「当機はまもなく着陸……」
 そんな声が響くのと、ドカァァァン! というけたたましい、地鳴りのような音が響くのが同時だったと思う。
 その衝撃で、目の前が真っ白になって……
 気がつけば父さんも母さんもいなくて、俺はここ、ビバップという船内に拾われていた。




「あ!……気がついた」
 目が覚めると、元気な……男? 女? の子の顔がドアップにあって思わず叫んだ。
「うわっぁぁ」
 と。
 すると体中から「イキナリ叫ぶんじゃねぇ!」っていう抗議の痛みが走る。
「イッテェェ……」
 思わず体を抑えて、周りを見渡して、見慣れない人たちが俺を見ていた。
「あの……」
 ここはどこ?
 そう言おうとしたら、
「ここはどこ? 私は誰デショウ〜」
 と、クニャクニャ星人(だって、本当にクニャクニャしてるんだもん……タコ星人かと思った……)が先に言ってくれた。
 というか、何? このオレンジ髪のクニャクニャ星人は……
 は置いといて。
「名前は?」
 と頭上に響いた男の声に視線だけをそっちに向ける。
 これまたボサボサ頭の……まぁ……なんていうか、一見すると冴えない男。だが、どことなく刃物みたいな物を持っていそうな、そんな男だった。
。年は17。性別男。でここは……どこ?」
 
Stop onTime
 
「おい、そっちいったぞ!」
 ジェットの声が無線で響く。
「ほいほいっと。ほーい、お疲れ様賞金首の皆さん?」
 そう言って機体を操って賞金首に銃を突きつけた。




 それが、この『未来』に来て、最初の仕事。




 賞金稼ぎ
 通称カウボーイ
 宇宙に蔓延した悪を取り締まれなくなった警察が打ち出した賞金制度。
 それに法って動く連中……そんなカウボーイの一員というわけだ。
 だからと言って、誰しも後ろめたいことはやっている。
 だから、賞金稼ぎが賞金首になるっていうことも、日常茶飯事な訳で。
「へぇ。あんた、昔賞金稼ぎだったんだ」
 なんて、捕らえた賞金首のおっちゃんとトイレでお話中というわけだ。
「そうだ。ゲートが出来上がって、直後くらいからかなぁ。まぁ、今なんてゲートの事故のこと知ってるのは僅かになっちまったが……」
 と延々話続けるおっちゃんの相手をするのも、俺の仕事。
 エドでもいいんだけど、エドじゃ『話』にならないから……が理由らしい。
 というより、その『ゲート』について、ちょっと知りたいと思ったからなんだけど。
 そんなことを知ってか知らずか、おっちゃんは話しつづける。




は?」
 デッキに上がってきたスパイクが言った。
「賞金首とお話中だ」
 と、航路を設定しながらジェットが答える。
「また?」
 そう言ってフェイが別のドアを開けながらジェットに答えていた。
「よくやるわ」
 とか何とか言いながら、勝手に決めた自分の部屋へと足を向ける。
 フェイがデッキを去った後、ジェットが口を開いた。
「気付いてるか? スパイク」
 全てを語らずに、しかしスパイクは
「あぁ。アイツが昔話を聞きに行く賞金首は、必ずと言っていい程あのゲート事故のことを僅かでも知ってそうなヤツだってこと……だろう?」
 と、後を繋げた。
「そうだ」
「ま、いいさ」
「そうだな」
 そう言うと、二人は無言になりそれぞれの方へと足を向けた。




 には、人には言えない秘密がある。
「イッ……タ」
 最初の頃、慣れない宇宙生活に体のあちこちをぶつけていたが、それが直ぐに治まる。
 いや、痛みはある。
 痛いのは痛いのだけれど、傷が治るのが速すぎる。
 このことに真っ先に気付いたのは、他ならぬ自身だった。
 自分の意識の違い。
 目覚めたら、全く違う世界。
 何より、地球にいたはずなのに、目覚めれば宇宙なんて……
 だがそんなこと、ビバップクルーに言えるはずもなく……
 ま、なんとかこの船にいる。
 それに、拾われたことからして奇跡みたいなもんだって、ジェットが言っていた。
 しかも拾ったのはスパイクだというから、更に驚いた。
 あの飄々とした男が危険を冒して拾い上げたポッドの中に俺は居たらしいから。



〜」
 エドがアインを連れて呼びに来た。
「ほほーい」
 などと返すとエドは
「エヘヘ」
 と喜ぶので、そう返す。
 フェイに言わせれば、
「あんた達、兄弟?」
 らしいけれど、少なくとも俺はこんなフニャフニャハッカーを妹に持った覚えは無い。
 一瞬で、2075年……まぁいいだろう。
 もしかしたら、俺って不死身かもしれない? ……まぁいいだろう。
 賞金稼ぎの仲間? ……生きていく上で職は必要だ。
 だが……俺にとってそんなことは問題じゃなく、エドが女の子だってってことが一番の驚きだったんだからな!
 ってことをフェイに言ったら「実は私も驚いたのよ〜」なんて言ったから、やっぱり驚いたらしい。
 のはいいとして……
 フェイって、賞金首だったのな……
 まぁ、逆転することもあるこの世界。
 いいんじゃないの?



「で、俺のこと何かわかった? エド?」
 と自作なんだろうパソコン(それにしても、トマト箱って……)の前に座って、ネットダイブしているエドに聞く。
 聞かれたエドはお脳がイッテルんじゃないか? っていうくらいの声で「なーんも」と答えた。
「じゃ、エド。60年前の地球のこと……何かわかったら報せて?」
 と聞いてるか聞いてないのか分からないけれど、そう言って仕事に足を向ける。
 どうやら、スパイクが情報を拾ってきたらしい。
「ほほーい」
 なんて俺の問に答えると、エドは再びネットの世界へとダイブしていった。




「ウェイ?」
「あぁ。それにひっついてたデジィってやつが今回の獲物だったんだが……な。どうも、妙なことになっちまってなぁ」
 と困った様子でそう言うと、ジェットは石を見せた。
「これは?」
「どう見てもただの石よ? でジェット。こんなもの貰ってきてどうするわけ?」
「知らん」
「はあ?」
「知らん。で、そのガキのことなんだがな、今スパイクが追っている。ウェイ・ショーター。天才ハーモニカ吹きの少年だ。で、こいつは俺の勘だが、あのガキは……どうもヤバイ匂いがする」
 そう言うと、外のことが気になったのか、ネットダイブから浮上してきたエドに
「エド、こいつの分析、手伝ってくれ」
 と言った。




 ジジジ……
 そんな音がして石が分析されていく。
「この石、何か変じゃないか?」
 真っ先に気付いたのは、だった。
 なんだろう。
 『同じ感じ』がする。
 何かがザワザワする。
「変って……何が?」
 二人がの方へ向く。
「分からないけど……でも、ごめん。俺、その石に触れない」
 触れたら、何かが壊れそうな、そんな感じ。
 いや、感じじゃなくて、確信だ。




 そして、フェイは見つけてしまった。
 昔のニュース画像の中にあった、彼の画像を。
 年を取らず、全く同じ格好で映っていた画像を。
「これ……」
 そう言ったきり、フェイは絶句した。
 そしてその情報をすぐにビバップに送る。



「お……オイ!」
 スパイクはスパイクで絶句した。
 頭を狙って撃ったはずなのに、当たったはずなのに……
 回り込んで確認すると……
 死体がなかった。





「僕と同じだったんだ。君は」
 真っ直ぐに、ウェイは俺を見てそう言った。
 銃を向けているスパイクではなく、俺を。
 だが、そんなことに頓着せず、スパイクは銃を撃った。
 真っ直ぐに石が彼の頭の中にめり込んで、一瞬彼は嘲った。
 暗い、笑みだったと思う。
 老齢な、人間が見せる、とても十代の子供にはできない笑い。
 だがそれも一瞬で終わり、次の瞬間彼の時間は一気に戻っていった。
 それが目に焼き付いて離れない。




「あの石は、ウェイの時間を戻すための石だったという訳だ。位相差空間ゲートの事故の時、大量に降った時間の外の物質。それがウェイの時間を止まらせ……ま、今となっちゃどうでもいいことだがな」
 ジェットがそう締めて、終わらせた。
「俺も……もしかしたら同じかもしれない。あのウェイと」
 あの石に感じた違和感が本当なら。
 何より、あのウェイに言われたのだ。
『お前は僕と同類だ』って。
 そんなの様子を見てエドが言う。
はねぇ、あのウェイとは違うよ〜」
 そう言うと、ネットダイブを止めてゴーグルを上げた。
「確かにはねぇ、あのウェイって子と同じ時代に居たかもしんないよ? でもねでもね、でも……だから〜やっぱり違うよ〜」
 そう言うとニヘラッと笑う。
「なんだよ、それ」
「エドの言う通りだな」
 そう言うとジェットがの頭にポンッと機械の腕を置いた。
「それにお前の怪我は、アイツみたいに瞬時に治ったりしないみたいだから多少は違う」
「だといいけど」
 それに答えると、フェイが買い物から帰ってきた。
 これまた両手に沢山の荷物だ。
「何言ってんよ。そんなことウジウジ悩んだってしょうがないでしょう? それよりも、今を楽しまないでどうすんのよ」
 と言いながらに荷物を渡して運ぶように命じる。
 荷物を運びながら、はフェイの話を聞いていた。
「私も、ゲートが出来る前の人間って言ったって、信じないでしょうけど、でも、本当よ。そのお陰で借金は抱えるわ、男には騙されるわでもう散々だったわ。だから私は決めたのよ。人生楽しまなきゃ損だってね。言っとくけど、これは私の独り言なんだからね。あんたに向かって言ってんじゃないんだからね」
 そう言うとから荷物を奪い、
「じゃ」
 と言って扉を閉めた。



 ポカン……とするに、後ろからアインが吼えた。
「ワンッ!」
「うわぁぁ!」
 ……
 どうやら、俺は色々慰められていたらしい。
 そのままアインと共に(アインが勝手に付いてきたんだ)デッキに向かうとスパイクが居た。
「あ、邪魔だったか?」
 と、動きを止めた彼に聞くと
「いいや。それよりも、ホイ」
 と投げられたものを思わず掴む。
 手の中を見るとは絶句した。
「これ……」
「欠片だ。お前が持ってるほうがいいだろうって思ってな」
 そう言って少し笑う。


 掌に光る自分を殺すかもしれない石をしっかりと握り、
「そうだね。じゃ、その時はスパイクに頼もうかな」
 と言って、笑い返した。
アトガキ
リクエスト頂いた、遊飛様。ありがとうございました。

この話は、位相差空間ゲート事故→スパイクたちの世界へ、時空トリップ型のトリップ……です。
また、本編の『悪魔を憐れむ歌』を少しだけ絡ませています。

ビバップ本編で、不思議な話は数々あれど、私的に一番不思議な不死身な話……を選びました。
ゲート事故の影響でトリップ→ビバップ号に拾われる。だけど、あんまりそんなに悲観的に物事を見てない、ちょっと鈍感天然少年。
そんなオール逆ハー(やっぱり? スパイク寄り)……を目指してみました。
2012/03/04 書式修正
2007/01/16
管理人 芥屋 芥