その姿を見て、すごく嫉妬しました。
「おら、来いよ」
 そう言って、刀も抜かずに虚を呼ぶ姿に。

 右手の人差し指と中指と親指の三本だけ広げて、チョイチョイと虚を誘うその姿に。
First Sight in...
「へぇ。、また失敗か」
 そう言って酒をかっ食らうのは夜一。
 ここは酒場。
「そう。任官試験、また落ちた……」と、台に顎を乗せて頭を抱えた男が残念そうに言う。
「まぁ、それほど躍起になることでもあるまい。ま、それほど今回は実力者ぞろいというところだった。という訳だ。そうあまり気を落とすな、
 一応の慰めのつもりなのか、酒を差し出し
「ホレ、飲め」
 と言ってくる。
「おう!」
 とそれに元気よく一声大きな声を出すと、夜一が差し出したお猪口を勢いよく掴み、一気に飲んだ。


「夜一ぃ! もう一杯!」
 と隣にいる彼女にたかる。
「全く、しょうのない奴じゃ」
 と言いながらも、夜一は酒を入れてやる。
 そうしている間に、は眠くなっていった。
 元々酒に強い方ではないが、いつもよりも早いペースで飲んでいるのだ。
 当然といえば当然のこと。
 そして、そのまま眠りの世界へと意識を飛ばしてしまっていた。


 いつもよりフワフワしてる。
 なんだ? コレ……


 酔った頭で考えても、霞掛ったようでまとまらない。
 確かあの後……
 潰れかけたあと……
 誰かが入ってきたような気がするけど……
 誰だったっけ?
 と、は考えてみる。けど、やはりフワフワしていて考えがまとまらない。
 そして再び、眠りの中へと落ちていった。
 
 

「何やってるんですか」
 そう言って店に浦原が入ってきたとき、既には眠りの中へと足を半分入れていた。
 こうなっては、眠ってしまうのも時間の問題じゃな……
 と思ったところに丁度喜助が来た、という訳じゃ。
 お陰で運ぶ手間が省けたわ。
「なぁ喜助。……その、こやつの実力ならば任官試験も通りそうなもんだとは思わんか?」
「ん? 何のことです?」
のことじゃよ。こやつの実力ならば、任官試験。通りそうなもんじゃが……と、少し不思議に思うただけじゃ。ま、確かに儂は既に隊長。お前も席官じゃ。こやつだけ平というのも、可笑しな話じゃと思うてな」
 隊舎に帰る道すがら、夜一は話す。
 で、当のはというと……
「ネム……」
 などと寝言を言いながら眠っている。
「確かに、変ではありますよね。新任の席官が今日配属されてきたんですが、どう考えてもサンよりも実力が劣っているような人たちばかり……だったッスからねぇ」
 と、背中に背負っているをチラッと見て嘆くように喜助が言った。



「探りを、入れてみようかの」
 ポツリと夜一が言う。
「へぇ。どうするんです?」
 と、乗るような口調で喜助が言う。
「何。上に少し働きかけるだけじゃ。そう面白くはない」
「四楓院家の力……ですか」
「そんなことに、お主が興味を示すとは思えんがな」
「まぁ、確かに興味はないんですが。珍しいですね。夜一サンが動くなんて」
 流し目で浦原が彼女を見る。
「気になっただけじゃよ」
 そう言って、
「じゃ、儂は帰る。喜助はを送ってやれ」
 と言った次の瞬間には消えていた。
 それを見て、感心するように浦原が言う。
「流石は瞬神……デスね」



 隊舎に連れ帰って、寝台の上に寝かせる。
 自分は台の上でそっと彼を起こさないように座り、しかし体はの方へと向けている。
 初めて会ったのは、流魂街。
 流魂街に出ての、初めての任務だった。
 だけど、敵が予想以上に多くて、強くて……
 仲間も何人もやられる中、全滅しかけるその時だったんですよね。
「何してんの? あんた」
 と、なんでもないように響いた、子供の声。
 確かにあの子供はサンだった。
 小さかったけど、それでも……
 あの風の霊圧は、確かにこの人のものだった。
 そしてあの時、確かにこの人は卍解した。
 それ以来の付き合い。
 表情がコロコロ変わって、照れ屋で、自分の心を隠すのが下手ですぐ顔に出る。
 だけども、斬魄刀で以って虚を倒すときに微かに笑うあの表情は、変わってない。
 まるで楽しんでるように。
 だけど、本人には自覚はなくて、そのことを尋ねると「何言ってんだよ。俺、笑ってネェぞ」と否定される。
 ねぇ、サン。
 現世での言葉に『一見で落ちる』という言葉があるそうです。
 どうやら、ワタシ。
 あなたに『一見で落ちて』しまったようですよ? ねぇ、サン?
 これからもずっと……何があっても……ワタシはあなたを想っていますヨ。



 後日談
「探るまでもなかったわ。の奴、試験の時ガチガチに固まってしもうて、全然動いておらん」
 それを聞いて喜助が笑う。
 しかも大爆笑で。
 そして、限界を突破した
「テメェら何、人の試験の記録見てるんだよ!! 表出ろ!!! ゴラァ!!!!!」
 と叫ぶ姿があったとか、なかったとか。
アトガキ
最初は大事
2012/02/24 書式修正
2006/xx/xx
管理人 芥屋 芥