なんでやろうなぁ。
 なんでこうなったんやろ。
 誰も居らんようになった部屋で一人、考える。

 ここに、少し前まで居ったハズのという人間のことを考えてみる。
 あかん……
 止まらん……
 ギシッと音を鳴らしてベッドに座る。
 座るっていうより、体に力が抜けた結果座ったっていう感じやなぁ……
 と、どこかで冷静な頭が考えるけど、そんなんどうでもえぇ。
 ギュッ
 シーツが鳴るくらいに力を込めて掴むと、そこから微かに香るの匂いに一瞬で体が熱くなる。
 あかん……止まらん……
 指が、腕が……覚えとる。
I remember you
 気を失って動かへんの体に、そっと触れてみる。
 全く反応せんその体に、触れてみる。
 途中から気を失った体。
 抱かれるくせに、気持ちまでは受け入れてくれへんにソッと息を吹きかけるように囁いてみる。
 途端、目覚めてへんくせに体だけは反応する。
「……っん」
 更に耳に舌を入れてやると、とても嫌そうに顔を歪めて首を振って逃れる。
 それをギシッと音をさせて肩に腕を乗せて押さえつけてやると、僅かに息を呑んだ。
 それでも、目を覚まさない。
 それもそうやろう。
 これまで、こんなにゆっくりと寝かせたことなんかあれへんからなぁ。
 ま、寝顔もまた綺麗っちゅうか、なんていうか……
 なんて思って、つくづく自分が彼に惚れてることを確認した。

 

 その体温を感じて、その肌に触れて。無理矢理やったけど、体は手に入った。
 せやけど、心はいつもすり抜けていって……
 それでも、それでも良かった。それでも、幸せやった。過ぎた……日々。



 何があかんかったんやろうか。
 幸せだけやったから、あかんのやろうか?
 一体は何を見てたんやろう……




「ん……」
 いっつも、頭の中のは抱き返してきてくれる。
 そりゃそうや。
 自分の想像の中のやからなぁ……
 せやけど、こんなんは本物のやない。
 こんな風に自分の頭抱き返してきたり、『自分に任せる』みたいなそんな顔するのはやない。
 ちゃう……
 俺が覚えてるは、こんなもんやない。
 誰が譲るか! みたいな目ぇして、熱で揺れてるくせに中の芯だけは冷静な目をして俺を見る。
 それがゾクゾクして、支配欲を誘う。



 なんで居らんようになった?
 ベッドに寝転がって考えてみる。
 の匂いに誘われて、自分が彼にしてきたことを辿る。
 指を、口元にもっていき、少し舐めてみた。
 ちゃう。はこんな舐め方せん。
 もっと嫌そうに……


 あかん……
 何やってんねんやろう。


 そのまま指を首の辺りまでもっていく。
 そして、が敏感やった左肩の辺りまでもっていき、そのまま触れる。
 だけどれども、みたいに触れる前から感じるということはなかった。



 あかんて……
 ヤメや。
 これ以上やったら……



 冷静な頭のどこかが忠告する。
 あかん……て。
 せやけど……せやけど……
 肝心のはここには居らん。
 居らんのや。



 そう思ったら、自分の中で何かが壊れた。
 止まってぇなぁ……
 止まれって……
 止まれ……
 とま……
 服の中に手を入れる。
 ゆっくり……ゆっくり……
 あかん……
 止まれって……
 そう思っても、体は止まらん。



 体が熱い。
 周りの空気も熱い。



「んッ……」
 思わず声が出た。
 自分の声やのに……
 あかん……
 の声みたいに聞こえる……
 あかん……
 どうしょうもなく溺れたんは、俺の方やったって訳や。
 ここにはは居らんけど、俺は覚えてる。
 息遣いも、どんな目してたかも……
 全部覚えてる。



 頭が真っ白になって、無意識にの名前を呼んで果てた。



 熱が冷めて襲ってきたのは、強烈な虚しさと寂しさやった。
 居らんようになったんなら、探すまでや。
 今どこに居って、何してるか知らんけど……
 必ず探す。
 覚えとれよ?
アトガキ
ギリギリ裏ではない! と言い張ってみる
2012/03/02 書式修正
2006/xx/xx
管理人 芥屋 芥