流れ出る、僅かな霊圧を探る。
仮面化してからの結界は、死神の鬼道では探りづらい。
だが、元は同じ。
ならばその探りづらい霊圧を戻してやれば、すり抜けることも簡単だ。
「流石・・・やねぇ。・・・元・・・いや、今も現役の零番隊隊長はん?」
すり抜けたところで、関東では聞きなれない西の言葉が、上から響いた。
必偶然
「平子・・・真子・・・君?」
「なんや、意外やねぇ。名前知っとるんか。」
上にいる彼を見上げて、が真子の名前を呼ぶのを『意外』と言いながらもそうは思っていないであろう口調で真子が答えた。
「知ってるも何も、の友人・・・だった元死神。勿体ぶった挨拶は抜きにしましょう。
 それにしても、君一人ですか?仲間の皆さんは?」
そう問うてあたりを一瞥した。
「み〜んな買出しに行っておらんわ。で、用件はなんやの?」
と聞き返した真子に
「黒崎・・・一護。仮面化しています。恐らく死神化した時に為ったものと思います。彼の虚化は、尸魂界でも確認しました。」
が言った。
「そんで?」
「あなた達に、その訓練をお願いしたい。」
「ほぉー、なんや都合のえぇ時だけ借り出す算段か。エライご身分やのぉ、零番隊隊長さん?」
挑発するように真子が言うが、マトモにやっても卑怯な手を使っても、とどのつまり何をどうしても勝てる相手じゃないことは、心底理解している。
自分の言葉に一瞬言いよどむ彼の返答を待つ。
「エライ身分なんかではありませんよ。
 ですが、仮面化は一度発症すれば止まりません。
 彼は、僕の友人の息子さんで、個人的にもどうにかできないか?と思って、こうしてここに居ます。
 つまり、この要望は僕個人の頼みごとで、瀞霊廷は関係ありません。」
と、いつもの暖かい表情で言う。
「な・・・そんだけか?」
ちょっと驚いた。
いや、かなり驚いた。
まさか『個人的な事』であの(から聞く限りの)冷静な零番隊の隊長が動くなんて・・・
せやけど、タイミング的にも丁度良かったといえば良かったのかも知れん。
こっちかて『黒崎一護』のことは耳に入っとったし、できるなら仲間に入れたいと思ってたところや。
いや、あいつは恐らくまだ、瀞霊廷におる死神と同じやと思ってるやろう。
自分の内なる虚に気付いとるハズやけど、それと向き合おうとしてへん・・・そんなところか。
まぁ、認めたくない気持ちは分からんでもないけどな。
せやけど一度発症したら、抑え込むまで虚化は止まらん。
そしてその虚化の抑え方を知っとるのは、同じ仮面を持った俺たち仮面の軍勢(ヴァイザード)・・・
なるほどのぉ。
俺らが黒崎一護に接触することを見越して、先に手を打ったっちゅう訳か。
流石やな、零番隊隊長さん。
しかも、自分()が俺らと接触することによって、尸魂界・・・いや、瀞霊廷の方は目をつむるしかないっちゅうことも見越しとるっちゅう訳か。
追放されたかて、霊圧探知されたら手が回る。
そこで、恩やないけど、瀞霊廷から何も言わせん代わりに、友人の息子の訓練をしてくれ・・・か。
ホンマ、世の中上手く回すの上手いなぁ。
憎たらしいくらいに、ウマイわ・・・
「まぁ・・・その話、聞いたるわ。こっちも接触しよう思てたところや。
 せやけどな、さん。瀞霊廷に、俺らのことから完全に手引いてもらう。それが条件や」
最後の言葉に視線を合わせ、力を込めて言う。
一瞬だけ表情を曇らせたが、静かに真子を見ていた。
「わかった。」
「ホンマか?」
「うん。」
「ホンマにホンマか?」
「うん」
「ホンマにホンマにホンマか?」
「あ・・・でも、完全に手を引くって訳じゃなくて・・・その・・・」
「あ"ぁ"?」
「わかりました。瀞霊廷は、今後一切あなたたちに干渉しないことを約束します」
「それなら・・・」
「あ、でも、友人あたりが何だかんだと言って、あなたたちに干渉しそうではありますけど。」
と、ニッコリしながら言い放った。
それって・・・
かぁぁぁ!なんちゅう策士や!やっぱあんたとはソリが合わん!」
真子がそう言って流緯の襟首をガッシとつかむとブンブンと振る。
「偶然ですよ。そう、偶然。
 僕が彼に副隊長の任を依頼する前から、君とは親友だったなんて、僕は少しも知らなかったんです。
 だから、これは偶然。ね?」
そう言って、嫌味なくらい『ニッコリ』と笑った。
 
 
「なんか、手の内で踊らされてるような気ぃするけど、こっちも接触しよう思てたんやからえぇんとちゃうか?
 せやけど、そのとか言う奴が、あの時点でそこまで読んでたら流石に気持ち悪いの通り越して気味悪いけどな。
 まぁえぇわ。真子、あんた行ってき。そんで、黒崎一護を引き込んどいで。」
とひよ里が言う。
「ちょ!なんで俺やの!?」
名前を言われた真子は心底意外そうに問うが
「なんや?なんか言ったか?」
ギロリと睨み返されて渋々承諾する。
「分かったわ。行ってくる。せやけど、あの学校にはハンが居ったような気がしたんやけど、えぇんか?」
その言葉でひよ里が一瞬「う"っ」と言ってたじろくが、次の瞬間には
「えぇねん。このまんまで会ったところで、なんもあらへんし・・・」と小さく言って
「それよりも真子!なんぼ時間掛ってもえぇ!必ず黒崎一護をここへ連れて来!えぇな!!」
と言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「隊長・・・」
結界の中からが出ると、道を挟んだ歩道にが立っていた。
「あの・・・隊長。」
「なんですか?」
「いいんですか?勝手にこんなところにうろついて」
と、言葉を濁した。
「いいんですよ。それにしても、がここに居ると言う事は、あなたも黒崎さんのことを心配しているんでしょう?」
「はい」
「ならば、心配要りませんよ。
 彼らならなんとかしてくれる。僕はそう思ってます。」
「問題は・・・」
「黒崎君がどう彼らに対して納得し、彼らの言を受け入れるのか?
 が心配してるのはそこでしょう?」
「はい」
「そこは、彼らと黒崎君。両方の面識のある君の領分だと僕は思うんですが。
 、違いますか?」
そう言われ、の動きが一瞬止まり、ゆっくりと瞬きを二度三度繰り返した。
そりゃぁ、虚化のことはアイツ等に任せるしかない。
黒崎の知らないところでこうやって事態を動かすのは、考えに考え抜いた今でも躊躇っている。
急に知らない奴から『俺とお前は仲間だ』とか言われたところで黒崎は納得はしないだろうと思う。
だけどこのままじゃアイツは、自分を失う。
そして全てを破壊するか、倒されるかしないと止まらない、そんな奴になってしまう。
俺はあいつに刀を向けたくないし、向けられたくない。
だからこうして、真子達に会うためにここに居る。
何故なら虚化した死神に対して、瀞霊廷も俺たちも何もできないから。
だから浦原も、黒崎に対しては何も言わない・・・んじゃねぇ。言えないんだ。
そりゃ隊長ならなんとか出来るとは思う。
でもこれは俺の予想だけど、そうなると一生この人が作る結界の中から出られなくなってしまうんじゃねぇのか?
森羅光玉の結界の中から一歩でも出ると、再び虚化が始まるような・・・
そんな生活になってしまうだろうと思う。
この人でも、その力が及ぶのは死神だけなんだろう。
それが分かってるから、この人はこうして動いてるのだろう。
自分たちではどうすることもできないことも、十分に分かっている。
黒崎の中の虚をどうすることもできず、だが、瀞霊廷・・・いや、尸魂界を救ってくれた人間だからこそ、どうやってもこのまま狂気に飲まれるのを黙って見過ごすというのは果たして・・・とでも思ったのだろうか。
だから、虚の抑え方を知っている真子達に頼むしかない。
そう思ってこの人はここにいる。
と、俺は思ってんだけど・・・な。
まぁ、何だかんだ言って、あなたも簡単には諦めないんですね。
「あなたには敵いませんよ。隊長」
と言って肩をすくめた。
それを見て流緯が少し笑ったようには思った。
「じゃ、僕はそろそろ尸魂界へ帰ります。今回現世に来ること、瀞霊廷に言ってないんです。
 そろそろうちの隊長から怒髪点食らいそうで・・・ね」
そう言っていたずらっ子のような笑顔で、しかしそれでいてフワリと笑う。
それに合わせて、銀の髪がサラリと揺れた。
「あぁそうだ。隊長のところの隊長さんって、どんな人なんです?」
隊長の隊長って、なんだか変な日本語だとは思ったが、何気に気になったので聞いてみた。
今回のことで、目の前の死神が実は零番隊の隊長だってもうバレてるはずなのに、未だにどこの隊か知らないが、所属させている・・・いや、もしかしたらこの人が『このままで〜』とか何とか言ったのかもしれないが、兎に角そのまま所属させているという人物の人と為りが気にならないと言えば少しばかり嘘になるから。
「隊長のことですか?えーっと・・・十番隊の隊長さんは、髪は僕と同じ銀髪で、背は僕より低いですね。
 あと氷系の斬魄刀を持っていて、今の護廷十三隊では一番の最年少の隊長です。
 今度、こちらにもしかしたら来ることになるかもしれませんよ?
 今その為の選定をしてますから。じゃ、。まだ、我々としては動けないので、力を戻しておいてくださいね。それでは」
そう言うと流緯は門を開いて帰っていった。
彼が消えると、はそこから浦原商店へと足を向ける。
それにしても、まだ俺に本来の力が戻ってないこともバレてたのか・・・
まだ、自分の霊圧に耐えられない、死神になれる時間が限られている。
まぁ俺よりも、黒崎のこれからの方が大変だろうけどな。
「浦原・・・」
店の前に立って、真っ直ぐこっちを見ていた浦原が
「ワタシは、サンにお礼を言いたいですね」
と言った。
意味がわからず問い掛ける。
「なんだよ。」
「だって、あの時彼が動かなかったら、こうも弱くなったサンを見ることは敵わなかったデショウから」
と、語尾にハートマークが付いてんじゃねぇか?って思うくらい、ウキウキした口調で浦原が言った。
「テメェ・・・」
語句が震える。
「あ、そうだ。本格的に戻る前に、ワタシとしては・・・」
彼がこの先何を言うのか、魂胆が見え見えな浦原をが見る。
そして、
「嫌だぜ喜助。大体お前の紅姫と俺の風梗は相性が悪いんだ!」
と言った。
「なーに言ってるんですか!卍解で特訓しないで何するんですか?
 さぁ!やりますよ!」
と、張り切った浦原の声のあとに焦ったようなの声が響いた。
「まだ早いって!大体俺はまだ・・・ヤメロって喜助、それセクハラだぁぁぁ!」
アトガキ
なんだか,うちの人間界主。ギャグ要員っぽ・・・
まぁ,シリアス系主人公が多いなか,どっちもこなせる珍しい主人公ですね。
それにしても,最後は浦原さんに何されたんだろう・・・(謎)
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2007/02/26
管理人 芥屋 芥