「なに見てるんだい、君?」
白くユラユラっと揺れる煙が、の座っている前から立ち上っている。
それを不思議に思って、藍染は声を掛けた。
蚊取り線香
「あぁ。これ、見てるんです。」
そう言って見せたもの。
「蚊取り線香?」
首を少しかしげての前に立つ藍染に対して、
「えぇ。煙って、見てるだけでも飽きないなぁって思うんです。」
縁側に座り、横に蚊取り線香を置いて、その煙の行く末をいつもの柔らかい笑みで追いかけている。
「そうか」
横に座ると、軽く唇を奪った。
「藍染隊長?」
 
 
「なっ・・・たい・・・ちょう?」
まだ、事態が飲み込めていないの顔をじっと見て、
「本気でイヤだと思うなら、本気で抵抗してくれていいよ?」
そう言って障子を閉め、外からが見えない状態にしてしまう。
 
後ろからスッと入ってくる冷たい手に、思わず体を引いてしまう。
「や・・・いやです隊長ヤメ・・・ん・・・」
顎をつかんで上向かせて口付けを交わす。
逃げようとする体を腕を使って封じ込めると、尸魂界でも滅多にいない静かで透明な霊圧が、少しだけ揺れる。
ぐったりとしたの体を、腕で後ろから抱いてそのまま寝かせると、涙が一筋流れ落ちた。
顔を近づけ耳元で囁いた藍染の言葉で、途端ぼんやりとしていたの瞳がはっきりと藍染を見た。
 
 
「藍・・・染・・・?」
「お久しぶりです。隊長」
「藍染、お前・・・」
状況を把握しようと、辺りを瞬時に観察する。
どうやらここは十番隊詰め所のようだ、と検討をつけた。
その部屋で、藍染に上から覗き込まれている。
一体何があった?
「そろそろ、俺としても動きたいんです。協力、していただけますか?」
整理のつかない中響いた藍染の声に、
「断る。僕はお前の都合のいい人形じゃない」
と即答で返した。
「また、断るおつもりですか?」
「当たり前っ・・・ん」
逃げようとする体を上から押さえ込みにかかる藍染に、憎悪の視線をが向ける。
「そんな目で睨んだって、俺にとっては怖くもなんともないですよ?」
それに、と一呼吸おいてから、
「またアナタに暗示をかければそれで済む話ですから。そうなるとあなたはただの十番隊の平隊員に成り下がる。ま、どっちにしても零番隊の存在を知ってるものは数少ないですからね。どうとでも処理できる。」
視線を、藍染から逸らして
「日番谷は、知らないからな」
と呟いた。
「だからこそ、あなたは十番隊にいるんでしょ?」
揶揄する口調で、藍染が言う。
五番隊の隊長としての穏やかな表の顔じゃなく、「藍染 惣右介」個人としての顔。
 
「藍染、朽木が義骸で帰ってきたそうだな。」
「えぇ。しかもあの義骸でしたからね。だから、そろそろ動きたいんですよ。そのためには、あなたの斬魄刀の能力もいるんです。」
「僕は、お前等になぞ協力はしない。この尸魂界を裏切るなんてことは、僕には出来ない」
そう言うと、藍染の顔が普段の表情からは考えられないほど、歪んでこう言い放った。
「なら、協力させるための口実は必要だね。君?」
 
 
 
痛い・・・
さっきから体中が痛い。
だけど、痛みの中に強烈な快楽が混じる。
声を出そうとするけれど、かすれてしまって声にならない。
それにしても、ここは十番隊詰め所じゃないのか?
さっきから誰も来ない。
いつもなら誰か必ずいて、用事や何やらで忙しいというのに・・・
「藍・・・染・・・お前・・・何か、したのか」
はっきりと言えたかどうかさえ、には分からなかった。
だが、藍染はそれに答えてきた。
「今ごろ気付いたのかい?僕の斬魄刀の能力がなんだったか、忘れたとは言わせないよ?」
・・・まさか、これも暗示か?
藍染の前じゃ、一体どれが本当のことか全く分からなくなっていく。
 
 
 
隊長、考えておいてくださいね。そろそろ俺たちも動きますから」
ドサっと投げ出されたの体に、冷たく響く藍染の声。
そして、遠くで響く日番谷隊長の声。
「どうした、何があった!」
揺すられ、微かに目を開けたが最後に目にしたのは、全てを最初から最後まで見ていたユラユラ揺れる蚊取り線香の煙だった。
 
 
その日を境には、原因不明の高熱にうなされることになる。
アトガキ
痛いかなぁ
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管理人 芥屋 芥