Break Down
Touch your Soul
ハンドルを握っているの指を、忍足はじっと見ていた。
 
 
がギターを弾いている姿を初めて見たのは、中学一年だった時
青学の教員が決まる前にが勤めていた高校の文化祭の時だった。
「ギターの奴が風邪でダウンしたんだよ。ってことで先生、ギターよろしくな!」と言ってきたある男子生徒。
その後のの慌てぶりも見てて笑えた。
せやけど・・・
直前までオロオロしてたくせに、いざギター持って舞台に立つと一変した空気、真剣な顔。
初見なハズの楽譜にも関わらず正確に弾くその腕。
何よりもその・・・指板の上で動くの指に・・・
それまで漠然としていたへの気持ちと、舞台が終わったときに自分の中にあったへの気持ちが明らかに違ってたのはハッキリと覚えてる。
 
 
 
高校入学を契機に、忍足との距離が明らかに縮まった。
実家から勉強を見てくれと頼まれた・・・というのもあっただろうが忍足の方がの家に転がり込むことが多くなった。
最初は我慢が効いてた。
だけどそのうちしきれなくなって・・・
『あの事件』に発展した。
マスコミに格好の餌食にされた
申し訳なさと、自分のやったことの大きさに改めて気付かされた。
『まともな人生』とやらを送れってことで、忍足の罪を帳消しにした
その代わり突きつけられた条件は、彼を忘れろ・二度と会うな
冗談やない。
そんなことできるわけがない。
そんな安っぽい覚悟で彼を抱いたんやない!
そう叫んでも、悲しいかな未成年。
実家に全てもみ消された。
結局、全てを背負っては黙って日本を去った。
『謝る機会は二度と訪れはしないし、その必要もない』と、に突きつけられた気が、した。
『他の誰が許しても、俺はお前を許さない』
『あんたが奪ったんだからね。返してよ』
『先生は、スウェーデンにいるよ。君にこんな情報なんか言いたくなかったんだけどね。でもあのときのあの人の気持ちを考えると、やっぱり伝えたほうがいいのかなっていうだけさ』
ここに来る前、青学の連中に散々言われた言葉の数々。
『俺達から兄ちゃん奪ったのは忍足だろ?あれから五年も経って、俺達も子供じゃないし。兄ちゃんが日本に帰るように説得するのも忍足の責任だよ。』
 
 
 
断崖に佇み、海を見てるの背中を見たとき、嬉しさの余り体が震えた。
振り向いて欲しくて、でも本当は振り向いて欲しくなかったんかもしれんなぁと、車の外の景色に目を移しながら忍足は思う。
遠くで雷が鳴っているようだ。
時折ゴォォ・・・という音がする。
振り向いたの瞳は、灰掛った空と海の色をそのままに写し取ったかのような灰色をしていた。
周りの光によって色が変る、とても不思議な瞳を持つ
出会った頃はサングラスで隠していて、中学に入ってからはカラーコンタクトを入れていた。
理由は、『目立つから』
それだけの理由で髪と瞳を隠して日本にいた。
そうまでして日本にいた理由までは分からない。
だけど、ここじゃ理由がないというだけで惜しげもなく晒す彼に、少し釈然としない思いがあったのも確かだった。
結局、止められなくなる直前までまた、あの時と同じ事を繰り返しそうになった。
の前じゃ結構自信がある理性もグラつくし、なにより彼に触れたくなる。
どうして触れたくなるのか?の問いに未だ忍足自身答えが見つからない。
そういやぁ、あの時散々聞かれたっけ。
なんで自分じゃないとあかんのかって
そんなん、俺だって知りたいわ。
未だに答え、見つかってないんやし・・・
好きなんは好きや。
せやけど・・・もっと・・・こう・・・
いい言葉が浮かばんなぁ。本能的に触れたくなるっていうのかな・・・あぁぁあかん。こんなん考えとったらまた体、熱持つから違うこと考えな・・・ってアレ・・・何?
また、雷がどこかで鳴った。
今度はどうやら近いようだ。
アトガキ
2023/08/01 CSS書式
管理人 芥屋 芥