さぁロメオ。舞台は整った。
 ここはお前の為に用意した舞台。
 さぁ、来て。こちらに……
 断ることは許されない。さぁ、踊れ!!
Light a Star
 契約者を追っていた。
 夜の街で。
 さて、どうするか。
『イン、奴の位置を正確に』と、無線でドールのインに連絡する。
 やがて光る、契約の星。
「始まったか」

 バンッ!

 という音をさせて乱暴に扉が開く。
 その向こうから、数人の男達が飛び出してきた。
 そして、音のした方へと視線を向けたその直後に男が見たものは、拳銃を構えた警官が空中に浮いていく光景だった。
 こんなことは、通常ならば在り得ない。
 だが、警官が対峙した相手が『契約者』ならば、話は別だ。
「重力遮断ねぇ……なるほど」
――面白い
 そう思ったところに、ドールの眠から連絡が入る。
。見つけた。ターゲットは……』
「眠、遅いぞ。既に見つけている」
 それに対する眠からの返事はなかった。
 想定外のことに、ドールは対応できない。
 何故なら魂と呼べるものがないから、らしいのだが、その辺りのことはは詳しく知らない。
 だから
――それにしても……あいつ役に立つかな?
 と考えて、は逃げた男を追わず、飛ばされた警官を追った。

「ホイ。一人確保。ったくあんた。落ちたら死ぬよ?」
 と、空中で契約者の力が切れ、落下している男の腕を持って、そこから一気に宙を蹴って安全なとこまで連れて行く。
 契約者は、契約が発動しているときは人には在らざる力を持つという噂通りに彼は今、人の限界を越えた跳躍力を見せて楽々と近くのビルの上へと着地し、警察官の腕を放した。
 一瞬警察官は何が起きてるか分からなかっただろう。
 契約者を見つけ、銃を構えたと思ったら空に舞い上がり、その落下途中で別の契約者に連れられて安全な場所へと降ろされているのだから。
 おかげで自分の身に何が起きているのかその全てを把握せぬまま、それでも自分をここに連れてきた者が人ではないことだけは分かる。
 完全に怯えた警察官が震える声で確認する。
「お……お前は……契約者。……本部! 本部! もう一人契約者が……ッ!」
 だが、その報告が本部に届くことはなかった。
 そこから先の言葉を、無線機が警官の声を拾う前に、目の前に立つ契約者がそれを阻止したから。
 が、聞き取れないほどの小さな声で「五月蝿い」と言ったからだが、警察官にそれを聞き取る冷静さはなかった。
 ただひたすら自分の声が出ないことに怯えつつ、その契約者から離れるしか後がなかった。
 だがその契約者はそれすら阻止した。
「動くなよ」
 こうなってしまえば、『ただの人間』は契約者には逆らえない。
 自分の末路を悟った警察官は、目の前に立つ男の目が契約者独特の赤い光を放っていることに気がついた。
 そして、男が囁く。
 甘く、柔らかい声で。
「さて、あんた自身は必要ないんだよね。だから、死んでね」
 目の前の契約者がそう言うと、助けた男から生気が消えた。
 やがてドサリと膝をついて倒れた後、ピクリとも動かなくなった。

 ドサリと倒れた男。
 今、自分が殺した男だ。
 それについて、契約者が何かの感情が湧くことは無い。
 は膝を折り、目の前にいる死体から無線を取り上げ、それを耳に当てた。
 警察が持っていた無線機だ。
 当然今回の情報も流れてくるだろう。
 そう踏んで。
 やがて、それは『当たり』となる。
 ザッ……ザッ……
 と耳障りなノイズの後『……文台からの報告。GR-544の活動を確認。通称は『ルイ』フランス人エージェントです』と、無線が勝手に情報を流してくれる。
 それに付け足すようにして男がゆっくりと
「追加報告ですよ警察の皆さん。彼の能力は『重力遮断』」
 と囁くように言い、イヤホンを耳から外して無線機をその場に置くと、別の耳につけていたイヤホンから流れてきた声で、は夜のビルの上を跳んだ。
 今度は、違う目的のために。




 銃を向けられ、警官を宙へと飛ばしそして自らも能力を使い飛んで逃げて、どこかのビルへと着地する。
 滅多に使わない自分の能力だから、勢いが余ってしまいかなり恥ずかしい着地となったが、それでも男は構わなかった。
 どうせ誰も見ていないのだから。
 逃げ切ろう。
 アイツのために。
 そう誓ったのだから。
 と、ビルの屋上で大の字のまま、偽りの空を見上げながら息を整えたのもつかの間、直ぐに起き上がり、ビルの屋上にあったコンクリートの外壁へ背中を預け、ドサリと投げ出すようにして座る。
 そして、契約が履行された後に訪れる『対価を支払わなければならない』という精神的呪縛が男を襲う。
 そして……

 一瞬。
 ほんの一瞬だけ、手の平をジッと見つめた男はやがて自らの左手の薬指を掴むと、本来曲がる方向とは反対の方へと思いっきり曲げていく。
 まるで折るかのように……
 いや、実際男が行っているのは、自分の指を自分で折る行為だった。
 やがて限界がきた指の付け根が
 バキィッ
 と嫌な音を立てて折れた。
「グッ……」
 男は、痛みを抑え込んで耐える。
 続いて二本目。
 一本目でさえ激痛が体を襲うというのに、更に二本目を折らなければ……
 今日は、能力を使いすぎた。
――こんな対価だから、自分の力を使うことを制限していたというのに!
 二本目を折ったところで冷や汗が流れる。
 今日は二回も使ってしまった。
 だから二本。
 自らの指を折らなければならない。
 二本目を折ったその直後、この場には居ないハズの見知らぬ男の声が響く。

「それが契約の対価か。難儀なことだな」
 と、どこからともなく聞こえた声にビクリとなる。
 驚いた男が立ち上がり身構えるも、次に返ってきた『声』はチリンッと音を鳴らしながら視界の端を横切った猫の鳴き声だった。
「ミャオ」
 その猫は、鳴きながらどこかへと消えていった。
 だが、
――何かある。
 そう思ったルイは、周囲を見渡す。
 やがて、貯水タンクのところにいた自動霊媒……いや、観測霊の姿を捉えた。
「観測霊?」
 観測霊の存在は、近くに契約者が来ていることを意味している。
 ルイは慌ててそこから立ち去ろうと、壁を曲がり、……そこで出会ってしまった。
 黒衣を着た、仮面の男に。



。ヘイが来てる。場所は、そこから東北の白くて高いビル』
 と、無線で眠から連絡が入る。
 ヘイが来てる。
 その一言で、彼が動くのは十分すぎる理由になった。
 やがては、『ルイ』を追ってビルを跳んだ。

 仕事を見させてもらうと言った手前、やはり見ないとねぇ。
 と、どこからともなく湧いてくる、楽しい気持ちを抱えながら。
アトガキ
DARKER THAN BLACK-黒の契約者-
沿い?
2012/03/23 加筆書式修正
2007/06/27
管理人 芥屋 芥