……
真っ白い……世界?
……こ……こはど……こ……?
何かが……引っ張られている?
……ここは……どこだ?
急なようで、緩やかな流れだ。
ここは、どこだ?
世界は、反転した。
ここは……ここは……一体何処だ!?
目の前には、今まで見たこともなような人たちが,居た。
それが、ココの最初の記憶。
Repeat But noSame
「目が覚めた?」
目を開けると、そこには女の子が目の前に居てとても驚いた。
そして次の瞬間、叫んでいた。
「うわぁぁぁ!」
……と。
「大丈夫?」
そう言って、心配そうに覗き込む女の子に真っ赤になりながら
「まぁ……恐らく……」
と答えた。
「恐らくじゃちょっと怖いわね。ほら、これ。食べれる? おじいちゃん」
そう言って差し出された容器を受け取ると
「ありがとう」
と、答えるその声には張りがなく、正に老人そのものの声が出た。
若いときのようにはいかない体をゆっくりと動かして、差し出されたスープを飲む。
そして
「あ……あの、すまんが……ココはどこかな」
と作業着を着た少女に尋ねた。
座標を決めずに飛んでしまったから、一体ここが何処なのか自分でも分からないのだ。
「ここ? ここはリゼンブールよ。家の前であなたが倒れていたからビックリしたわ。あ、私はピナコ。ピナコ=ロックベル。おじいちゃんは?」
「私か? 私は……。=。……とでも呼んでくれ」
「えぇ?! 愛称なんかでいいの?」
と、心底意外そうに少女、ピナコが言う。
「構わないさ。それよりも、この家は……君一人かい?」
彼女以外、誰も居ないような雰囲気が漂う家に、自分と彼女の二人きり。
こんな少女を一人にして、彼女の両親は一体どこに行ったのか……
「二人して、戦争に行ってしまったの。だから帰ってこないの」
そう言って、ピナコは下を向いた。
「あぁ……そう言えば、西の方で戦争が始まったんだっけ……」
そして生まれる、無数の塵・芥と共に、命も……消える。
自分は今、それを止められる手段はない。
もうこれ以上、時の中に埋もれる残力を増やさないでくれと……ただ、願うしかない。
「ねぇ、それよりもどうしてさんは私の家の前で倒れていたの?」
切り返すように質問してきた。
気を使わせてしまったか……
「あー……ちょっと、色々あって……ね」
集まってくる力を逃がそうとして闇雲に消化していたら、目の前にいきなり現れた大木を避けきれずにぶつかってそのまま倒れた……なんて、そんな恥ずかしいことは流石に言いたくない。
若い時分ならば避けきれたハズなのに……
いい加減この年齢まで体を使うと、そう簡単には出来ない話というものだ。
「ふーん。まぁいいわ。でも頭を打っているみただから、しばらく安静にしてて。それよりも……そのオートメイル、初めて見る型だわ。ちょっと見せて?」
と前半の言葉から、ピナコは医療に詳しいのかな? と感心していたに、ピナコが彼の腕をとった。
「な……!?」
驚くをものともせずに、ピナコが腕を持ち上げる。
とは言っても、機械の腕だが……
「へぇ。ココがこうなってるから……なるほど。ねぇさん。これ、外してもらっていい?」
そう聞くが早いか、彼女は作業着から工具類を取り出して有無を言わせず取り外しに掛った。
「あの……」
「いいから、いいから。私、こう見えてもオートメイル技師なの。だから大丈夫」
目を輝かせて少女が言う。
ここは、専門である彼女に任せるしかない……らしい。
しかしこんなオートメイルなどありふれているだろうに……初めて見る『型』……か。
着けていて全然気がつかなかった。
沈黙を了承と受け取ったらしいピナコが、黙って真剣な顔をしてそれを外していく。
やがてガギンッ……という鋼が擦れる音がしてそれが外れた。
片腕になった私は、とりあえず外に出てみることにした。
ピナコは、それを外した瞬間からもう私など目に入っていないかのように、ずっとオートメイルに掛りっきりだ。
そして、家を出て直ぐのところに、自分がぶつかった木の根元に腰を下ろした。
ザワッ……
風が吹いて、木の葉が揺れる。
少し、気持ちがいい。
しかし、この瞬間にも目に見えない力は集まりつづけている。
そしてそれが自分を通して、扉の向こうへと消えていくのが分かる。
その力の中で、反発し、はじき出された力が私の中へと消えていき……
そして、自分の中にあるモノを回すエネルギーに変わっていく。
もう、この体は保たないかもしれない。
『人』である以上、加齢や衰えは避けられない。
そろそろ潮時なのか……
この70年という月日ですら、私を殺すことは出来ないのか……
達観しているようでもあり、足掻いているようでもある、このもどかしい日々に……
安らげるのは終ぞの瞬間だけで、また……違う日々が待っている。
だから……
「のおじぃちゃん。オートメ……イル……」
思う存分調べたわ。
だから、後は自分にどう生かせるかね。
そう思って、外に出ているさんを呼びに行ったの。
でも、そこには彼の姿はなかった。
どこに行ったのかも分からないまま、彼は突然現れて、そして忽然と消えた。
オートメイルだけを残して……
「開いてるよ」
ドアに向かって、しゃがれた声が響く。
「こんにちは」
しばらくドアの向こうで迷っていたが、意を決したように入ってきたのは軍人だった。
「軍人さんが、何の用だい?」
「いえ……特に用はないんですが……その、ずっと昔、オートメイルをここに置いたまま立ち去ったおじいさんのオートメイルを、引き取りにきました」
「随分と遅い引き取り客だねぇ。その間に私はこんなババァになってしまったよ」
そう言って、振り向いた顔には年相応のシワが刻まれていた。
「すみません……」
「謝るくらいなら急に姿を消すもんじゃないって言っておいてくれないかい? ったく。そうそう、あのオートメイルを引き取りに来たんだったら、もう無いよ」
「えっ?」
「ないよ、もう。ウィンリィが改造しちまって、とっくにないさ。そして、それは誰かのために使われてるってことだよ。ま、眠らせておくには勿体無い代物だったからねぇ、あれは」
「そうですか」
誰かのために使われているなら、それはそれでいいのかも知れない。
そう思う。
「ま、事情は聞かないよ。でも、あんたまでいきなり現れるなんて、びっくりするじゃないか」
同じことを、過去にも言われた。
それが、今と重なる。
同じことの繰り返し。
終わりの無い、回る道。
「ありがとうピナコさん。あのオートメイルを誰かのために使ってくれて」
しかし、あえて触れずには答えた。
そして、一礼して玄関から出ると、現われたときと同じようにしてそこから消えた。
『じゃ、任せようかな。ピナコさん』
古い記憶が蘇ってくる。
随分と古い、古い記憶が。
さっき来た軍人は、彼の孫かひ孫だとばかり思っていた。
しかし、あの言い回しは……違う。
あの時の『彼』そのものだった。
「じいさん・・・」
急いで追いかけ外に出てみるが、そこにあるのは見事な夕焼けに染まった空。
その空に、なんとなく負けたような気がして、少し悔しい。
「どういう仕掛けか知らないけれど、随分粋なことしてくれるじゃないか」
と、一人苦笑いして、再び家に帰っていった。
アトガキ