言って老齢な人間を相手にしているようで、いつも以上に疲れる。
しかし契約者関係はこちらで処理しなければならないし、他に頼める部署もない。
全く、何なのよあの子。
そう思った時、携帯電話が鳴った。
「はい、霧原」
ワンコールで相手に出ると、彼女は空になった缶をゴミ箱へと入れるとそこから足早に言われた場所へと足を向けた。
「失礼します」
「来たか。早速だが、さっき天文台からの報告が上がってきた。新しく生まれた星がこの二時間の間に二度、瞬いたそうだ。勿論彼はその時間警察内にいたわけだが……霧原君、これをどう思うかね」
直立不動で上司がいる机の前に立ち、彼の話を聞いている。
「ということは、彼は契約者ではない。そういうことですか」
「そうなるか。いくらゲート内部から出てきたとは言え、どうやら偶然だったようだ。かといって、あそこから出てきたということは、それ相応の対応が必要だが……」
ギシッという音を立てて、上司が立ち上がると窓の方へと歩いていき、外の景色を見つつ言う。
「釈放だ。が、監視を怠るな。いいな、霧原君」
少し悔しそうな声音の上司の声に、霧原は姿勢を正すと
「はい」
と、答えた。
「釈放よ、君」
取調室の扉を開けて椅子に腰掛ける前に彼女はにそう告げる。
「疑い晴れたんだ。美咲さん」
机の上にもたれるように、ダレきった態度のまま下の名前を軽軽しく呼んだ彼を少しだけ睨む。
「おぉ、コワ。じゃ、もうここに居る必要もない、か。さよならだね」
そう言うと、彼は椅子から立ち上がりドアのほうへと歩いていく。
出て行く間際に、
「バイト、探すか……」
なんて、さっきまで見せていた余裕な表情ではなくて、普通のどこにでもいる15歳の少年の表情と声に霧原は少しだけ罪悪感を覚えた。
突然現れた彼には保障も保証もなく、また、知り合いも居ないはず。
あるのはただ、本人の言葉を借りるなら、日本人っていうことだけで……
だから、ドアをノックしてきた警察官の言葉に驚きを覚えた。
「身元引受人ですって?!」
「え」
思わず、警官の会話にが驚いたように口を開く。
この知り合いの居ないはずの世界で、身元引受人なんて有り得ないはず。
「それは一体どういうことなの?」
同じような結論に至ったのか、霧原さんが相手の警官に聞いていた。
「分かりません。ただ、自分はの身元引受人だというので、手続きしましたが……」
相手の言葉に、
「分かったわ。君、釈放よ」
前半の言葉を入ってきた警官に、そして後半の言葉をに体を向けて告げると、既に立ち上がっていたが小さく頷いて、
「で、その身元引受人ってのはどこにいるの?」
と聞いた。
玄関のところに来ると、一人の男がソファに座って自分たちが来るのを待っているようだった。
そしてその人の名前は、
「ロニー……さん?」
一歩前を歩くがその名を呟く。
ロニー・スキアート
彼が自分で書いた書類にはそう書かれてあったから恐らく本名なのだろうが、それにしても、一見すると英国紳士かと思うほどのキッチリとした紺のスーツに身をつつんだ彼は、随分と冷たい印象を相手に持たせるような男だと、美咲は思った。
そして、一見して普通じゃないとも思う。
何故なら、この世界に知り合いが居ないハズの彼、の知り合いでしかも身元引受人として来るなんて尋常じゃない。
もしかしたら、彼が新に生まれた契約者かとも思ったが、しかし、それも違うような気が、美咲にはした。
何故なら、
「さん、こんなことろにいたのですか。探しましたよ」
契約者には心はない。だから相手の心配なんて絶対にしない。
ましてや、わざわざ警察などというところに、危険を冒してくるような契約者がいるだろうか、ということだ。
だが彼は、の姿を認めると薄い笑いをその顔に浮かべ、ソファから立ち上がって近づいて来て、言った。
「ロニーさん、どうして……」
しかしの方ははそう言ったきり言葉が止まり、視線が泳いで少し落ち着かない様子が見て取れるが名前を呼んだことで顔見知りのようだと判断して、
美咲は口を開く。
「身元引受人のロニー・スキアートさんですね」
英語で話すと、返ってきたのは日本語だった。
「無理に英語を使われなくていいですよ。日本語なら、分かりますから」
「そうですか。それでは身元引受人ということで、よろしいですか」
「はい。お手数をおかけしました。、行きますよ」
話は終わりとばかりに、所在なげに立っているに声をかけると、ロニー・スキアートは美咲に一礼して、警視庁から、出て行った。
アトガキ