ワタシの手があなたに触れる。
ワタシの腕があなたに触れる。
ワタシの肩があなたに触れる。
それでも動かない、動じないその強さ。
 
 
ワタシにとっては甘美なその・・・存在。
 
 
上を向かせて、舌を絡ませてみる。
甘い
率直にいうと、上目遣いで睨んでくる。
ですが、ワタシには、それすらも甘美なトゲのようなもの。
サン・・・」
そう言うと、僅かに顔を背ける。
彼が何を思っているのか、なんとなく分かる。
 
 
 
こんなことをするのは、友人じゃない。
きっと、自らの開発した薬で『こう』なっているのだ・・・
 
 
 
甘い、甘い臭いが辺りを包む。
むせ返るような甘い臭いだ。
「あなたは甘い・・・」
「冗談言うな。喜助、いい加減目を覚ませって」
縛道での束縛も、浦原は何もしていない。
だが、なぜか動けなかった。
ただ壁に背中がついて、前を塞がれているだけ。
それだけなのに・・・
 
 
 
「分かりますか?ワタシはあなたが好きなんです。ずっと・・・前からね」
「それは!前聞いた。」
「だったら、あなたが欲しいって、思うときもあるんですよ?ワタシはそれほど我慢強いっていうワケじゃないんですからね?」
僅かに目を見開いて、が浦原を見る。
その絡まった視線の先にが見たものは・・・
「お前・・・ッん」
甘い香りの漂う中、甘い声が響く。
喜助の、普段飄々とした雰囲気や姿からは考えられないが、自分の好きなものに対する探究心や執着心は異常なほどに高い。
まさか・・・
「声、聞かせてくださいよ。この甘い香りの中で、あなたの甘い声、聞きたいです。」
「誰が!・・・ッん」
喉に歯を立てられそうになり、思わず体がすくむ。
「ほらね」
そう言って少し笑うと、着物の上から体の線をなぞり始める。
「前に、色々あなたが寝てるときに大方調べたんですよ。あなたの弱いところ」
「なに・・・ん・・・ちょっと待て!」
ビクっとして、浦原の手があるところに視線をやると、手が触れそうか触れない・・・正確には触れてない。
ただすぐそこに浦原の手があるだけなのに、体が何故か反応する。
「ここが一番弱い」
右側横腹の少し下辺り。
「それ以上、その手近づけるな」
警告を込めてが言う。
「折角見つけたんですから、活用しないとね。」
甘い臭いが立ち込める。
「そろそろ・・・かな。」
そう言うと、の頭がグラリと揺れた。
 
 
 
 
「ん・・・」
抑えようとしても、抑えられない声が響く。
自分の声に恥ずかしくなって、手の甲で口を塞ごうとするけれど、寸でで伸びてきた浦原の腕に捕まった。
「折角のいい声なんですから。隠さないでくださいよ」
 
 
あなたの声が、ワタシを浸食していく。
その甘美に、ワタシは酔いしれたいんです。
 
 
自分の声だなんて、思えねぇな・・・
まさか俺の好きとこいつの好きっていうのが、こんなにも温度差のあるものだったなんて・・・
 
 
 
 
 
 
サン、わかりますか?ワタシがあなたの中にいるの」
余裕かましてそんなこと聞いてくるな!
「なんだか、苦痛に歪む顔も、そそりますね」
耳元でそんなことを言うものだから思いかけず体が揺れた。
「カワイイ」
そう言うと、耳に舌を入れた。
 
 
 
クチュ・・・
サンが、ワタシの体をギュッと締める。
「ば・・・バカヤロウ」
顔を真っ赤にして照れている、それだけでもワタシにはノックアウト気味なのに。
ですが、それはどっちのコトに対して言ったんですか?
ねぇ?
 
 
 
 
ぐったりとして布団に死んだように眠って・・・
「こら」
力のない声だったけれど、紛れもないサンの声だった。
「眠ってたんじゃないんですか?」
肩肘付いて横になっていたワタシは、少し驚きました。
「あの甘い臭いの正体を言え」
いきなり核心を突いてくる。
「あー・・・あれは・・・現世の最近出来た『ちょこれーと』というものですよ」
そう言うと、感心なさそうに
「ふ〜ん、甘ったるいな」
と言った。
「ホントは苦いものを、ワタシの好みで甘くしてみたんですよ」
それ以外にも、あの臭いには少し媚薬が仕込んである・・・っていうのは・・・
「で、その『ちょこれーと』とやらを溶かして、臭いを充満させて、お前その中に媚薬仕込んてただろう」
あらら
「ばれましたか?」
「お前が言ったんだぞ。『そろそろか』って。」
「アリャ」
不機嫌極まる声音だ。
「怒ってます?」
火に油を注ぐ発言だった・・・らしい。
「怒ってる?当たり前だ。大体お前、今は自分の研究に執着してて、他なんて見向きもしないじゃないか。」
静かにいうサンの、その瞳を見てみたいと思ったけれど、その目蓋はあけてくれなかった。
それに、こういうときのサンは、本気で怒って・・・る・・・かも。
その考えに至ったとき、冷や汗が流れた。
「お前の、対象に対する執着心の強さってものは知ってたし、今はなにやってるか知らないが、研究だと思ってた。しかし、 それをいきなりこっちに矛先を向けるなよ。驚くじゃないか。」
あれ?
言葉の中に、どこか・・・なんでしょうね。
『幅』のようなものを感じるのは、ワタシの気のせいなんでしょうか?
「本当に、怒ってます?」
おずおずと聞いてみた。
「あぁ・・・」
「本当に?」
「本当だ」
「マジですか?」
「本気と書いてマジだな」
それっきり、サンは本当に眠ってしまいました。
 
 
 
 
「怒ってない・・・でしょ」
思わず出てしまった独白。
「いい加減クドイ!」
そう言って、見上げてきたサンに、ビクッとする。
深いため息と共に手を伸ばしてきたから更にびっくりした。
クシャっと、ワタシの前髪を掴むと、その手を伸ばして、ポンポンと二回優しく叩く。
まるで子供をあやすかのように・・・
そのまま降りてきた手を、思わず掴んでキスをした。
サンは、完全に手から力を抜いていてなすがままにしている。
「分からなかったのか?第一本気で怒ってたら最初の時点で口聞いてないって」
その時、初めてサンの瞳を見た気がした。
怒ってる瞳ではなく、どこか、許すような瞳。
「腰、痛いんだって。お前が無茶するから。」
「按摩依頼・・・ですか?」
「頼める?」
「あまり上手くないですよ?」
「構わん」
そう言うと、ゆっくりとうつ伏せになった。
 
 
 
 
 
「こういう日も、いいもんですね」
「お前は無茶しすぎ」
「ハハハ。それはまぁ・・・ワタシがいかにサンを好きかっていう・・・ね?」
その言葉に、あきれたようにが返す。
「言ってろ」
チョコレート
アトガキ
ホントに久しぶりに書いた甘め・・・というより激甘な・・・
一応二月十四日仕様。
昔のチョコレートは苦かったっていう記憶があるので,苦いチョコレートを甘くしてみました。
媚薬が混じっているのはご愛嬌ってことで
2023/07/21 CSS書式修正
管理人 芥屋 芥