Break Down
Five AfterYeas
「やっと捕まえた。今度は逃がさんで?」
 
 
あれから五年。
その五年の歳月が、侑士を少年から大人に変えていた。
小学校時代の彼は本当に子供で、中学校時代の彼は少年から大人への成長過程の始まりで・・・
その始まりを・・・がいることで奪われたのだと、当時マスコミは散々言ってきた。
素性を全て暴かれて、面白半分にネタにされた。
友人や知人その他大勢の人の信頼や信用が一気に崩れた中でどうやって生きていけるというのだろう。
『居場所がないなら、居る必要もない』

それが、の出した結論だった。
日本を去ることに当然周り・・・特に元生徒からは猛反発にあった。
不二など、近寄れないくらいに周りでは冷徹な吹雪が吹き荒れているのがはっきりとわかったくらいなのだから。
だけどそれを一人一人説得にあたり、納得させ、最終的には許させたのはの覚悟が本気だと、相手が気付いたから。
そうしては今、ここにいる。
北欧の断崖の海で、一人・・・
「ふざけるなよ」
久々に出たまともな日本語。
使おうと思って使うことなど、何年振りだろうか
「ふざけてへん。俺はが・・・」
言いかけた忍足との距離を一気に詰めて彼の胸倉を掴んだ。
「ふざけるなよお前は!俺がどんな思いでここにいるかてめぇ分かってねぇだろうが!」
怒鳴ったことなど、これまでの人生において数回しかない。
「どんな思いでおるんや?じゃぁ」
忍足の、周りの空気がスーッと下がっていった。
「俺を庇ってくれてたんやろうけど、そんなんの勝手やろう?実際裁判はあんたに有利に傾いとった。せやけど最後には逆転した。それはなんでや?」
目を細めて言う忍足。更に言葉は続く
「上告しても良かった。不服なら。せやけどあんたはそれもせんかった。それも不思議や。」
 
 
 
言えない。
彼の『家』から圧力がかかったなんて、言えない
だから、解決を早めるにはああするしかなかった。
彼の未来のために、わざと裁判を不利に持っていったのだという、そんな言い訳をつけて・・・
「俺が止めたんだよ。もう不毛な争いは辞めようってな。だから裁判が逆転した。元々お前の証言なんか当てにされてなかったのさ。未成年だし、社会的にもまだ未熟な扱いだった。俺がお前を誘ったってことになった方が、検察も扱いやすいからな。だから逆転したんだよ。それだけのことさ。それに、俺はお前には2km以内に近づいちゃダメだからな。もう行くよ。」
本心を隠して生きるのは、にとっては難しいことではない。
もう話は終わりだ・・・と言うふうに、はその場から去ろうとした。

 
 
「やっぱりは嘘が下手やの」
「な・・・」
グイっと手首を持っていかれたと思ったら、次の瞬間には世界が低くなっていた。
「何すんだてめぇ・・・っ」
腰を抱えられの最大の弱点である首筋に掌があたっている。
5年前に彼自身が探り当てた『そこ』を忘れてはいなかったのだ。
「放せ」
「そんな声を震わせながら言ったって説得力ないで?」
手が・・・指が触れるたびに震えそうになる体を必死に止めるに満足したのか、スッと手を離した。
ホッと力を抜いたところに・・・完全な不意打ちが来たのである。
 
体が揺れたのが、にも分かった。
声を出すのは咄嗟に止められたが、体の反応だけはどうにもならなかった。
「やめろ・・・放せ」
滅多に出さない低い声。
今なら引き返せる。
このまま彼が引いてくれるなら・・・引き返せる。
だけど忍足は引くつもりなど更々なかった。
 
 
 
 
 
 
 
やめてくれ
そう思うけれど状況はどんどんにとって悪くなっていく一方だった。
そして、そこに彼の手がある限り止める術を自分は封じられているということも・・・
 
 
 
あれから五年も経っているし、しかもここは日本ではない。
しかし世間的に彼は『被害者』として扱われた強烈な理不尽さだけは覚えている。
世の中は未成年の言い分など聞きはしない・・・それが『本当の』加害者であったとしても・・・だ
目をつむり、法で庇い、都合のいいようにしか捉えない。
だからあの時が全ての罪を背負ったのだ
背負わざるおえなかった。
強烈な理不尽さを感じながらも、それでも庇った。
背負って、生きていくと
その代わり二度と会わないと
だから今『ここ』にいるのに!
 
 
 
力が抜けていくのを止められなかった。
もう・・・どうでも良くなった。
このまま彼に繋がれて生きるのも・・・

 
 
 
 
だけが背負うなんて、そんなん許されへん」

 
 
上に、まるで糸の切れた人形のようにいきなり被さってきた忍足の体に顔をしかめながら、今彼が発言したことを再度確認しようとは口を開いた。
「・・・侑?」

 
 
 
 
のこと、やっぱり忘れられへんかった。せやから俺も同じ立場で、ちゃんと責任取れる立場になれるまで我慢したんや」
「お・・・まえ?」
「自分のやったことやからな。が庇ってくれてたのは知っとった。青学の連中には散々言われたからなぁ。」
脅迫めいた言葉まで言われたわ

と、笑う。
「これでもが日本から居なくなったって聞いて滅茶苦茶ショックやったんやからな」
情報を持ってきたのは不二なんやと、また笑う。
意外だった。
記憶に、鮮明に残っているあの怒りようからは想像がつかないけれど・・・
「今日は、俺の罪ずっと背負ってくれてたに、謝るつもりで・・・来たんや」
アトガキ
2023/08/01 CSS書式
管理人 芥屋 芥