Break Down
Not Help me
間近で見た顔は、自分でも吐き気がするくらいのいやらしい顔だった。


なるべく千秋は鏡を見ないようにしていたのに、その行為を後ろにいる忍足に見抜かれ、顎を掴まれて無理矢理固定された。
「しっかり見といてや。千秋の顔は、めっちゃ綺麗なんやから。」


そう言うと、閉じられた唇を開かせようと侑士の指が千秋の唇に割って入ろうとしてきたので、ますます唇をかみしめて抵抗した。
自分の部屋で千秋は抱かれていた。

いつもと同じ光景。
だけど今日は違う。
理性を手放せと、本能が叫ぶ。

そっちの方が楽だ・・・と

だが意地でも理性を手放したくなかった。

そんなことをすれば、彼の思い通りになってしまうことは目に見えていたから。

声も、我慢すれば苦しいのは知っている。

だけど聞かせるのも、なんだか癪に障った。

自分の女性に近い高い声が、「それ」に対しての効果を・・・知っているから。

「声、聞きかせて?」

あくまで冷静な声音の侑士の裏に、熱いものがあることを千秋が気付かないはずがないのだ。

だけどあえて気付かない振りをするのは、彼にとってはいつものこと。

しかし、このときはそれが効かなかったようだ。

「俺がシュウのこと好きなのは、知ってるやろ?」

確信を持ってそういわれると否定するのは困難だと、彼は知っている。

知っていた。

知っていたさ

だけど認めたくない!

弛緩剤が入った薬を飲まし、半ば動けないようにしてから抱くという行為に及ぶ相手をどうして認められる?

顔を背けても指は追ってきた。

力の差が歴然とした状態では、口内に指が入るのは時間の問題で・・・

力が緩んだ瞬間を、見逃す忍足じゃなかった。

少し指先が入った・・・と思ったのは一瞬だった

後はなし崩し的に指が入ってきたのだ。

そして、ゆっくりと動き始めた右手・・・

一度入った侑士の指が、出て行くことはもうないだろう

「んぁ・・・はぁ・・・やぁだ」

「指だけでも俺感じるんやなぁ、初めて知ったわ」

唾液でべトべトになった指に対して、千秋の口は乾いていた。

声を、止めようと思うのに止まらない。

止めれらない・・・

「かはっ・・・んっゆう・・・ひ・・・こっ・・・くるひ・・・」

落ちそうになった腰に、侑士の腕が周り持ち上げられた。

「浮かしとかなあかんやろ。これから入れるんやから」

そう言った忍足の顔は・・・

 

 

笑っていた。

 

 

「そこの兄ちゃん、振り向いて?」

結局、学校は解雇になった。

マスコミにも素性は知られ、レッテルを貼られた。

弁護士が

「それでも、君は被害者だ」

といってくれたけど、それすら千秋にはもうどうでも良かった。

「彼の分まで、背負いますよ」

そう言った千秋の表情に、彼等は声を失った。

結局裁判は和解では終わらず、実刑が出た。

そして、今後忍足侑士に半径2km以内の接近を禁ずるという判決が、出たのだ。

しかし今、目の前にいるのは・・・

「ゆ・・・侑士・・・」

実刑を終えて出た東京には、いや、日本にはもう千秋の居場所がなかった。

二年という短いようで長かった時間。

その時間は、確実に彼から居場所を奪っていた。

だから彼は、母のふるさとであるスウェーデンに移った。

それから三年間、地域住民の人たちの手を借りながらも、なんとか生活してこられた。

断崖の海岸に佇んでいる千秋の背中から日本語が語りかけてきたのは、そんなときだった。

 
 

 

「お前・・・どうして・・・」

固まってる千秋の姿に、あの頃と同じ微笑を浮かべる忍足。

「あんま、ここらじゃその髪の色は目立たんなぁやっぱり」

忍足は、少し怪訝な顔をした。

何故なら振り返った千秋の表情は硬く、怯えの色を滲ましていたから。

日本ではずっと隠していた髪と瞳を、『目立たない』という理由だけで惜しげもなく晒している千秋に少し怒りを覚えた。

足を一歩近づけると、一歩下がる千秋。

だけどすぐ下は断崖絶壁の海

落ちればまず・・・助からない

 

 

 

「やっと捕まえた。今度は逃がさんで?」
アトガキ
2023/08/01 CSS書式
管理人 芥屋 芥