「いいのか?」
静かに言う、めがねをかけた男。
「ま・・・あの二人・・・浦原さんとの邪魔をするのもなんだし・・・それに君だって覗き見とは、あまり良い趣味とはいえないよ?」
そう言ってその男を振り返る、銀髪の少年。
その視線をまともに受けて、少しずらすと
「うちの息子も、どうやらそちらに行っていたようだな」
と、確認するように言葉を発した。
「そうだね。」と返事をする銀髪の少年が発した次の言葉に、眼鏡の男は顔色を変えた。
「でも、途中から彼はどうやら滅却師としての能力がなくなっていたように感じたけれど・・・」
「なに?」
「気になるのかい?」
すぐさま切り返されて何もいえなくなる。
興味のない振りをしているところで銀髪の少年には、この眼鏡の男が本当は現状に関わりたくて仕方がないことを見抜いている。
そしてそう切り返すと、己の意地のために何も言えなくなることも・・・
「そういう意地っ張りなところ、何も変わらないね。竜弦さん」
「貴様こそ、そういうフワフワしたところ、何も変わらんな
やりきれない想い
「恐らく彼は滅却師としての能力を失っている。いや、確実に失っているだろうね。」
と、尸魂界で起こった出来事を、自分の知る範囲よりも更に狭い部分だけをは語った。
最後に会った時、あの白い服を来た少年からは、滅却師としての霊圧を一切感じなかったから間違いはないと。
そう言った時竜弦が「あのバカが・・・」と、冷たく言った。
「そう責めるな。彼だって必死だったんだろう。涅は卍解し、その後急激に霊圧の上昇を感じたから、恐らく」
そのあとの言葉を、竜弦が引き継いだ。
「散霊手套だ」
「あの道具か・・・しかしそれをあの短期間で扱えるとなると、相当の才能の持ち主だと僕は思うけどね。」
そう言うと、竜弦の冷たい視線を受ける。
だが、その視線をふわりとかわすと、
「それでも君が、彼を死神に関わらせたくないと思う気持ちもわかるよ。だけど、少しは彼の気持ちもわかってやってもいいんじゃないかな。」
竜弦はを睨みながら、
「二度と、死神には関わらせない」と、言い切った。
「そんなに心配か?」
「当たり前だ」
「違うよ。」
否定の言葉に、竜弦が足を止めてを見た。
「君の息子が、死神に協力したいと、そしてその思いは彼の自覚のないところで大きくなっていることがさ。」
核心をつかれたような気がした。
だが、竜弦は否定した。
否定するしか、できなかった。
だけど、完全には否定できなかった。
「どいつもこいつも・・・お前等は・・・」
そこから先の言葉が出ない。
捨てきれない思いと共に、己には興味がないと言い聞かせて・・・
そして息子には、才能がないからヤメロと言い聞かせてきたのに、雨竜は滅却師としての能力を尸魂界で失った。
もうこれで関わらせずにすむ。
死神になど・・・これから関わる必要がない。
意味がない。
滅却師では食べていけない世の中だ。
それは竜弦が一番わかっている現実だった。
本来ならば、これから自分の跡を病院を継がせて、まっとうな一人の人間としての人生がそこに・・・
 
「こんな思いなど、すぐに捨てられるならば苦労はしない。だが、お前等死神は父を見殺しにし、果ては実験を繰り返した。その行いを、見てみぬ振りをした。そんなお前等をどうやって許せる?許せはしない。許すつもりもない。」
憎悪に満ちた竜弦の声。
その言葉・声音をは真っ直ぐに受け止めた。
静かで、揺るがない霊圧と共に。
「許してくれなんて、言えないさ。ただ、僕個人としては、涅も許すつもりはなくてね。今回、彼に託してみたんだ。彼が、涅を殺すのをね。」
「己の手は汚さないのか・・・貴様は」
「色々とこちらも制約があるってことだよ、竜弦さん。立場としては一介の平隊員でしかない僕に、隊長格を殺せるはずないだろ?ただでさえ公に動いたら更にまずいことになってしまう状況だったのに・・・ね」
そう。
賭けてみたかったのかもしれない。
「宗弦は、僕の大切な友人の一人だったからね」
ポツリと呟いたに、僅かだが竜弦の瞳が揺れる。
友人?
父は、死神に友人などいただろうか。
いや・・・居なかったはずだ。監視役の死神なら二人ついていたが・・・
そいつらが間に合えば、父は死なずに済んだのに、見殺しにされた。
「宗弦が尸魂界に来て、正直驚いた。まさかこんなに早く会うなんて。ってね。彼は、全て分かっていたようだった。もちろんそんなことは一言も言わなかったが、僕には分かった。だけど彼に『手を出すな』と『言われて』しまってね。それで黙っているしかなかったんだ。」
静かに言うの、その言葉の裏にある悲しみを、竜弦はなぜかはっきりと感じた。
父が死んで、いや見殺しにされて、悲しんでいたのは、この死神も同じだと。
涙も流さない、何事もその飲み込むかのような静か過ぎる霊圧を持つこの最瀞の死神が・・・
やりきれなかったのは、貴様も同じ・・・か
 
 
 
 
「あいつが望むなら、もう一度滅却師としての能力を取り戻させることもしてやっても構わないが、こちらとしても条件を出す。」
静かに竜弦がそう言う頃には、二人は公園の出口に差し掛かっていた。
 
 
 
 
「意地っ張り・・・だな。竜弦さん」
の柔らかい声が響く。
「これだけは譲れん。例えお前に意地っ張りだといわれても・・・雨竜に憎まれても構わない。」
「親心、子知らず・・・になるかもね」
「それでもだ」
「強情っぱり」
「うるさい」
竜弦の不機嫌な顔とは対称的に、柔らかな笑みをその顔に宿し、は竜弦を見ている。
「素直じゃないなぁ。滅却師としての能力を取り戻させてやるから、死神に協力しろって言えませんか?」
「この俺が言えると本気で思っているのか貴様・・・」
今度は僅かだが、あきれたような視線をに送る。
その視線を受けて、更にが笑みを濃くする。
まるで楽しんでいるかのように・・・
「分かってますよ。あなたの強情っぷりはね。」
「そういうところが、俺は嫌いだ」
 
 
 
 
昔から、初めて出会った頃からなにも変わらない姿。霊圧。纏う雰囲気。発する言葉その全てが何故か気に入らなかった。
それがわかっていても、は私に構うことは辞めなかった。
ま、今ではどうでもいいがな・・・
「さっさと帰れ。これ以上俺に関わるな」
殺意を込めてそういうと、
「じゃ、またな」と言い、今度は本当に尸魂界へと帰っていった。
 
それにしても、破面か・・・
事態は厄介な方向へ進んでいるようだ。
全く・・・余計な心配をさせやがって。
『親心、子知らず』
か。
まったくその通りだよ、
アトガキ
はい・・・なんだか,攻めっぽくなってしまった主人公。
でも,尸魂界に帰るとまた彼は彼で忙しい日々が・・・
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管理人 芥屋 芥