「ったく、弓親のヤロウ。思いっきりぶつけやがって・・・」
頭をさすりながら、夜の帳が下りた道を家に向かって歩いていく。
そう。
あの時目の前が真っ暗になるくらい思いっきり後ろから、誰かの教科書の束で俺の頭を殴ったのは弓親だった。
で、その後どうなったか。
一緒に気を失っていたクラスの連中から聞いた話によると、俺が気を失うとは思ってなかった一角の木刀が誰かの顔面に見事にヒットしたらしく、その後しばらく乱闘は続いたそうな。
で、怒鳴り込んできた教師が一喝して収まったそうだ。
その直前に連中は早々に居なくなったそうだけどな。
で、気付いたら暗くなった教室に数人のクラスメイトと共に寝転がっていた。
ったく。なんだってこんなことせにゃぁならねぇんだ?
とか何とか思いながら、家路について、今に至る。


それにしても、ちょっと変な霊圧がいくつだ?
と周りを探りかけるが
ま、今の俺には関係はないか。
と思い直しは、家に向かって歩いていった。
不思議な関係
藍染が消えて一月余り。
隊長格ですら踏み込みを禁じられている禁踏区域を知る者として、は多忙に超がつく多忙な日々を過ごしていた。
四十六室が機能していた時は禁踏区域だった大霊書回廊に、そこを担当になった浮竹隊長を案内しその書回廊の操作方法を説明して直ぐに清浄塔居林へと向かう。
そして、またそこで指示をした後、すぐに『何処其処に来てくれ』との要請が飛び込んでくる。
全く。
自分が言い出したこととは言え、こうも忙しくなるなんてね。
と、瞬歩で走りながらは先日の隊首会のことを思い出していた。


「のぉ、。お主にな・・・」
と、言いにくそうなのだか、頼む気が満々なのか分からない声音で山本が言う。
ここは、一番隊隊首室。
そこに山本が居るのは当たり前なのだけれど、自分も今は『零番隊』として居る。
隊首会が始まる前の、一番隊長と零番隊長としての打ち合わせ。
「山本が言いたいのは、禁踏区域の指示及び指導を頼む・・・でしょ?」
いくら護廷十三隊の隊長と言えども、禁踏区域に入るにはそれ相応の理由が要る。
そして、許可された場所以外は、絶対に立ち入ることは許されない。
だから、内部の構造や、そこに置かれた機械の操作を知る隊長は、ほぼ・・・皆無といえる。
「内部を知る隊長は、今やほとんど居らぬ。だが、お主なら話は別じゃ。
 四十六室、幻の四十七人目の?」
と、目の前の銀髪の少年のもう一つの顔を山本はサラリと言ってのける。
しかしそれは、随分と昔に返上した肩書きだった。
「山本。僕が直轄部隊として動くということが決定されたとき、その肩書きを返上してるの知ってて言うのは、ズですよ。」
と、普段の彼なら絶対に使うことのない口調でが切り返す。
長年の信頼関係が見せる、の本当の顔。
コヤツめ・・・
と思ったのは、果たしてどちらか。


「とりあえず、四十六室が機能しない以上、次の四十六室が決まるまでの一切の決定権は山本、君に委譲されてますから。
 要請とあらば、受けますよ」
そう言って、ニコリと笑う。


「とりあえず、わたしは崩玉の覚醒時期と、朽木ルキアの義骸を調べることにするよ」
と、真っ先に切り出したのは涅だった。
「私は、これ以上尸魂界に反乱者が居ないか、徹底的に調べます」
そう言うのは、二番隊隊長であり隠密機動総司令官そして刑軍軍団長の砕蜂。
しかしその中で十一番隊の隊長更木剣八は出席をしてこなかった。
おそらく、戦い以外には興味がないのだろうと、は思った。
そして、
「皆に言っておきたい」
と終わりが近づいた頃、山本がそう前置きして言い始めた。
「このは、禁踏区域の中のことを詳しく知っておる。
 よって、内部のことが分からぬ場合はコヤツに要請せよ。」
と。
その後、それぞれの『やるべきこと』の確認と、役割を振って会は終わった。



その後現世へ向かう先遣隊の隊を率いるのが我が隊の日番谷隊長だということが決定し、そしてその間、隊の全ての仕事までもがに回ってきたから、多忙の上に通常業務も加わって、更に忙しい日々になってしまった。
そんな中、大霊書回廊を調査していた浮竹から『来てくれ』との要請が入り、そちらへと足を向ける。
「ごめんね。忙しいのに。来てもらったのは他でもない。このことなんだ。」
と彼が調査していた、大霊書回廊。
それにしても、ここ(大霊書回廊)に藍染が閲覧した記録が残っているということは、あの時既に僕が四十六室直轄の部隊の死神だと知っていて当然だった・・・という訳ですね。
そんなことを考えながら、は浮竹の後をついていった。


「気なるものを見つけたんだ。山本総隊長より先に君に見て欲しいと思って。」
そう言われ、藍染が見た記録の一覧を画面に出していく。
その中で、崩玉とは全く関係のない、ある記録を見て瞬時にの顔が険しくなる。
「これは・・・」
まさか、藍染の真の目的はこれか?
「王鍵に関する閲覧の記録。
 君なら、何か知ってるんじゃないかと思って、来てもらったんだ。」
「王鍵・・・」
君。これはその在り処を記した記録かい?」
「いや、王鍵の所在についての本はありません。
 これは、王鍵の生成を記した記録です。」
王鍵の生成には条件がいる。藍染は、それを調べていた?
ならば、目的は一つしかない。
「すぐに山本総隊長に連絡を。
 藍染の真の目的は、尸魂界の王族の抹殺です。」
そう言うの姿を見て、場違いだとは思ったが、浮竹が少し笑って彼を見ていた。
「あの・・・浮竹隊長?」
その笑顔を不思議に思ったのか、が問う。
「いや・・・なんだか、君って不思議だなぁって思って。
 ほんと、あの山本総隊長と同じなのかなって思ってしまって。
 いや、あの先生と同じには見えないから・・・」
そう。
あの山本先生と同じくらい、永く生きているとは思えないくらいに、彼は年下に見える。
こんなとき、あの男ならなんと言うんだろう。
と、同期で親友でもある京楽のことが頭に浮かぶ。
きっとあの男なら・・・
君って、本当に・・・」
「若作りしてるんだねぇ・・・ですか。清浄塔居林にいる京楽隊長からも、同じこと、言われました。」
そう言うと、いつもの空気でフワリと笑う。
「そうか。」


なんだ。
もう言ってたんだな、京楽は。
でも、俺が言いたかったのは少し違うんだよ、君。
俺が君に言いたかったのは、『本当に、君は不思議な存在なんだね』という言葉なんだ。
あの先生に向かって少し砕けた口調で返事を返したときは、本当に驚いた。
あの先生に向かってタメ口を利ける者など、居ないとさえ思っていたのに。
表に立つ山本総隊長と、裏で隊を見てきた君。
姿も、性格も、立場さえ全く違う二人だけれど、それでも相手の実力を認めている。
不思議な関係だな。
と考えつつ、清音と仙太郎を呼んだ。
 
 
「王族?」
――えぇ。一応、あなたにも伝えておこうと思いまして。
「それは、ありがとう・・・と言っておきましょう?サン。」
――まぁ、本人は知らないので、下手に動くと却って怪しまれるのですけれどね。
「えぇ。だってサン。その辺りのカンって外したことないでしょう?
 でも、困りましたねぇ。色々とこっちも『うるさい』のが来てて、少々厄介なことになってるんで。」
――もしかして、破面ですか?
「ご名答。
 ま、今のところサンの霊圧は感じ取ることは不可能なので、その辺りは心配ないんすケド・・・ね。」
――まぁ、そちらで動くということは、控えてくださいね。浦原さん。
「分かってますヨん。」
それを最後に、通信は途切れた。
それにしても王族・・・か。
これまた厄介な話ですね。
さて、どうしましょう・・・
アトガキ
あれ?
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2007/05/21 初稿
管理人 芥屋 芥