の斬魄刀は、尸魂界の歴史の中で、ただ一人、唯一の封印刀。』
そう聞かされたときは、ひどく驚いたものだ。


だが、その戦いぶりに、納得せざるを得なかった。
邂逅
「えーっと・・・それでは少々お待ちください。」
と、男は緊張しながらそう言い、襖の奥へと消えていった。
どこか虚勢が見え隠れする。
つまらぬ。
このような入隊の儀式など、私には必要がないというのに・・・
私には、試験も何もなかった。
それらを受けずして、護廷十三隊に入隊。そしてその日に席官へと抜擢された。
尸魂界・瀞霊廷で生まれ育ったものは基本的に霊圧が高く、また四大貴族ともなれば当然のこと。
よって試験らを受けずして入隊できる。
故に他者とのある種の『壁』も厚く、高いが、私にはその方が都合がよい。
つまらぬ者になど、私は付き合っている暇はないからだ。



「あ・・・!そっちは・・・」
途端声が響くとガラッと開いた襖から出てきたのは、なんの変哲もない銀髪の少年の死神だった。
そやつは一瞬私と目が合うが、なんともなかったように振り返り、
「あー、今日入ってきた新人さんて、この人?」と後ろにいる仲間の男に話し掛けた。
「あ・・・あぁ。そうだよ」
と言い難そうに同意した男に対して、
「そっか。 よろしく、新人さん」
と、笑って言ったのだ。


それからというもの、私はどことなくを見るようになった。
周りに囲まれ、からかわれている
だからといって下卑た雰囲気ではなく、あくまで気が許せる仲間同士でのやりとり。
には鬼道の素質が全くないんだもんなぁ。」
「そんなことない・・・ぞ?多分・・・」
と言いながらも笑っているそして、に後ろから
「そうそう、には鬼道は無理だって。」
などの会話や、一人になったときふと見せる、隊員を見る厳しい目。
その目が閉じられ、何を考えているのかわからなくなることもあった。
また、隊舎から見える瀞霊廷及び流魂街へと向けられる視線。
たまにフッといなくなることもある。
その度に隊長が
「まーたあいつは・・・しょうがねぇ奴・・・」
と大して気にも留めていなかったようだが。
だが、私は見てしまったんだ。
の左腕に傷がついているのを。
いや、傷を覆っているだろう、包帯を。
二人きりになる機会を伺い、私はそれとなく聞こうとしたのだが
「最近、俺のこと見てません?」
と、逆に言われてしまった。
夕日が傾いた隊舎。
差し込む光での髪がオレンジ色に染まる。
「気が付いていたのか。」
そう言うと微かにが笑った。
「そりゃ・・・あれだけジロジロ見られれば誰でも気がつきますよ。朽木さん。で、俺に何か用事かなにか?」
書類を机の上で整理しながら、初めてこちらを見てが言う。
、そなたは私が怖くないのか?」
つい出てしまった言葉だった。
本当は腕にある傷のことを聞きたかったのだが・・・なぜかそれが口をついて出た。
あまりに予想外なことに、私は少々戸惑った。
その言葉には一瞬止まったが、次の瞬間、今度は声を立てて笑った。


一頻り笑い終えると、
「おかしい〜。どうして怖いって・・・怖くないですよ、そんなの。」
「しかし、周りのものは私を避けていることを知っていよう。」
どこか、不思議なものを見る目。
入隊早々、三席へと抜擢されたという、尊敬の裏にある妬み。
貴族だからというだけで、できてしまう壁。
私はそれでも良かった。
常に『そう』在らざるを得なかったのも事実だから。
常に私は朽木家当主として見られる。
また見られなければならぬ。
そういうものだと、小さい頃から教わり、またそれしか知らない。
故にこのが気になる存在なのも確かだ。
こやつは、このフワフワとした雰囲気でその壁をすり抜け、飛び越えて『私』自身と相対しているからだ。
「そりゃ、朽木さんは四大貴族の一だし、その当主だから色々あるんでしょうが、まだまだ知らないことだって沢山あると、思うからです。」
この言葉を発したときのの表情は、まるで別人のような顔だった。
笑顔には違いない。
違いないが、コイツは誰だ?!
 
 
 
柔らかい物腰だが、有無を言わせなかった言葉と雰囲気。
あの後、私はどのようにして家に帰ったのか覚えてはいない。
気が付けば自室にいたのだ。
家の者に言わせると『至って普通に帰ってこられました』とのことだが、私には記憶がない。
気に食わぬ。
落ち着かぬ。
ザワザワする。
今まで、こんな気持ちになど、なったことがない。
どうすれば良いのだ・・・
などと思いながら、自然足はが居る隊舎へと向かって行った。
 
 
 
 
 
ほんのり明かりがともる部屋。
そこに居る、そう思うだけで心の中が落ち着かなくなる。
こんな感覚は初めてだ。
「こんな夜中にご訪問・・・ですか?」
後ろから掛けられた声に少々驚きながらもなんとか冷静さを装った。
振り返ったとき、はっきりと見えている腕に包帯が巻かれているのが目に入った。
言葉もなく立ちすくんでいると、の方からまた声がかかった。
「とりあえず、入りません?」
そう言って、誘った。
部屋に入ると、はベッドの上に、私は椅子に座った。
「何も出ませんけど」と話の頭にそう言って、本題を切り出す。
「で、朽木さんはどうしてこんな時間に?」
と。
「少し、聞きたいことがあってな」
夕方に聞きそびれてしまっていたことを聞いた。
「あらら・・・見られちゃってましたか。まいったなぁ」
そう言って傷を負っている腕で頭を掻いた。
袖がめくれ、見えているところより、更に上腕部分の包帯が露わになる。
包帯は、意外に体の深い部分までに達しているようだった。
「深いな」
思わず呟くと、はまた笑った。
「誰にやられたのだ。」
聞くとただ首を振るだけ。
「答えよ、誰にだ」
「それについては、答えることは、できません」
ゆっくりとした口調の中にある、頑とした拒絶。
ここまではっきりと拒否されれば、余計に知りたくもなるというもの。
このとき、何故か私の心の中で、何かが震えた。
「では、今度いなくなれば、付いて行くからな。」
それだけ言うと、私はその部屋を出た。
出るときに目の端に写したのキョトンとした表情の後、少し悲しそうな顔が、いつまでも私の心の中に残った。
 
 
 
 
 
それからしばらく、は何の変化もなく、隊に毎日のようにやってくる業務をこなしていた。
まるであの日のことなど忘れたかのように。
いや、はまた必ず居なくなる。
そして恐らく今度も傷をつけて帰ってくる。
わからぬ。
何故そうまでして隠す必要があるのだ。
「おいおい、朽木。そんなに気を張ってると下の者まで緊張しちまうだろ。もうちっと力抜け」
隊長に言われ、今まで己がいかに殺気を辺りに放っているか、気付かされた。
この間に、私は三席から副官へと昇進していた。
「お前、最近随分のこと気にしてるが、何かあったのか?」
現世の言う煙草というものを手に持ち、隊長が言う。
「いえ・・・ただ、あの者は何かを隠しているような、そんな気がするのです。」
率直にそう言うと、隊長は一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに戻し、
「そりゃ・・・まぁ・・・な。色々あるからな・・・あいつも。ま、俺の隊にいるってことは、平和ってことだから安心しろ。俺たちは普通に命令こなしてればいいだけさ」
そう言って煙草を吸った。
「どういう意味ですか」
厳しくなる口調を抑えずに言うと
「そのまんまの意味だよ。俺はこれ以上は話さん。理由を知りたきゃに直接聞いてくれ。ま、聞いても答えんと思うがね。」
そう言って隊長はどこかに行ってしまった。
どういう意味なのだ。
この隊長の下にいることが、平和?
何が平和だというのか。
分からない。
一体、は何を隠している・・・
 
 
また、スッとが消えた。
私が探し、見つけたときにはは、瞬歩も使わずにただ、歩いていた。
しかも霊圧を探ろうにも結界を張っているのか、感じることができず、後姿を追うしかなかった。
下級の死神ごときが何故こんなに気になるのか、分からない。
周囲とにできた壁など、奴にとってはなんでもなかったのか。
私が朽木家の当主だとか、そんなことは、奴になんでもないことだったのか。
何を考えているのか。
ザワザワする。
向かった先は、流魂街のはずれの・・・誰も居ない薄気味悪いところだった。
周囲を木々で覆われ、まるで虚が出そうなところ・・・
そこまで考えて、私の体が誰かに連れ去れていることを悟った。
あまりに素早すぎて、思考が追いつかなかったのだ。
「全く・・・本当に付いてくるなんて。信じられませんね、ホント。」
呆れるように言うのは、追っていたはずのの声。
「席官の人なら人らしく、今日の業務をこなしていてくれれば良かったのに・・・。これじゃ、僕が平をやっている意味がないでしょ・・・。あーもう。今回の朽木副隊長、あなたの行動、後々問題になっても知りませんよ?」
そう言うの声、周りの空気が全く違う。
まるで、別人のような、そう、あの時、夕日の中で感じた感覚。
何より、自分を指す呼称が・・・『俺』から『僕』へと変化している。
それに、腰を抱えられ、物凄い速さで移動している。
こやつ、こんなに?
「は・・・離せ!」
「霊圧を探ってみてください。周りにいるの、分かりませんか?」
そう言って離させようとした私を、大人しくさせるのに十分な科白を吐いた。
「周り?」
そう言いつつ、私は霊圧を探ってみる。
確かに、『いる』
それも巨大虚並の霊圧が・・・数十体。
このような数、こやつ一人で相手ができるような数ではない。
なのに、この余裕は、なんなのだ?
 
「ここならいいかな。さっき結界を張っておいたし。」
結界?
こやつが?
普段、修練場で全く鬼道がダメだと言われていたが?
「それにしても付いてくるなんて、本当に物好きな方だ。」
口調は、いつもと変わらない。
変わるのは、その声にある、自信のような力強さか。
「いつものお前ではないな。その自信はどこから来るものだ?」
素直に問うてみた。
だが返事は振り返ったときに見せた笑顔だけ。
「結界の中に虚が入った。呼びますよ」
そう言って周囲から虚を数十体、目の前に移動させた。
形、霊圧、様々な虚が周囲を取り囲む。
だが、その中では平気な顔をしていた。
「こんなに沢山・・・」
「今度は結構少ないですね」
同時に開いた口で、正反対の言葉が出る。
少ない?
この巨大虚の数だぞ?
一介の平の死神が相手できる数ではない。
それを、『少ない』と言ったのか?この男は。
「何故っていう顔、してますよ?朽木副隊長。だって、一々倒していくなんて面倒でしょ。だから、集めに集めるために餌を撒くんです。そして、それに引っ掛かった虚を、まとめて倒してるってことです。」
合点がいった。
時折居なくなる
そして付けてくる傷の上にある包帯。
まとめて倒している分危険が増す。
それゆえに傷が・・・
そう言うと、はキョトンとした表情で私を見ていた。
「傷?」
と、不思議そうに言葉を発する。
「その包帯、傷を負っているのではないのか?」
その言葉に、は笑みを深くした。
・・・お前よくもこの前はワザと逃がしたな。今日こそ倒す!』
そう言ってきた虚が襲い掛かってきたが、は動じなかった。
「じゃ・・・盤陣を印せ 森羅光玉」
静かに、凛とした声でそう言うと、目の前に、光が伸びた。
それにしても、奴の斬魄刀の名前は、『森羅』であって、四文字ではなかった気がするのだが・・・
私にも襲い掛かってきた虚を、千本桜の一閃で倒す。
「やりますね。流石です。朽木副隊長」
が感心したように言ってくる。
光が伸び、虚が消える。
戦いに、なっていなかった。
は、一歩もそこから動いていない。
「お前はこの前、六番隊の班を一個つぶしそうになったな。」
残した虚一体に対し、がそこで初めて口を開いた。
『そうだ。若い編成部隊故あまり強くなかったからな。』
虚が答える。
は下を向き、
「じゃ、お前には己が虚であることすら、忘れてもらおうか」
そう言ってそこで初めて、刀を抜いた。
そう。
さっきまで、抜刀はしていなかったのだ。
なのに、始解が・・・
どうなっている?
「朽木副隊長には、このことは恐らく後に正式に通告が出されると思いますから、それに従ってくださいね」
そう言った後に、声が響いた。
「八万一切後跡と為せ 森羅光玉」
足元から、目もくらむ程の光が、立ち上った。
「戻せ。」
たった、それだけだった。
それだけを、斬魄刀に命じただけであった。
やがて、光が去った後の残されたのは、初めからそこに立つと、その数歩離れて斬魄刀を持つ私と・・・虚。
何も変わらない状況に、私は虚に向かって千本桜を撃とうとした。
だが、それはが腕を上げ、制した。
そして静かに首を横に振ると、
「どうせ、己が虚だということも忘れている。放って置けば自然と消えるさ。」
 
 
 
 
 
『以下故に、朽木白哉には口外禁止とす』
数日後、私の元に届いた書簡で、全てを知った。
と同時には隊長の隊を離れていった。
そして、私は今後ほとんどと交流を深めることを禁止とされた。
「ま、相手が知っちまったら離れてく。そんな奴だよ。あいつは」
と隊長の言葉が心に沁みた。
 
 
 
 
 
 
余計な詮索など、しなければ良かったのか。
幻のような存在。
だがあの時のことは、生涯忘れられない光景となろう。
 
 
 
あの、光の中の、本当のとの邂逅だけは・・・
アトガキ
アンケートで,一位を取ったブリーチ尸魂界側主人公の六万打・・・お礼 ちょっと長めのお話。
ちょっと色んなところ詰め込みすぎた感もありますが,ご了承くだされば幸いかと思います。

それにしても朽木さんが,ちょっと(かなり)偽者っぽい感も拭えないっていう・・・
閑話休題
アンケート,押していただいた方,本当にありがとうございました。
この「ちょっと長めのお話(a little LONG Story)」を持ちまして,お礼のお返事とさせて頂きたく思います。

2023/07/21 CSS書式修正
管理人 芥屋 芥