『Dolphin Street』
そこは、日々JAZZを愛する人たちが集う場所であり、また日ごろの疲れを話すことによって、好い音楽を聴きながら癒す、そんな空間。



がギターを軽く流していると、それに併せて足で小さくリズムを取っている人物が目に入った。
彼は、出入り口すぐにあるテーブルに座っている四人組の一人だった。
少々気になってみてみると、なぜか全員やけに体格がいい。
あまり深く関わりたくないな。
心なしかはそう思うと、少しテンポがずれたことに気付いたが、それは常人にはわからない僅かな差。
だが、足でリズムを取るその男は、 ハッキリとを見た。
しかしそれは一瞬のことで、また話をするのに他の三人の方を向いてしまった。
今のが分かったのか?
少し、驚きを隠せないだった。
『Dolphin Street』

「あ・・・あの」
先に声をかけてきたのはその男だった。
「はい?」
顔を上げて返事をする、その後ろには他の三人の男達がを見ていた。
答えたはいいが、は観察を怠らない。


こいつら何者だ?


普通ではない雰囲気がある。
独特なものだ。
母親の職場で感じる同じものを、その男達から感じるのだ。
いや、空の臭いがしない。
グラウンドであれ、パイロットであれ、空に携わるものは航空機独特の臭いがするものだ。
だが彼らからはそれが感じられない。
どちらかというと、潮の臭いがする。
海上保安か海自関係者・・・か?
「なんですか?」
そこまで観察して、だがそれはおびくにも出さずに何の用かと問う。
「いやぁ、ギターすごく上手いなぁって思いまして。あの、良かったら合わせませんか?」
いきなり言ってきたその男。
は、ただ
「はぁ・・・」
と答えることしかできなかった。
「マスター、ドラム借りますね」
後ろの男達がグラスを傾けて
「珍しいな。が演奏するなんて」
と言い、
「いいじゃないですか。その・・・すごく上手でしたので、合わしてみたいって思っただけですよ」
「何年振りかね。お前がドラム触るの」
「尾栗さん・・・からかわないでくださいって。」
なんなんだ、こいつら・・・
明らかに変だ。
「すまんな。少し酔ってるんだ。、あまり酔っ払いの相手するんじゃない。俺は角松洋介。あなたは?」
おっちゃん」という感じの、角松洋介なる人が名前を名乗った。
仕方ない。
「俺は、っていいます。」
そうすると、後ろにいた少し軽めの男が
「俺は尾栗康平。んでこっちが・・・」
と、もう一人の眼鏡の男を指して
「俺は菊池雅行。ところで、さんは、ここでよくギターを?」
「まぁ、頻繁ってわけではないですが、月一回くらい。ですかね」
暇になると、ふらっと来ては演奏する。
それは、昔から変らない。
 
「あ、俺といいます。よろしく、さん。」
 


ハイハットが一定のリズムを保つ。
上手い。
これほどのリズム感があるなら、さっきのズレが分かったのも頷ける。
んじゃ、そちらにソロを任せますかね。
視線を合わせてソロを任せると云う。
すると、
え・・・?マジですか?
と返って来た。
目を伏せて、ワザと
知らねぇ
と云ってやった。
頭だ。
俺はギターを弾く手を止めて、彼にソロを任せてみた。
覚悟を決めたのか、彼は一瞬目を伏せてから・・・



店内から拍手が沸きあがる。
「すごいな・・・」
尾栗さんがそう呟いたのがハッキリと聞こえた。


フォーバック?
しませんか?
えー・・・仕方ない。しましょう
そうこなくっちゃ
 


更に沸く店内
先に取ったのは俺。
返すのは彼。
う〜ん
そう来たか。
なら、ドミナント入れてみるかな。それで終わらそう
そして、それが分かったのだろう。
テーマに戻しましょう」といった具合のドラムを叩いてくれた。


拍手で溢れる店内。
「アンコール」と声が掛っていたが、正直、アンコール受ける余裕はない・・・です
「すごいな・・・」
席に戻った俺たちを待っていた、三人組
「疲れました・・・マスター水ください・・・」
言うが早いか、マスがーが水を持ってきてテーブルに置いた。
「どうぞ。お疲れ様お二人とも。」


最初の堅さなど、もうとっくに何処かにやってしまった。
音楽で、一緒に合わせて、それで気分がいいと思える」
それだけで今は十分だ。
さんは、普段は何をされてるんです?」
聞くべきじゃなかったかもしれない。
だが口をついて出た言葉は取り返せない。
さん、それは・・・」
言い難そうにするさんに、援護したのは角松さんだった。
「日本を海から見る仕事をしています。ところであなたは、普段何を?」
「あ〜。俺ですか?俺は教師ですね。毎日毎日中学生相手の仕事ですよ」
「ほぉ」
と菊池さんがいい、意外だとでも言わんばかりの顔の尾栗さんが言った。
「へぇ。教師かぁ・・・とてもそんな風には見えないけどなぁ」
「尾栗、それは失礼だぞ」
と、すかさず突っ込みを入れる菊池さん。
「いいんですよ。よく言われます。『意外だ』って」
「ということは公務員?」
「いえいえ。しがない私立の教師です。」
公務員試験は、ことごとく落ちた。
一応都外でも受けてみたんだが、それも一次までしか受からなかった。
先輩曰く、『島がある県が結構穴場だよ』だそうだが、関東圏内を離れてまで教師をしたくなかったのもまた事実だったから・・・
結局母校に落ち着いた』というのが、真相なのだが。


「ところでさん。あなたは一体おいくつなんです?」
え・・・
「いくつに見えますか?」
「う〜ん・・・俺と同年くらい・・・かな」
さんはおいくつなんです?」
「俺は今年二・・・」

「28です。はい」



・・・



どうやら、最初の読みは当たったな。
海上自衛官・・・だ
しかし俺は突っ込まなかった。
「俺は24です。」
そう言うと、四人ともすごく意外そうな顔をした。
言うなればハトが豆鉄砲くらったような顔。驚きの表情に近い。
「オイオイ。24でその物腰かよ。すげぇなぁ」
「俺だってそれくらいは出来たぞ。尾栗」
「お前は色々問題を起こしすぎだ。昔から」




「あの人たちは、同級生っぽいですね」
「そうですね。しかしさんが24歳とは・・・見えないですよ」
「それって俺が老けてるってことなんでしょうか・・・」
ちょっとショックだ。
「いいえ。大人に見えるって、いいことだと・・・」
それって、フォローになってない気がしますよ?さん。


ま、いいや。
「ここで会ったのも何かの縁です。一杯おごりますよ。マスター注文いいかな。」
「「「あ」」」
三人から制止を込めた声が同時に掛った。
「すまんなさん。こいつお酒は全くだめなんだ。」
あぁ、なるほどね。
でも一杯くらいはおごりたい。
それは、相手が例え国家公務員だろうがなんだろうが関係はない。
いい演奏が出来たし、それに気分がいい。






「んじゃ、『レッドアイ』作りますか?先生」
意外な声に、思わず席を立った。
というより、どうしてコイツがここにいる!?
?」
アトガキ
DolphinSteet
2023/08/05 script変更
管理人 芥屋 芥