Break Down
Don't Forget You
「今日は、俺の罪ずっと背負ってくれてたに、謝るつもりで・・・来たんや」
 
 
・・・忘れるところだった・・・と・・・笑いながら言った。
「あかんなぁどうも。前にすると自制が効かんわ」
笑いながら、また言った。
その『笑い』が泣きそうな顔にしか見えないのはの目の錯覚じゃない。
「忘れようって努力はしたんや。せやけど無理やった。どうやっても後姿を追ってる俺に気がついてなぁ。そんな自分がイヤでしょうがなかった。せやから嘘つくの止めにした。そしたらスーッとわだかまりが溶けてって・・・なんや知らんけどその頃に不二からがここにおるって聞いたんや。」
黙って聞くに更に忍足は続ける。
「今まで・・・その・・・すんませんでした。謝って済む問題じゃないけど、せめて直接言いたかった。『あの時』以降直接会われへんくなったし ・・・」
「お前、そんなことを言いにここまで来たのか?」
そう言ったの声は、今までにない冷たい声だった。
何の感情もない、空と海の色を映した瞳が忍足を射抜く。
曇りの空は灰色をしていて、海の色もどこかくすんでいる。
よっての瞳の色は灰色となっていた。
「寒い・・・風が出てきた。俺は帰るが、お前はどうする?」
さっきまで熱くなっていた体も、もうすっかり冷え切っていたから思考も冷静になれる。
「そんなことよりも、どうして俺がここにいるとわかった」
地元の人でも滅多に来ない断崖絶壁の海
のこと聞いてたら、ここじゃないかって言われたから・・・送ってもらった」
ということは、いなかったらどうするつもりだったのか・・・
「やっぱり・・・自制効きそうにもないから・・・歩いて・・・」
そう言った忍足に対しは盛大にため息をついた。
「町まで何キロあると思ってる。総動員してでも止めてろ。送ってくから。」
「ホンマに効かんから・・・マジで・・・」
「つべこべ言うな!抑える気がある分でいいから抑えとけ」
聞けばホテルも取ってないという。
よくそんな無計画でスウェーデンまで来たもんだ。
と、半ば呆れたである。

 
 
侑士の、自分に対しての感情が恋愛だと気付いたのが彼が氷帝に入学した後くらいだった。
最初は漠然と捕らえていた。
だけどそれが本気だと気付いたときには、もう手遅れだったんだ。
 
 
 
中学を卒業して、エスカレーター式とはいえ高校に合格した。
そのあとに、『事件』は起きた。
高校に入ると当然勉強は難しくなる一方で、俺は彼の実家から勉強を見てくれないかと頼まれた。
青学教員である俺に、他校の生徒を見ることはあまり気が進まないとの理由を付けて最初は断っていたんだけど・・・
そのうちに彼自身が家に来るようになって・・・
思い出したくない。
考えようとするだけで吐き気がする。
学校側にばれるのは時間の問題だったんだ。
それが普通に他校生の半分家庭教師みたいなものなら注意だけで済んだのに・・・
あの混乱を、今になってもどうやって言っていいのか分からない。
とにかく覚えてるのは、強烈な理不尽さと・・・抗議の電話の処理が大変だと言った竜崎先生。
生徒の応援の声と非難の視線。
先輩・後輩・同期・友人・知人・にまでマスコミが嗅ぎつけ素性をばらし・・・格好の餌食にされたこと
警察の圧力と、彼の家からの圧力と・・・そして最後まで『被害者は君だ』と言ってくれた弁護士の方。
侑士の両親は、自分の息子が教師しかも俺が好きだということをあの時初めて知ったのだ。
だから俺を忘れさせるために条件をつけてきた。
彼の分まで暗黙に背負う代わりに、以降、一生会わないと。そうすれば侑士は俺を忘れて生きてくれる。「まとも」な人生を歩める。『未成年』の人生と『成人』が負う罪との交換。
検察も、裁判所も、この交換には沈黙した。
そのほうが扱いが楽だったからかもしれない。
結局それを呑んだ俺は、自己弁護の一切を止めた。
あとは忍足の言ったとおり。有利だった裁判を、結局俺が不利にもっていったようなもんだ。
そして実刑が出たことに対しても、俺は不服を唱えることはしなかった。
騒ぎが治まるまでくらいなら壁の住人になったっていい。
出て、居場所がないなら・・・わざわざ居る必要もない
 
 
 
迷惑をかけてしまった色々な人全てに謝罪を済まして、日本を去ることを連絡し移る国名だけをつげて完全に日本とは絶ったはずなのに・・・
助手席には侑士が座っている。
これじゃぁなんで俺がここにいるのか分からないな

 
 
 
 
 
『・・・なんで俺じゃなきゃダメなんだよ。侑・・・』
今更な気もするが・・・聞く勇気が今はない
『あの時』に散々聞いたが、侑士は答えをくれなかった。
いつも答えは体で返ってきたから・・・
さっきも、ろくな抵抗もできなかった。
侑士の・・・残ってたんだろうな。自制が・・・
それに助けられなかったら恐らく止まってなかっただろうと思う。
思い出そうとするだけで体が震えてくる。
刻まれた恐怖とともに・・・忘れられない快楽があったことも確かなのだから。
その矛盾に頭がついていけていない。
アトガキ
2023/08/01 CSS書式
管理人 芥屋 芥