「はぐらかしてなどいない。詳しいことは彼女に聞け。俺から聞いたら、マオも悲しむ」
 そのセリフは、どうやら俺の退路を断つ言葉だったらしい。
「お前が言うな」
 怒りの篭った声でそう言って、いきなり被さってきた左右非対称の色の瞳。
 逃げる間もなかった。
「んっ……」
ThreeLoosezis
 目の前が真っ暗になる。
 その一瞬を突いて、上の男が被さってきた。
「スパ……ッ」
 語尾は、喉の奥へと押し込まれてしまう。
「ん……ムグッ……」
 息が出来ないほどの、押し付けるような痛いキスだったと思う。



――何故
 だとか、そんなことは全く考えられなかった。
 ただ、頭が真っ白になっただけだ。
 予想の外の出来事なはずなのに頭だけは冷静で、しかし体を動かせという司令は脳から出なかった。
「お前……」
 唇が放されて、出たの言葉はそんな在り来たりの言葉でしかなく、続きが出ない。
 ようやく出た言葉といえば
「その『気』があるのか?」
 という、そんな身も蓋もない言葉だった。



「お前は……」
 しばらく白けた空気が流れた後、スパイクがポツリと言う。
「お前は、下手に天然だな」
 と。
 その声に、昔レッドドラゴンに居た頃を思わせる独特の空気をは感じ取った。
 ビシャス、スパイク、そして自分。
 レッドドラゴンの中の、三人のチンピラ。
 悪いことはなんでもやったように思う。
 テキトウに生き、全てがどうでもよかった一人身の身軽さを謳歌してた、そんな昔。
 その関係が崩れたのは、スパイクがあの女、ジュリアを……



 結局、組織に残ったのはビシャスだけだ。
 そのビシャスが今、後ろを支えてくれたマオを……殺した。
 組織の中の親代わりと言っていいだろうマオを、殺したんだ。



「それはヒドイな、スパイク。なら、俺が回ってもいいんだぞ?」
 殴られたところが痛くない訳ではなかったが、それでも『ヤリカケ』というのは、仕事柄許されないだろう?
 そう言ってがニヤリと笑うと、目の前の男の服をグイッと引っ張り引き寄せた。



 ぐったりしてる男の隣で、男の服から取り出した煙草を吹かしてが言う。
「マオは……ビシャスを止められるのは、お前だけだと俺に言ったことがあるよ」
 と呟くようにが言う。
 そして、彼が煙を吐いてしばらくして
「お前じゃ……ないのか」
「あぁ」
「だけど、辞めるときに制止があったのはお前の方だって聞いたぞ」
 と、本当に疲れたような声でスパイクが言い、手を差し出してきたからがそのまま煙草を渡す。
「確かに止められたよ。長老の三人のクソ爺ぃにもな。それでも諦めつかないのか、未だに組織の方から賞金が掛ってるってんだから、何をか況やだが」
「で、何があった」
「言ったろ。俺から聞いたら、マオも悲しむ。それに俺は……」
 言葉を続けようとしたの体が倒され、上に圧し掛かってきた男に視界を遮られる。
「お前だけってのは、フェアじゃない……だろう?」






 ガッシャァァン……
 ド派手な音をさせて、ガラスが割れる。
 ドサンッ!
 というイヤな音を響かせて、人間の体が地面へと叩き付けられた。



 ザッ……
 という土の音をさせて、男が落ちた人間へと寄る。
「ジュリ……ア……」



 ハタシテミタモノハ ユメカウツツカマボロシカ?



「お前でも、ビシャスを止められなかったんだな……」



 生ける狂気と化したビシャス。
 組織に残った唯一の人間。



 昔、レッドドラゴンに三人のチンピラがいた。
 、スパイク、そしてビシャス。
 三人のうち二人は抜けた。
 残った一人は、狂鬼と化した。
 何に狂ったのか、何が彼を変えたのか……



「お前が抜けなければ、ビシャスは……」
 あぶれる者は自分だったはずなのに。
 一番目を離せない人間が、あぶれてしまった。
「ま……いいさ」






「その男のこと、よろしくな」
 そこから去るとき、入れ替わるように向かってきた女にそう言うと、男はその場から、消えた。
アトガキ
すみません。すみません。
すごくお待たせしてしまいました。言い訳のしようもございません。
一番最初にリクエストいただいたというのに……一番最後になってしまいました。
すみません。謝っても謝りきれないです。

しかも、裏ギリギリというご指定だったのに、中間的な表現多数になってしまいました(汗

すみません。
ですが、リクエストしていただきまして、本当にありがとうございました。
これからも(随分ずうずうしいとは重々承知しておりますが)よろしくお願い申し上げます。

リクエスト、本当にありがとうございました。
そして一番最後になってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。
2012/03/06 書式修正
2007/04/16
管理人 芥屋 芥