About Death Way
Neutralizer
拡散していた霊圧が彼に戻っていく。
それが納まりきったところで、さんは気を失いました。
だから、その後の何があったかは、彼は知りません。
いや、知らなくてもいいと思う。
 
 
 
「藍染・・・そこにいますね?」
気を失った彼を前に膝をついて、は静かに声を発した。
ザッ・・・
君、見せてもらったよ」
と言いながら、後ろの雑木林の影から姿を現した。
共に来ていたのは卯ノ花隊長と日番谷隊長だったが、彼女達は『中』しか認識させられていないので、自分達の言葉が届くはずがなかった。
「あらあら」
と、心配した様子で彼女は『中の』自分達にそう話し掛けている。
そして、中の自分はこう答えている。
いや、それは『藍染』が彼女に認識させている、『俺』の行動パターンの一つなのだが・・・
「卯ノ花隊長・・・彼は、大丈夫でしょうか?」
と。
そして、中の自分は近づいてきた日番谷隊長にこうも言った。
「あの・・・隊長。
 これで・・・市丸隊長と松本副隊長の一件、終了しました」
「あぁ。ご苦労だったな。
それらのやり取りが、彼らにとっては『現実』となっていく。
そのことに矛盾を感じながらも、今は外で眺めているしか手はない。
 
 
 
藍染が鏡花水月を使ったのは一目瞭然。
まさか卯ノ花と日番谷が付いてくるとは、彼にとっては計算外だったのか、それとも計算の中に入っていたのかはそこまでは分からない。
それでも、卯ノ花には彼の無事を確認させて、日番谷には一件は終わったと認識させた。
「大丈夫です。
 少し霊圧が安定していませんが、安静にしていればいずれ治まるでしょう」
と、彼の体に手をかざして診ていた卯ノ花が、ニッコリと笑って日番谷に言う。
その言葉に一息吐いた日番谷が
「こんなところで寝かせておく訳にもいかねぇだろ。
 、運べるか?」
その答えは、卯ノ花が取った。
「治療は私の役目ですよ、日番谷隊長」
 
 
 
 
「さて・・・大事な実験体・・・だからね」
と、ここで藍染が動く。
「僕はあなたに、結果を見せた。
 これ以上、何を望むんですか?」
「考えられるあらゆる事を、いくらでも」
冷徹な視線でを見る。
対峙する、『外』の二人。
それを認識することもできない、『中』の二人。
外で散る荒々しい火花。
中で流れる穏やかな空気。
その境を、彼らの予想していなかった霊圧が流れてくる。
まるで、中和するように。
それを敏感に察した藍染が、殺気を引いた。
「どうやら彼には、私の鏡花水月の中と外の世界に干渉できる霊圧以外の何かがあるようだね」
と、そう言って鏡花水月を解いた。
その時に感じた陰湿な笑いに不安は残ったが・・・それでもこの一件は、なんとか決着がついた。
 
「これで貸し借りなしだからね?ギン」
飲み屋でそう言いながら酒を飲むのは、金髪でナイスバディの持ち主である松本だ。
「はいはい」
と受け流しながら目の前に注がれた酒に手を伸ばすのは市丸だ。
結局この『賭け』は、松本の若干勝利に終わった・・・らしい。
(ちょーっと不本意やけどなぁ・・・)
と思いつつも、昔の馴染みから、許せている自分がいる。
これが他人だったら、イヤでも妨害・・・
ま、相手が松本だったから吹っ掛けられた『賭け』
オモシロイモノも見せてもらったし、しばらくは、大人しゅうしとこ。
と、表情の読めない顔で、そんなことを思っているのか思っていないのか。
それは誰にも分からない。
だが
「ちょーっとボク、サンのこと気に入ったかなぁ」
と呟いたのを、確かに松本は聞いた。
 
 
 
 
 
 
「それで、誰かさんの本体と会った?」
その言葉に、阿近は首を横に振った。
「いいや。誰も来てねぇよ」
「そか」
「でも、不思議な体質してたぜ?アイツ。
 アルコールっていうアルコール全部受け付けんし、まぁ、それは霊圧も関係してんだろうけどな」
と、嬉々とした様子で、実験結果を阿近は語る。
「霊圧?」
「そ。霊圧。
 あの人間、中に相当の『水』を溜め込んでやがるだろう?
 だからそこにアルコールが混じると、その水が全部染まっちまう現象が発生する。
 そうすると、体質の問題もあるんだろうが、体と中の霊圧が一気にアルコールまみれになり、結果一滴も飲めなくなるってことさ」
「そうだったんだ」
「そうだったの。
 で、『隊長』は、なんでわざわざここへ?」
「いや・・・明日彼が現世に帰るから、引き取りに来たんだ」
「じゃ今日中に戻さねぇとなぁ。
 今どこにいるんだ?」
 
 
 
 
 
 
「あら。明日でもよろしかったのに・・・」
夕方・・・時間的にはもう夜だったが、彼女は救護舎にいた。
「夜分遅く申し訳ありません。
 ですが、明日は明日で忙しくなると思いまして・・・」
その体で楽々と彼の体を肩に乗せているは、一体どこにそんな力があるのだろうか?
という疑問が湧くが・・・
それに、こんな時間の訪問など、通常では失礼なことだ。
が、卯ノ花はそれを不問に付して、その理由をサラリと述べる。
「日番谷隊長から、訪問の際はよろしくお願いしますと」
「そうでしたか」
それだけではない。
彼女は、が『普通の平隊員』ではないことを知っているから。
何か大きな理由があって、『そう』しているらしいことは察しているから。
それでも何も言わない。
だからこそ、普通に接していられるのかも知れないと、率直には思う。
『卯ノ花隊長と君が揃うと、そこだけ空気がゆったりするよねぇ』
とは、京楽隊長の言。
すでに意識が回復していたさんは不思議そうに、床に座りベッドに背を支えられた自分の体を膝をかがめマジマジと見ていた。
「へぇ。
 こうして見ると、なんだかヘンな感じだね」
照れくさそうにそう言うと、
「で、どうすればいい?」
と聞いてきたから、
「じゃ、いきますよ?」
と、刀を鞘ごと腰から抜き、霊体である彼の体をコツンと押した。
「・・・っ!?」
その瞬間、何がおきたのか、やはり分からなかった。
と同時に今まで向いていた視界が、自分の体の方から君が居る方へと一瞬で変わったから頭が少し混乱したらしく、しばらく現状を認識できずにいた。
「あ・・・あ・・・え・・・っと」
と、混乱するが話し掛ける。
「大丈夫ですか?」
「あ・・・うん。
 でもちょっと・・・なんだか変な感じ・・・かな」
少しだけ、体が鈍ったような感じ。
動きが神経とほんの少しだけかみ合ってないというか・・・なんというか。
体の方が一瞬、ほんの一瞬だけ遅れるというか・・・
そのことを率直に言うと、答えたのは卯ノ花隊長だった。
「大丈夫ですよ。しばらくすれば、治りますから。
 いくら十二番隊で預かっていたとは言え、硬直化の進行を完全に止めることはできませんから」
と。
安心させるように、でも言っていることは結局『死後硬直』のこと・・・らしいが、この際そこに突っ込むと墓穴を掘りそうなのでは黙って納得した。
「それでは、明日の朝迎えにきますから。
 今日はゆっくりと休んでくださいね」
君が言うと、二人は部屋から出て行った。
後に残されたは、あの場で気を失ってここで目覚めるまでの間、あの場で何かがあったような気がしなくもないけれど・・・
君の声が二重に聞こえたような・・・
一方の声はいつもの、やかな声だったのに、もう一つの声は、とても硬くて、同一人物とは思えないほどだったから、少しだけ記憶に残っている。
だが、すぐに襲ったきた眠気で、それすらもウヤムヤになってしまった。
それが本当にあった出来事だとは、やはり認識できないまま・・・
 
 
 
 
 
明日は、現世だ。
アトガキ
藍染と尸魂界主の催眠の外のやり取り
2017/07/20 書式修正
2007/11/06 up
管理人 芥屋 芥