About Death Way
Inside Face
「で、どないしますの?」
と、問い掛けるのは市丸で、
「どうしましょうか」
とお茶を飲みながら、のんびりと答えるのは卯ノ花さんだ。
パチッ
という音をさせて、囲炉裏から火の粉が飛ぶ。
それとは別の火の粉も飛んでいるような気もしますけど・・・
は置いておいて、とりあえずこの家こんなに狭かったでしたっけ?
と感じるほどの人が集まってしまいました。
無意識な色気を放つ松本に迫られて倒れたさんは、囲炉裏の一角を陣取って寝かされていました。
その寝ているさんの隣を離れないのが市丸と卯ノ花さんで、頭・・・といういより顔に時折ちょっかいをかけては囲炉裏からさんを挟んで彼の胸元辺りに手を置いて霊圧を診ている卯ノ花さんの笑顔が市丸へと飛んでいた。
そんな三人と囲炉裏には当たらず、縁のところに腰掛けている俺。
他、集まりに集まった五番隊の隊長藍染は俺の背中越しに座り、副隊長の雛森さんそんな藍染の隣。
そして、一応『僕』が飛ばされた先の十番隊の日番谷隊長は俺の隣に居て、雛森副隊長とは背中越しで座っている。
松本副隊長は壁に背中を預けて俺達の様子を見ながらお茶を飲んでいる。
この二人を併せて合計八名。
というよりも、あなた達・・・仕事は?
ということをそれとなく聞いてみたら、藍染と卯ノ花さんと日番谷隊長は今日の分は済ませてきたとのこと。
だけど市丸は、松本の言葉通り吉良に押し付けて来た・・・らしい。
全く。
そんなんだから、吉良の話が延々僕に廻ってくるんですよ、市丸・・・
「それにしても彼。結構『純』だねぇ」
と、藍染がの背中越しにそうこぼす。
「え?『純』ってなんですか、藍染隊長」
すかさず雛森さんが返すが、藍染は
「う〜ん・・・まぁ、倒れたことがその証拠かな」
と言って言葉を濁した。
その直後日番谷隊長が雛森副隊長の横顔をジッと見ているのを目の端に捉えて見なかったことにした。
それにしても、なんという力のバランスだろう。
と、頭の片隅で『零番隊』としての考えがよぎる。
この状況では、流石の藍染も本来の顔は隠れているようだ。
ま、背中越しで彼の鏡花水月そして霊圧、抑え込んでますからね。
『外』で。
とは言え、そんな気配は微塵も感じさせないあたり、お互い何をや況や・・・ですけれど。
 
 
 
「流石・・・というべきかな?君。」
先に口火を切ったのは、藍染の方だった。
「・・・それはどういたしまして・・・と答えた方が良いんでしょうかね、藍染。
 それにしたって、この状況では皆に見せてる顔を維持する他ないからって、『外』で僕にちょっかい出すの止めてくれませんか?」
藍染の問に一拍置いてが答える。
ここは、先程居た場所と全く同じでも、鏡花水月の外の世界。
本来の藍染の顔が現れる、本当の世界。
今日番谷隊長たち以下、彼の催眠に掛った死神達が見ている世界とは全く違う顔がお互い覗いている。
そして、藍染はクスリと、恐らく『今』の彼を雛森が見たら余りの違いに耐え切れず、倒れるかもしれない酷薄の笑みで笑っているのだろうことが分かる言い方で
「いいじゃないか。本来の私は『こちら』なのだから。」
と答え
「あんなお人好しなど反吐が出るのでね。偽りは偽りのまま『置いて』、君と話していた方が幾分か楽だよ」
と、彼等が『見ている』藍染を見て心底ウンザリしている様子でこちらの藍染が言う。
「そんなものですかね?」
と肘を膝の上に置き、そこに体重を掛けた格好で問うた
「そんなものだよ」
と、答えた。
ま、こんなところで探り合いをしたって埒があかないので、は藍染が彼の前に姿を現し、かつ催眠を掛けていったことに対する疑問を思い切って聞いてみることにした。
「あなたに回りくどい言い回しをしても無駄なので、単刀直入に聞きますけど。
 彼を、さんを実験材料にでもするつもりですか?」
と、自分が前のめりになったことで、僅かに開いた隙間の背中越しに感じる藍染という存在に向けてが再び問うと、今度は違う答えが藍染から返ってきた。
「どうだろう。
 確かに面白い材料だと思うけど、これ以上君に『ちょっかい』を出すことは、君が許してくれそうもないし。
 かと言って、人間界から無理矢理とは言え連れて来た男が、ここで死神化できるのか。
 そのこと自体には興味はあるよ。
 だけど、それ自体は昔、君と王族だけだった尸魂界初期の頃、足りない死神を補うために人間界から連れてきてここで死神化を行っていたという事実が存在している事は知っている。
 それは人間界じゃ『神隠し』と言われていたようだが、実際は尸魂界に連れてきて死神化を行っていたに過ぎない。
 そしてそれを主に行っていたのは、君、君だ。
 当然ながら、その時ばかりは私は居ないのでね。それが見れるというならば、見たいと思うのが当然ではないかね?君」
そこまで知っているか。
と半ば観念してが答える。
「随分と懐かしい話を持ってきたようですけど、もう二度と、あんなことはするまいと思っていますよ。
 無理に人を連れてきておいて、無理に死神化を強要する。
 その連れてこられた者の中で、自然と為れる者は自然と為れた。
 しかし素質の無いものは・・・耐え切れずに、ここで死んでいった。
 虚圏では、僕を恨んでる人も大勢居ます」
「私に懺悔など聞かせても無意味だよ君。」
氷を浴びせるような、冷たい言葉が背中越しに響く。
その言葉に、僅かに目を見開いたがゆっくりと、一音一音確認するように
「それもそうですね」
と、呟いた。
 
「言っただろう?
 君と私は同じだと。」
「僕は、あなたと同じにはならない」
「君は私と同じだ」
「違います」
 
 
 
 
 
 
 
どこかで誰かの声が聞こえる。
――違います。僕は、あなたと同じではない。
誰だろう。
誰かが、誰かと争ってるような少し厳しい声音、だけど何処かで聞いたことのある声が、どこかぼんやりと遠くで響いている。
―こらこら、喧嘩は止めろ、お前等。
と、艦内で声を張り上げて仲裁するように声を出そうとするが、途中でその声が肺の中に消えていった。
 
 
 
僅かに響いたこの場には響き得ない第三者の声が、二人にも届く。
「ほお。催眠下にあっても、『外』の私達の声が届いたか。
 君、もしかたしたら彼にも君と同種の力があるかもしれんな。」
と感心したように藍染が呟き、
さん・・・あなた・・・一体・・・」
と、は驚いた様子での方を振り返り、じっと見ていた。
アトガキ
昔の業を背負ってるのは,何も庭球主だけじゃないってことですね。
神隠しは尸魂界で死神化・・・は勝手な私の設定です。
2017/07/20 書式修正
2007/06/19 up
管理人 芥屋 芥