新人が一人、やられた。
その次に十二席の十四人目が一人。
そして一昨日。
つい最近まで共に十席をやっていた、五人目だった奴が、殺された。
幻視
最近、うちの隊を狙った虚の攻撃が続いてる。
この八日間で三人。
ちょっと最近にしちゃ多い方だ。
「かったり・・・」
川べりの土手に座って、は考えている。
心地よい風が頬を掠めていくけど、心はそんなに穏やかじゃない。
『なぁ、風梗。お前ならどう判断する?』
と、己の斬魄刀へと話し掛けてみた。
八番隊の全員へ、帯刀命令が出た。
上の方も、この隊の連中を虚が狙っていると判断したようだった。
『そうだな。我ならこの隊の誰かを狙ったものと考えよう。目的までは知らぬ。』
目の前に現れた風梗が、に向かって話す。
『そりゃ、上の連中だってそう判断したから帯刀命令出したんだろうが。俺が聞いてるのは、これが無差別か、狙ったものかってことだ。』
『そこまでは我は知らぬ。』
憮然とした表情で、風梗は答えた。
 
 
八番隊の十席の九人目という立場のは、この一件に当初あまり深く関わる気はなかった。
だけど、一昨日にこの前飲んだ奴を殺されて気が変わりつつある。
『我らの前に出てくれば、すかさず葬ったものを・・・』
風梗はの気持ちを汲み、そう言った。
『そう言うな。わかってるよ。ま、今は討伐隊の編成の中に、俺の名前があるのを願うだけさ』
そう言って、は目を閉じた。
だが風梗は、彼が寝てなどいないということを知っている。
 
 
 
さーん」
そう言って走りながら近づいてきた声に、は静かに瞳を開けた。
「ん?あー・・・どうした?」
自分を呼んでいたのは、最近ウチにきたは隊舎へと足を向けた。
「名前、なかったな・・・」
思わず呟いた。
選抜されないだろうとは思っていた。
十席といったって、下から数えた方が早いくらいに弱い。
そう言うと
「本当に、そう思ってるんですか?」
と、笑みを深くしての雰囲気にマジマジとは彼を見た。
一瞬だが、黒いはずの死覇装が、白く、見えた。
 
 
 
 
 
「オイ・・・それ、完全に・・・」
命令無視という言葉をは飲み込んだ。
夜、ちょっといいですか?と、の部屋で話し込んでいる。
それにしてもこの自信は一体どこからくるんだか・・・
と、は半分呆れ気味だ。
「でもさん、悔しかったんじゃないんですか?」
真面目な顔になって言うは感心している。
「だから、俺たちで探してみませんか?」
笑顔でそういうが、無謀にもほどがあるぞ。
それを言うとさん、昼間すごく悔しそうだったし・・・」
最後の方は、消え入りそうな声。
泣くか?と思い、慌てたが深い息を吐いて言った。
「お前も物好きだよなぁ。今回わざわざ隊長指揮の討伐隊が編成されてるってのに俺たちで先に見つけようとするなんてな。下手すりゃ俺等の方に罰が下っちまうよ」
だが、面白そうだ。
「やっぱり、ダメでしょうか・・・」
自信なさそうには言うが、多分コイツは俺が話しに乗ることを見越してる。
大体そういうお祭りごとは昔から大好きなんだ。
「いいぜ、乗った!」
その言葉にの表情が明るくなる。
「じゃ、早速行きますか」
「おう」
 
 
 
瞬歩で素早く、最初の犠牲者が出たところに行ってみる。
ここで仲間が殺されたかと思うと、暗頓とした気分になる。
だけど、こんなところによく新人が一人で来たもんだ。
そう思わされるほど、辺りはうっそうと茂った木々で覆われていて、村の跡らしき朽ちた家々が並んでる。
なんで殺された新人は一人でこんなところに来たのか、それとも虚の罠に嵌ったか?
いずれにしても、
「恐らく、もうここには来ないだろうな。おい、最後に殺された奴の・・・」
振り返って、空の一点を見つめていたの言葉が止まった。
巨大な霊圧が、辺りを包む。
「メノス・・・」
空間を裂いて出てきたのは、大虚。
「いや・・・多分あれ、大虚になる一歩手前のものだと思うんですけど・・・」
すっげー冷静にが答える。
コイツなんでこんなに冷静でいられる?
「あの仮面の傷。間違いないですね。」
傷?
空間を裂いて出てきた大虚(一歩手前らしい)をよく見ると、仮面に走るデカイ刀傷があった。
それにしてもコイツ、まるで自分が仲間が殺されるのを見てたかのように言いやがる。
「お前・・・一体?」
「とりあえずさん。あいつが今回の犯人ですよ。」
笑顔で言いうは毒気を抜かれ、呆れるしかなかった。
深いため息をついてが言う。
「なんか、どうして三人ともやられたのかその理由がよーやくわかったような気がする。相手が悪すぎたってことだよな。」
新人・十二席・十席ごときが相手できるようなモンじゃねぇ。
まともに相手できるのは王族特務や隊長クラス。そんな連中くらいだろう。
それにしても・・・知ってやがったな、コイツ。
一瞬だけ鋭い視線をは正直面白くない。
だけど、討伐隊が動くのは今日の明朝。
それまでに決着はつけたいとは思う。
何故って・・・
見つかったら罰食らうのは目に見えてるからだ。
それにしてもこのという男。
一体何者だ?
ただの平の隊員じゃねぇ。
第一こんな霊圧にただの平の死神が耐えられるはずがない。
充てられて、動けなくなるのがオチだ。
だけど悠然と立ってるこいつは・・・
「どうします?倒しますか?」
まるで、余裕で倒せるかのように言う。
『倒せますか?』じゃなくて、『倒しますか?』だもんな・・・
は小さく息を吐くと、
「後でゆっくりお前の正体、聞かせてもらうぜ?」
そう言ってはゆっくりと、刀を抜いた。
 
 
 
新たに空間が裂き反膜が降りる。
「ッチ仲間か!?」
始解状態でなんとか倒せるところまでいったのに・・・
それにしても、なんでは覚えてない。
下にいるが怒鳴る。
「あー・・・もうちょっと待ってください。すぐ済みますから。」
あばら屋の屋根にいるに、が口をつむぐ。
。八万一切後跡と為せ 森羅光玉」
光と、何物も呑み込むような、そんな霊圧がに、が言う。
「ついでに、あの光を放ってる大虚まで、こちらに引き込みましたので・・・が戦ってくれている間に結界を張ることが出来ました。ありがとう」
あばら屋の屋根に一跳びで登ってきて、が最後にダメだと分かっていても放った一撃がまともに入ったことで、絶対不可侵領域の光が止められ、ただの光の筒と化したことに、驚いているようだった。
また、それは助けられた大虚(一歩手前)も変わらない。
「お・・・まえ・・・一体?」
反膜を止め、無効化できるなんてありえない。
だが、それをする死神が今目の前にいる。
一体コイツ、何者?
「さて、この中では自由に力を振るっていいですよ、?」
いつの間にか、自分を呼ぶ呼称がさんからへと変わってる。
だけど何故か違和感は感じなかった。
むしろ、さんと呼ばれてた方がずっと違和感があったから・・・
「好きにしていいのか?」
「えぇ。」
「外に洩れないだろうな?」
「僕の結界の中です。洩れるわけ、ないでしょう?」
即答したその声にあったのは、絶対の自信。
ギュっと、柄を握る手に力を込める。
『いくぜ?風梗』
自分の斬魄刀に呼びかける。
『心得ている。』
 
 
 
 
「卍解! 空神風梗!!」
叫んだ途端、あばら屋が吹っ飛んだ。
いや、周りの木々からも葉や枝が吹き飛んでいく。
手入れのされてない木々が、根っこからごっそりと持ち上げられていく。
それほどの風の流れと、霊圧の塊が辺り一面を覆う。
天空すらその流れに逆らえず、物凄い速さで雲が流れていく。
「蒼空衝!」
そう言って刀を振り下ろしただけで、大虚(一歩手前)の姿が消えた。
「流石・・・ですね。じゃ、僕もいきますか。卍解 刻綴森羅光玉」
静かにそう言った途端、刀から鍔が消え、柄も消え、刃も消え・・・
ただ、本日川べりの土手に一日いること。』
数日後、そんなふざけた命令が降りてきた。
結局、俺たちのやったことは何故かお咎めなしとなっていた。
そして俺のことも、何故か言われなかった。
多分これは憶測だけど、は半分ゲンナリとして川べりの土手に座って、寝転がって、誰かがくるのを待っていた。
それにしても遅いな・・・
「あ、いたいた」
スッと、視界に人の影がかすめていった。
俺がそこに目を向けると白い隊長束を着た、から聞いた話で、はそう結論付けた。
「考える時間なら、たっぷりありますから。ゆっくり・・・」
「あー結論は早いほうがいい。今出すからチョット待ってろ。」
でもまぁ。
生来のお祭り好きではるし、零番隊の副隊長ってのも兼任してみるのも面白いかもしれない。
第一は見た。
いや、幻だったかもしれない。
コイツが作り出していた光と、俺から流れ出していた風が見せた、一瞬の幻だったのかもしれない。
だけど、それを信じてみるのも面白い。
あの誇り高い風梗が、一瞬でもが言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「じゃ皆さん気を失っちまったようだし、そろそろこっからは別の部隊として動いてもいいだろ。いーか虚共!お前等のあるかないかわかんねぇけど、その耳かっぽじってよーく聞きやがれ!
 俺は八番隊十席九人目及び、零番隊副隊長だ、覚えてとけ!」
アトガキ
最後の科白を言わしたいがために・・・(マテ
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管理人 芥屋 芥