朝起きるとガランとした寝台に違和感を感じ、スッと体を横に向けて恐らく随分前にこの部屋から出て行ったであろう市丸の痕跡をまだ頭がボーっとしている中、ゆっくりと起き上がり、周りを見渡すと部屋には深夜の熱が嘘のように、ただいつもの居心地の良い温度を保つ部屋だけが、そこにはあった。
そのことに何故かホッとしてはその後、盛大にクシャミをしてしまいそれほど寒くない室内だというのに体が少し寒さを訴えている。
何故だろうとしばらく眠気が覚めない頭で考えて、記憶の底の方からゆっくりと浮かんできた単語。


風邪
症状は発熱・頭痛・寒気・ダルさと様々あるが、まさに今自分が置かれている状況ではないのか?
そう思い当たって初めては、自分が風邪を引いていることを知った。
最後に嘲う者 ―弐
頭がフラウフラする。
地面をしっかりと歩けていないような、そんな感覚が朝からずっと続いているが、それが朝よりも酷くなっているようなそんな気がする。
しかし、体調が悪くなるというのはここ最近はなかった事だから勝手が分からない。
そのため意識はいつも通りに動こうとし、体がついていかない状態に少しずつ焦りとも苛立ちともとれる感情が湧いてきてしまいどうしようもない。
病気にならなさ過ぎるというのも・・・ダメですよね・・・
と、溜まっていた仕事から少しだけ手を離しては一息つくために、席を立った。
瀞霊廷行き付けの茶屋に寄り、少し濃い目のお茶を用意してもらってゆっくり飲む。
一息ついて、茶屋の中にある見事に手入れされた庭を眺めながら、は少し落ち着いた気持ちでゆっくり流れる時を愉しんでいた。
お茶と茶屋自体の雰囲気のお陰か、ここに来る前と比べて随分と落ち着いたようだと判断しそろそろ帰ろうかと立ち上がったところでグラリと視界が揺れる。
――え?
と思う暇もなく、の視界は真っ暗になった。
どこか遠くで慌てた女の声がかすかに聞こえたが、それが誰か頭が認識するよりも早く、彼の意識は闇の奥へと消えていった。

 
搬送されてきた人の名を聞いて、彼女は部屋の縁側でゆっくりと飲んでいたお茶の手を止め立ち上がったかと思えば、報告に来た隊員に
「わかりました」
と言うとその場から一瞬で消えて、次に現れたのは彼が運び込まれたという救護舎だった。
報告に来た隊員は、僅かに遅れて彼女に追いついた後直ぐに自分の仕事に取り掛かっていく。
「容態は?」
ほんの数秒も経たずに現れた隊長に救護舎の空気が少しだけ張り詰めるが、彼女は気にせずに報告を聞く。
それに聞かれた隊員が答えている間にも足は止まらず、聞くべき事だけを聞いた頃には、彼女は彼が運ばれた部屋の前に立っていた。
 
 
 
 
 
 
「・・・まねぇ・・・な・・・うちの隊の者が・・・」
少年の声だ。
だけど、聞きなれた・・・誰かの声と
「・・・え。具合の・・・い方を・・・護・・・のは、私達・・・ですから」
それに答える女性の声。
誰?
それを確認したいのに、もどかしい程ゆっくりと意識が浮上していく。
そして、その人の変化に直ぐに気がついたのは女性の方だった。
「あら、目が覚めましたか?」
ゆっくりとした口調で女性が尋ねる。
のぼんやりとした視界が少しずつ鮮明になっていき、ようやく
「あ・・・えっと・・・卯ノ花・・・隊・・・長?」
と、自分を覗き込む女性の名前を言う事が出来た。
そして隣には
「・・・日番谷隊長」
「大丈夫か?」
恐らく卯ノ花から容態は聞いてるだろうが、日番谷はに直接聞いた。
「ったく。自己管理くらいはしっかりしろは何も言えなくなる。
だから
「いえ・・・そんなことは・・・」
と、ここは素直に答えるしかない。
真っ黒になる直前の記憶は、茶屋で倒れたときの真っ暗な闇に落ちていく感覚で、気がつけば四番隊の救護舎。
卯ノ花がいることからして、まず・・・間違いなく彼女にも迷惑をかけてしまった。
おまけに自分は十番隊の、平とは言え、隊員。
「ったく。無理するから倒れるんだよ、お前は」
と言って、その手が伸びてきて、スッと、額に触れた。
「まだ熱があるな。
 今日はもういいから、ここで寝かせてもらっておけ」
と言うと、またスッと手を離す。
「・・・はい」
その答えを聞くと彼は卯ノ花に後を頼み、救護舎から職務に戻った。
 
 
 
 
「無理なさるからですよ」
と、薬を枕元において、彼女が言う。
「すみません・・・」
謝りながらも、差し出された薬を飲むために体を起こすに、ニッコリ笑って卯の花が言った。
「しばらくは、養生することです。
 ここに居る間は、あなたに風邪を引かせる人の侵入はさせませんから、安心してくださいね」
アトガキ
卯ノ花が黒ッ!!
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2007/12/09 初稿
管理人 芥屋 芥